「長崎だけにあるくいもん」っていうと、何を思い出しますか? ちゃんぽん、皿うどん、カステラ、トルコライス……とかでしょうか。

お盆休みも終わりに近づき、メールや電話がいつもどおりに鳴り始めたころ。遠くに行く予定もない、行きたいとこもない、人脈や友だちもない、趣味や夢中になるものもないというナイナイ中年が突然、ある衝動にかられました。

ハトシ喰いたい。

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ハトシ喰いたい、ハトシ喰いたい、ハトシ喰いたい……。その衝撃的な揚げもんに出会ったのは10年ほど前。営業先へ前泊入りし、長崎駅前のホテルで荷物をおろし、中町のバーに入ったとき。

「ハトシってなんですか」

瓶ビールを片手に、一見客感丸出しの顔で店主に聞いてみると、説明にうなずいているだけで「喰ってみてえ!」と思ってきました。ハトシって何よ? そんな人には、「長崎伝承ハトシ」を出す山ぐちのホームページに行くと、なんとなくその実態がつかめます。こう記されています。

――――「ハトシ」は、「海老のすり身」などを「食パン」で挟み、油で揚げたものです。「ハトシ」が中国から長崎に伝わったのは、明治の頃と言われています。「ハトシ」は、長崎の料亭で卓袱(しっぽく)料理の一品となりました。その後、長崎の一般家庭料理になります。それぞれのご家庭での「ハトシ」は海老に限定せず、挽き肉、魚のすり身など色々な素材が使用されています――――

出張中にふらっと立ち寄ったバーでは、伊万里焼か三川内焼か波佐見焼かと想う皿に、格子状に並べられ、マヨネーズとケチャップの2色が添えられて出てきた。このアッツアツのハトシが、ジモンさんふうにいえば、脳天直撃のうまさでした。

その出会い以来、毎月の長崎出張で欠かさず、ハトシめぐりを入れ込んでみました。で、いつしか、これを家族にも「味わわせてあげてえ」と思うようになり、土産もののハトシを探しました。

そして空港で売っている、長崎一番の「ハトシロール」に行き着きます。その場でも揚げたてをザクッとイケますが、ここでは冷凍ものを。プレーン、えび、チーズの3種をひとつずつ買って、ウチで揚げるわけです。間違いなくみんな「うっめーっ」ってなるわけです。「もう長崎行かなくていいじゃん」ってとこまで行き着いちゃうわけです。

「長崎のうまいもん、いっぱい食べたいなら、やっぱり行くしかないね」と話しながらも、「あれ!? これはあそこに行けば喰えるし、それはあそこに売ってる」ってことになり、「ウチと近所でじゅうぶん」なダメ家は、東京に行ったときにハトシロールを買い、近くのリンガーハットにクルマで向かってしまうわけです。

もう明らかにゲス。無粋、丸出し。

でもいま、「ハトシ喰いたい!」と思えば、空でも鉄路でも、ドライブでも、かんたんに行けるようになりました。近い将来、長崎新幹線なんていう高速規格の軌道ができあがると、函館(いや札幌?)から新幹線を乗り継いで長崎入りできるとか! 地元のリンガーハットや都内で売ってるハトシロールもいいけど、自分の重いケツを叩いてでも、現地に行って「うっめーっ」ってやるべきじゃないかと、思ったりもします。