「お粗末で、あきれている」(川勝静岡県知事)

ここで気になるのは、国交省の発表に対する静岡県の受け止めです。川勝平太知事は2023年10月23日の会見で、国交省のポテンシャル分析に言及。「お粗末で、あきれている」と、かなり厳しい言葉で批判しました。

さらに、「なぜ調査に長時間を要したのか。そもそも民間鉄道事業者(JR東海)のダイヤは国が決めるものではない」と疑問を投げ掛けました。

しかし、川勝知事は調査を全面否定というわけでなく、「調査に感謝する」と一定の理解を示した上で、「今後、国交省から説明があるとのことなので、その際にいろいろと聞きたい」と続けました(発言は静岡県の公式YouTubeチャンネル「ふじのくにメディアチャンネル」から)。

26回にわたる有識者会議を開催

ここで、なぜリニア問題がこれほどこじれてしまったのかを考察します。最初にお断りすれば、本コラムは特定の考えを支持するものでなく、現状を極力客観的に分析するという意図は十分にご理解願いたいと思います。

JR東海と静岡県の考え方の違いが表面化したのは2017年です。大井川の水資源問題に関して、川勝知事が「JR東海にトンネル湧水の全量戻しを求めてきたが、誠意ある回答はない」と発言。生物多様性への影響や大量発生する残土への懸念も加わって、工事がストップしました。

国交省は2020年、両者の仲裁に入る形で有識者会議を提案。同年5月から直近の2023年9月まで、26回の「リニア中央新幹線静岡工区有識者会議」が開催されましたが、双方が納得する形での結論は得られていません。

マスコミ報道の範囲ですが、静岡県がリニア着工を認めないことをめぐり、周辺自治体との見解の相違も発生していると聞きます。〝リニア静岡問題〟が極力円満な形で決着することを願いつつ、本コラムを終えたいと思います。

記事:上里夏生