2020年10月4日(日)早朝、JR大阪駅11番ホームへ山陰の特産品を積んだ「WEST EXPRESS 銀河」が到着しました。

特産品は奥出雲のブランド米である「仁多米」やトマトジュースなど、合計15箱。松江駅での積み込みはJR西日本山陰開発、JR大阪駅での積み下ろしはジェイアール西日本マルニックスが担当しました。JR西日本 鉄道本部 営業本部(マーケティング戦略)課長 内山興さんによれば、地方の特産品を貨客混載で運ぶのはJR西日本の在来線では今回が初めてとなります。

縦縞の装飾は昔の荷物車についていた鉄格子をイメージしたもの
4号車フリースペース「遊星」に特産品を15箱積み込んだ

本年9月11日に運行を開始したJR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」は、地域活性化に貢献するという使命を帯びた列車です。地元の生産者の方々が列車内に乗り込み、フリースペースを活用して乗客向けに特産品の販売などを行う計画もありましたが、残念ながらコロナ禍における三密回避のため中止となりました。

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現在も分散乗車のための制限は続いており、地方から都市部への移動はままなりません。一方で、本来ならイベント用に使うはずだったスペースは空いており、松江―大阪間なら小荷物の取り扱いは可能です。このような状況において「何かできることはないか」と考えた末に実施されたのが今回の銀河輸送です。特産品は4日(日)、JR大阪駅2階アトリウム広場で開催された「山陰いいものマルシェ」で販売されました。

旅客用の列車に地方の特産品を積む――新型コロナウイルスの流行による需要減を補う施策のように見えますが、急に出てきた発想ではありません。JR西日本はかねてより事業としての貨客混載を検討しており、たとえば本年2月にはJR東日本と共同で北陸新幹線を用いた鮮魚輸送を行い、富山の海の幸を東京駅で提供しています(※現在も「富山湾の秋の味覚」フェアを開催中です。2020年10月末まで)。内山さんによれば、山陽新幹線での貨客混載も検討中とのことです。

東京駅で実施された「うまさ一番 富山のさかなフェア」の様子(2020年2月)

新幹線や特急列車を用いた貨客混載のメリットとしては「速達性」「定時性」などが挙げられますが、駅から目的地までの距離の遠さもあり、一概に他の輸送手段と比べて優れているとは言えません。また収益性だけでなく「旅客の移動導線をどう確保するか」「列車遅延等の異常時にどう対応するか」といった課題を解決しなければならず、事業化に至るまでにはいくつものハードルを越えていく必要があります。しかしながら、様々な実験を行う中で都度新しいサービスの開発を検討していかなければ、企業として時代の変化についていけなくなるのも確かなことです。

カメラのフィルムなどの小荷物を旅客列車で運ぶ「レールゴーサービス」も、現在では東北新幹線の東京~仙台と上越新幹線の東京~新潟間を残すのみ。大阪~金沢・富山間の「雷鳥レールゴーサービス」は2010年3月のダイヤ改正で廃止となりました。インターネットの普及といった時代の流れからサービスが縮小・消滅していった一つの事例ですが、一方で時代の流れに対応するために同じようなサービスが生まれる可能性があるというのは大変興味深いことで、今後の動向に注目したいところです。

文/写真:一橋正浩