読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その16

2019.06.22

改めて水戸岡鋭治さんの「鉄道をデザインする」(2009年)。

JR九州から九州新幹線のデザインの依頼があったのは2001年の暮れのことでした。
担当者から具体的な条件などを提示されたわけですが、私の頭の中にあったのはJR九州の初代社長、石井幸孝さんが列車デザインの会議の際にいつも言っていた言葉でした。
「いまだかつて見たことのないものを作りたい」
私がJR九州の仕事を始めたのは1987年のことですが、社長が最初に言っていたのがその言葉だったのです。本書 p.289

九州新幹線800系は700系をベースに作られています。水戸岡鋭治さんは「あのカモノハシの顔」が好きではなかったうえにJR九州の中にも「あのカモノハシだけは九州に入れてくれるな」という人がいた様です。

700系を製作した日立製作所から700系のデザイン最終案は2つあって「カモノハシではない案も工場にある」と聞いた水戸岡さんはその設計図を元に800系をデザインしたのです。

そして800系新幹線で最も特徴的な前照灯の「縦眼」です。

列車の外観デザインで先頭車の顔のデザインはとても大切です。子供がすぐに覚えることができるような顔、後で絵に描けるような個性的な顔をもつ必要があります。しかし鼻を長くしただけでは、まだ印象に残る顔にはなっていません。そこでふと浮かんだのが私の師匠の言葉でした。デザイナーの林英次さんが半年くらい前、乗り物のデザインについて話した際、呟いた「これからはタテ目だ」という言葉です。通常、ヘッドライトの電球はヨコに並べて前方を照らすものですが、それを縦に並べてしまえということです。本書 p.291

「タテ目」と言えば、自動車ですが初代の日産セドリック(1960-1965)を思い出してしまいます。

800系の内装は、プライウッドの椅子や楠の妻壁、山桜のロールブラインドなど「つばめ」の車内には多くの自然木が使われています。

超高速で走る列車に合った自然木の使い方が見えてきました。民芸品のような木の使い方ではなく、モダンな北欧家具のような木の使い方です。
とはいっても、住宅と列車は違った空間です。列車は基本的には鉄とアルミでできた箱であり、また不燃性について厳密に考えていかなければならないので、基本的に鉄とアルミを使用しなければなりません。
では、どうするか。例えば客室の仕切りとなる妻壁は、基本はアルミ製の壁でその表面に0.15ミリという薄さ楠の板を貼ることにしました。壁だけではなく木の椅子も同じ様に基本はアルミで、まわりを1ミリほどの薄い板を11枚重ね、型に入れて加熱成形したプライウッドで覆う形にしました。本書 p.294

水戸岡さんは、800系以前の新幹線車両が地域性と無関係だったことを指摘しています。

確かに九州産の木材に拘った内装はそれまでの事務的な新幹線車両の内装にはありません。しかし、木材は工業製品ではないために木目や色などの細かな部分での差異があって、列車という工業製品システムに合わせるためにはたいへんな手間暇がかかりました。しかし、この丁寧な手作業が空間の居心地良さ、温もりを醸し出すことになると水戸岡さんは言います。

後半は「ななつ星」をデザインする です。

その前にデザインには、現場で意図を実現できる職人の技術が必須であると言うコトです。水戸岡さんは、「つばめ」や「ソニック」の車内装飾はアルミパネル電解着色の色を「どうにかできる」匠がいたから可能であったで、その匠が亡くなってしまうと、もう同じ技が使えないのです。

「ななつ星」は世界で最高の木を使うというコンセプトで進められましたが、コストを抑えて職人が腕にヨリをかける方法として超一流の匠を引き込むことをあげています。人間国宝十四代目酒井田柿右衛門がアーティストではなく「職人」として「ななつ星」の洗面鉢を製作したのです。

職人のリストに十四代目柿右衛門と自分の名前が並ぶのですから、職人は参加して最高の仕事をしたくなるのです。

これは、もうデザイナーと言うよりもプロデューサーの仕事ですね。
兎に角、水戸岡鋭治作品は数が多いので、全国で目にします。文字というかレタリングの使い方が独特なので、多くの場合、あっ 水戸岡デザインだ!・・・と見た瞬間に分かります。

(写真・記事/住田至朗)

TAGS JR九州 書籍 雑誌


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