読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その17

2019.06.23

川辺謙一さんの「鉄道に潜む見えない調和」(2017年)は、本書向け書き下ろし。川辺さんは1970年(昭和45年)生まれ。鉄道技術・鉄道工学に詳しい技術系出身で鉄道技術を紹介する著書など多数あります。鉄道のハード系に弱い私など勉強せねばならないのですが・・・。

鉄道に潜む見えない調和、とは、つまりダイヤグラムに沿って複数の鉄道会社の複数の路線が利用者の利便性を考慮した接続を保ちながら運行されているという「調和」を指しています。

このダイヤグラムが好きな鉄道趣味と時刻表が好きという鉄道趣味はどうやら違う、という程度は想像できますが、専ら時刻表で鉄道旅の行程を組み立てて遊んでいる私などにはダイヤグラムの世界は分かりません。

映画『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ『交渉人真下正義』(2005)にフィクショナルな「線引屋」(金田龍之介さん)が登場したのを観て、すっげえなぁ、と思ったレベルです。

著者の川辺さんは鉄道の調和をオルゴールに置換して述べています。この複雑なダイヤグラムを運行を維持しながらメンテナンスすることや、一部のダイヤに支障が発生した際の対応などについて、川辺さんには東京圏のJR在来線を管理する東京総合指令室を取材した『東京総合指令室』(2014)という著作もあって詳細はそちらをどうぞ、という按配です。

川辺さんは、さらにスマホが普及したことによって鉄道利用者自身が個々に鉄道のサービス状況をリアルタイムで知りながら移動を選択することによる未来に触れています。これによって鉄道を利用するスタイルは変化が予想できますが、その変化の実際は簡単に予測できなさそうです。

これこそビッグデータを処理することによって初めて予想できる世界かもしれません。個々の鉄道会社にとっては未来を予測し事業計画を起てるに必須のデータになってゆくのでしょう。

混んでいるのは嫌いなので遠回りをする移動者、急いでいるので混雑を受容する人、小さな子供を連れている場合、体調が思わしくない場合、移動コストに敏感なユーザー、青春18きっぷの様なフリーきっぷを所持している場合、など、様々なケースが想定されますし、更に年齢・性別から始まる個々人の資質による行動選択も加わります。

JR東日本のデータでは一週間に鉄道を利用する人は首都圏で約9339万人。1日約1334万人です。これをデータ化するのは・・・悪夢の様ですが・・・。この先、人口は減っていきますし、労働人口も減り、働き方も変化するかもしれません。大量の移動者を運ぶことで成り立っている鉄道の未来はあくまでも明るくはないのです。

次いで第3部 鉄道で見つけたもの に入ります。冒頭には50歳で亡くなった詩人木下夕爾の「晩夏」が置かれています。

軽便車が来た
誰も乗らない
誰も下りない

柵のそばの桼の葉つぱに
若い切符きりがちよつと鋏をいれる

良いなぁ。自動改札や無人駅しかない現代には、見えない風景。

(写真・記事/住田至朗)


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