※ラファエル前派の軌跡展公式ホームページから

ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展(主催:三菱一号館美術館、共催:産経新聞社)が、3月14日(木)から東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催されます。19世紀イギリスで結成された芸術家グループ「ラファエル前派」の作品約150点を展示されます。風景画の巨匠J.M.W.ターナーをはじめ、エドワード・バーン=ジョーンズ、ウィリアム・モリスなどヴィクトリア朝の英国を代表する芸術家たちの傑作が一堂に会します。

ジョン・ラスキンとラファエル前派は、言わば19世紀になって初めて歴史に現れた意識的に反進歩的な潮流です。18世紀にはフランス革命が起こり市民社会が支配的になり、産業革命による資本主義が中世の循環的時間に直線的な進歩観を持込みました。

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19世紀には社会の近代化が急速に進行します。一方のラスキンは、富裕なワイン商人だった親によって極めて貴族主義的な教育を受けます。ラスキンは学校に行かず、両親と家庭教師によって聖書を中心とする教育を受けました。またヨーロッパを広く旅することで様々な自然に触れスケッチをする様になります。

長じてラスキンは、画家のターナーの作品に魅惑されコレクションします。しかし、ターナーの描いた裸婦像を焼却処分してしまうのです。

※ラファエル前派の軌跡展公式ホームページから

ラスキンは29歳の時エフィー・グレイと結婚しますが、エフィーは後にラファエル前派のジョン・エヴァレット・ミレーと再婚します。その時にエフィーは離婚裁判でラスキンとの結婚生活が実質的には無効であったと証言、処女のままミレーと再婚したことがスキャンダルになります。エフィーはミレーとの間に8人の子供を産みました。どうやら、ラスキンは成熟した女性を嫌悪した様です。

このジョン・エヴァレット・ミレーの代表作「オフィーリア」(1852)をロンドンに留学した夏目漱石が激賞、後に小説「草枕」の中で取り上げ日本でもミレーの名が一躍高まりました。

一方、ラファエル前派は、その名の通り「ルネッサンス絵画の完成者ラファエロ・サンティ(1483-1520)以前の簡素で素朴な絵画に戻ること」を目指したグループです。実際は、ルネッサンス以降のアカデミズムの古典偏重の美術教育に異を唱えたのでした。

ラスキンは、当時一流の美術評論家でした。ラファエル前派がマスコミから激しく攻撃された際に彼等を擁護する論陣をはりました。「神が創造したもうた世界」をそのまま描き写すことを尊いとしたラスキンの影響下で短い期間でしたがラファエル前派は活動しました。

これはラファエル前派の代表的画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828-1882)の代表作「受胎告知」です。(2007年テート・ブリテン美術館で撮影)「受胎告知」は中世からルネッサンス以降にかけて極めて多く描かれた画題ですが、ロセッティの描き方は伝統を無視していて、発表当時は強く批判されました。

伝統では処女マリアの敬虔な驚きと喜び、けがれなさが表されてきましたが、ロセッティのマリアは、神経症的で不可解な姿勢を示しています。聖母のアトリビュートである白百合と空中に浮かぶ天使とマリアの光輪が辛うじて伝統的な受胎告知を示しているのです。寝起きのマリアのモデルは、ロセッティの妹クリスティーナと言われています。いずれにしても、ラファエロの穏やかで調和に満ちた世界とは全く異なっています。

ちなみに「ラファエル前派の軌跡展」ポスターの女性は、ロセッティの描いた唯一の裸体画「ヴェヌス・ヴェルティコルディア」からですが、オリジナルに描かれた乳房の部分はトリミングされています。※トップ画像参照

※ラファエル前派の軌跡展公式ホームページから

ちなみに上でジョン・エヴァレット・ミレーが描いているのがラスキンの奥方だったエフィー・グレイです。

若い頃にラスキンの著作に心酔し、ロセッティの信奉者だったウィリアム・モリスは、社会主義者でした。彼は産業革命と近代化による大量生産で失われていく職人技を残そうとしました。

「ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展」を観に行きましょう

《会場》
三菱一号館美術館

《会期》
2019年3月14日(木)〜6月9日(日)

《開館時間》
10:00〜18:00

※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜の他、開館9周年となる4月6日、6月3日~7日は21:00まで)

《休館日》
月曜日(3月25日、4月29日、5月6日、27日、6月3日は開館)

《入場料・当日券》
一般 : 1,700円 高校・大学生 : 1,000円 小・中学生 : 無料

※障がい者手帳をお持ちの方は半額、付添の方1名まで無料

《前売券》
一般のみ : 1,500円

※ペア券はチケットぴあでのみ販売します。
※大学生以下、ペア(一般)は前売券の設定はありません。

《主催》
三菱一号館美術館
共催 産経新聞社

《問い合わせ》
03-5777-8600(ハローダイヤル)

公式ホームページ


ターナーから印象派が生まれたという説もあって、ターナーはとても急進的な画家でした。ウィリアム・モリスのデザインは現代にも脈々と受け継がれています。オスカー・ワイルドやオーブリー・ビアズリーの活躍する世紀末を目前にした英国の19世紀はとても魅力的!

ところで、ワイルドの師匠だったアメリカ人画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの半ば抽象画の様な新しい絵画をジョン・ラスキンは理解できず、酷評したためにホイッスラーに名誉毀損で告訴され敗訴します。これがラスキンの黄金時代の終焉でした。ホイッスラーの著書『The Gentle Art of Making Enemies/人に嫌われる優雅なやり方(art)』にその経緯が一方的に書かれています。(笑)

ちなみにカール・マルクスとラスキンは同年代です。彼等は同じ頃、ロンドンにいたのです。

信じられますか?