この、桃山式の純和風2階建て建造物が、東京→習志野→千葉→稲毛と3度も移設し、しかも京成電鉄との関わりがあったとは―――。

ここは千葉市美浜区稲毛海岸。いまは千葉トヨペット本社屋として、1899(明治32)建設当時の風格をそのままに、いまもこうして活かされている。

この建物、京成電鉄の谷津遊園に「楽天府」として存在していたころを記憶する人も少なくない。

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設計は、明治の建築界の重鎮、妻木頼黄 工学博土と武田五一。もともとは、日本勧業銀行本店として東京麹町区に建築した建造物で、施工は大倉土木組、現在の大成建設。

日本勧業銀行本店として28年間、役目を果たし、最初の移設が起こる。

日本勧業銀行→京成電気軌道

当時の京成電気軌道(京成電鉄)が、この桃山式純和風2階建て建造物を大正時代に2万5千円で購入。京成電気軌道が運営していた谷津遊園(習志野市)に移設され、楽天府という名がつけられた。

この谷津遊園への最寄り駅だった谷津遊園地駅は、京成花輪駅(現 船橋競馬場)から分岐した谷津支線が結んでいた。

谷津支線と谷津遊園地駅は、1934(昭和9)年に廃止。その後も楽天府は坂東妻三郎プロダクションの撮影場として活用され、1940(昭和15)年、2度めの移設へ。

京成電気軌道→千葉市→千葉トヨペット

習志野にあった谷津遊園からこんどは、千葉市へと渡る。役目は、千葉市役所庁舎。桃山式純和風2階建て建造物は、3番めの地で20年、市民の集う場所として親しまれた。

そして、3度めの移設が起きたのが、1963(昭和38)年。千葉市新市庁舎が完成し、役目を終えた桃山式純和風2階建て建造物を保存・復元する方向で手をあげたのが、千葉トヨペットだった。

千葉トヨペットは、この建造物を無償で譲り受け、1964(昭和39)年秋から、当時の金額で1億7千万円をかけて復元。1965(昭和40)年10月に完成させた。

千葉市美浜区稲毛海岸にある千葉トヨペット本社屋は、旧市庁舎とほぼ同じ原型を保った2階建て。

躯体は鉄筋コンクリート造に変更し、屋根は建築当時と同じ木造銅葺を踏襲。正面玄関の車寄せ部分や外観の色彩などは、当時の姿をそのままに、風格も損なわないよう再建したという。