これから千曲川橋梁を渡る記念列車を背にテープカットが行われた

2021年3月28日、上田電鉄別所線がおよそ1年5ヶ月ぶりに全線で運転を再開しました。

別所線は上田駅―別所温泉駅間(11.6km)を結ぶ長野県の鉄道路線。通勤通学や高齢者の通院などに活用される地域の足であり、同時に「信州の鎌倉」別所温泉へのアクセス路線としても知られています。

上田駅―城下駅間の千曲川橋梁は今からおよそ97年前、大正13年8月に架設されたもので、上田市や上田電鉄の象徴たる「赤い鉄橋」として親しまれていましたが、2019年の台風19号(令和元年東日本台風)により崩落。以来、上田電鉄や工事関係者のみならず、上田市や国土交通省、地元利用者らが一丸となって早期復旧に向けて尽力してきました。

総事業費の97.5%を国が負担

事業報告会では復旧の経緯説明や記念映像の上映が行われた(提供:上田電鉄)

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復旧にあたっては、千曲川橋梁全体を上田市が保有することで、国の特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助を活用。実質的に総事業費の97.5%を国が負担しました。

国交省は(上田電鉄に限った話ではありませんが)代替バスの補助制度で代替輸送を国として支援。地元の方々や全国のファンも、募金を募ったり早期復旧のための署名活動を行うなどして、532日間にわたる復興を支えました。

復旧事業は被災直後から始まり、11月には堤防応急復旧が完了。12月から左岸堤防側のG5桁撤去工事に入ります。その後、2020年6月~10月の出水期における河川内工事一時中断を経て、2021年1月24日にG5桁の仮設、2月14日にレールの接続が完了し、3月にはモーターカーによる試験走行や北陸信越運輸局による検査などが行われました。

提供:上田電鉄
提供:上田電鉄

前日となる27日には乗客を乗せずに千曲川橋梁を走行し(乗客は上田駅~城下駅間を代行バスで移動)、3月28日に無事全線運転再開となりました。

3月27日、千曲川橋梁を行く試運転列車

一番列車は5時55分発 記念列車は11時13分ごろ橋梁を通過

出発式の様子(提供:上田電鉄)

一番列車は5時55分 上田駅発 下之郷行。上田駅ホーム上では出発式も行われ、全線再開を祝う関係者や地元客らおよそ200名弱を乗せた列車が復旧した千曲川橋梁を越えていきました。

出発合図を行った児平駅長は、全線運転再開にあたり「上田市民はもとより、全国からあたたかい応援をいただきました」と感謝を述べ、これからも安全安心を第一に運行していくと語りました。

出発式で印象的だったのは児平駅長のエピソード。2019年当時は本社勤務で、当日は台風の接近対応を、翌日からはダイヤの作成や代行バスの手配を行っていたそうです。2020年4月から上田駅に異動となり、復旧を願う利用者の声を直に聞くことで、別所線が愛されていることを実感したといいます。

千曲川左岸堤防では11時から別所線全線開通セレモニーが行われ、11時13分ごろ、関係者や地域の方々を乗せた記念列車が到着。地域の想いを乗せて千曲川橋梁を通過していきました。

上田電鉄は28日の運賃を無料とし、平日ダイヤで運行 乗車数に制限をかけながら、多くの乗客を運んだ

文/写真:一橋正浩