もう一方の主役は「東急パワーサプライ」

東急パワーサプライが世田谷線の再エネ100%電車運転を記念して東急線内に掲出したイメージビジュアル。 画像:東急

話を東急世田谷線に戻して、再エネとは何か。資源エネルギー庁の資料には、「太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスといった非化石エネルギーで発電する電力。温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギーの安全保障にも寄与できる有望かつ多様で重要な低炭素の国産エネルギー源」とあります。

世田谷線に再エネを取り次ぐのは、東急グループの東急パワーサプライで、東急電鉄の親会社の東急と、東北電力が共同出資して2015年10月に設立されました。電力の小売り業とガスの取次業を手掛けます。こちらも世田谷線と同じく歴史は古く、ルーツは1918年設立の田園都市株式会社にさかのぼります。1938年に玉川電気鉄道を合併しましたが、玉電は当時の多くの電気鉄道事業者と同じく電力事業を手掛けていました。その後、2000年から2004年の規制緩和で電力の小売りが解禁され、沿線中心に電力提供を目指して設立されたのが東急パワーサプライという流れになります。

日本初の再エネ100%電車になる

話を進めて、東急世田谷線と再エネの関係を東急の交通環境大賞の資料で見てみましょう。ポイントは次の3点です。

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①東急世田谷線が東北電力グループの保有する水力・地熱発電所で発電された、再生可能エネルギーの電気で運行される日本初の再エネ100%電車となること。
②再エネ100%電車となることにより世田谷線の二酸化炭素排出量がゼロとなること。
③電車という生活者に身近なインフラを通じて再エネへの理解と、その普及促進に加速を掛ける社会的な意義を持った取り組みであること。

もう少々かみ砕けば、再エネ100%電車は東急パワーサプライと東北電力には「再エネへの社会的関心の喚起」、東急電鉄には「環境に配慮した持続可能な街づくりへの鉄道事業者としての貢献」、沿線住民には「再エネ電車を通じて〝環境の時代〟の到来を実感し、環境社会を考えるきっかけになる」と、3者それぞれにメリットをもたらし、インパクトを与えます。

「全国の電車がもっと再エネで走るようになってほしい」

前章で挙げた、「沿線住民が環境社会を考えるきっかけ」。新聞にこんな高校生からの読者投稿が載ったといいます。

「東京・世田谷の住宅街を走り、私も利用する東急世田谷線が、水力と地熱の再生可能エネルギーだけを使った電車の運行を始めた。再生可能エネルギー100%で電車が常時運行するのは日本初だという。地元の人たちに親しまれている世田谷線が、環境にも配慮することで、地域とのつながりが深まり、エコな電車として全国的にも知名度が上がるのではないか。世田谷線だけでなく、全国の電車がもっと再生可能エネルギーを使って走るようになってほしい」

「Make the Sustainable Growth~持続可能な成長を目指して~」

2021年9月上旬まで、阪急・阪神・東急の三社協働でSDGsトレインの運行が行われています。写真は東横線などを走る東急の「美しい時代へ号」 写真:鉄道チャンネル編集部

東急電鉄は鉄道7路線、軌道1路線、全8路線で97駅の陣容です。年間約11億人、1日当たりでは約325万人が利用します(2019年度)。2018~2020年度中期3か年経営計画では、スローガンを「Make the Sustainable Growth~持続可能な成長を目指して~」としています。

なお、具体的には、2030年に目指す企業像として「省エネと再エネの最適利用を通じた低炭素・脱炭素社会への貢献」「資源の有効利用と生態系配慮の推進による環境型社会への貢献」を掲げ、「2050年までに事業で使用する電力を再生エネルギー100%で調達する」とします。

2018年以降、田園都市線に2020系、大井町線に6020系、目黒線に3020系と、エネルギー性能に優れた新型車両を矢継ぎ早に投入。地下駅になった渋谷駅には、世界初の大規模自然換気システムを採用します。自然熱を換気や空調の熱源に利用。ホーム床下や天井には冷却チューブを張りめぐらせ、冷水を循環させる放射冷房方式を採用します。