移住めざす人がいま注目する“島根ディスタンス” そのリアルを山奥の鍛冶職人に聞く! 幸せフライパン物語
「島根のような、都会から遠い地の職人たちが生み出す焼き物や織物、食べ物といったプロダクトのほか、人柄や景色といった無形の価値こそ、いま人々の心の距離を縮めてくれるものだと思います」
―――そう語るのは、島根県安来市広瀬町にある「鍛冶工房 弘光」で鍛冶屋を営む、小藤宗相(ことうしゅうすけ)さん、50歳。「鍛冶工房 弘光」は、奥出雲地方の山間で、江戸時代から10代続く鍛冶屋として知られている。
このコロナ禍に“島根ディスタンス”なる県独自の距離感を発見したという小藤さんに、島根職人がつくりだすプロダクトの可能性、つくり手と使い手がつむぐ新しい価値観などを聞いた。
小藤さんは、信州大学経済学部を卒業後、都内の企業や島根県内の美術館で学芸業務を務め、生まれ育った「鍛冶工房 弘光」へ。
島根県東部・奥出雲地方は、古くからたたら製鉄が盛んに行われ、その鉄を使った日本刀をはじめ、農工具刃物製造も行われていたエリアで、「文化度も高く、鍛冶職人の技術が磨かれてきた地域」と小藤さん。
刀や燭台のノウハウを応用した「鍛冶屋のフライパン」
物産展・展示会の相次ぐ中止でコロナ禍の逆境に立たされたこの春、以前からの「フライパンをつくってほしい」という知人の依頼に背中を押され、フライパンの制作に取り組みました。
初の試みでしたが、フライパンの柄は、刀の鍔を鍛えるさいの持ち手だった柄を、フライパンのパン部分は燭台の台座をつくる技術を応用したため、最初の試作品はあっという間に形になりました。
このフライパンは鍛冶屋の技術が詰め込まれていて、市販の量産モデルとは違った機能性・つくり・風合い・肌感があります。
「みんながちょっとずつしあわせになるフライパン」 に結実
フライパンの完成後、鍋敷きや手入れ用たわしがあれば便利だなと思い、それらをフライパンとセットで販売することを思いつきました。
そこで、同様にコロナ禍で逆境に立たされた職人仲間たちに依頼し、この鍛冶屋のフライパンとセットになるプロダクト、組子・木工の鍋敷き、革のフック、手入れ用たわし、そしてセットを包む石州和紙のバッグもそれぞれが持つ技術を集めて制作しました。
このフライパンセットは、まずそれぞれの“つくり手”が新たな仕事を得て“ちょっとしあわせ”になる。そして買ってくれた人、その家族などの“使い手”が、このフライパンで調理した料理でおいしさ・楽しさを感じる、“ちょっとしあわせ”になる……ということで、「みんながちょっとずつしあわせになるフライパン」と名付けました。
島根の“距離“と目に見えないものが“つながり”を生む幸せ
コロナ禍、ソーシャルディスタンスによって物理的な距離がさらに大きくなったからいまだからこそ、人とのつながりやそのあたたかみを感じるモノ・コトに注目が集まっています。
たとえば、このフライパンセットひとつをとっても、スーパーや量販店で売っている量産品をあえて選ばず、はるか遠い、まだ訪れたことのない山間の鍛冶屋でつくられたものを選んでくれる人がいる。
きっと、こうした人は“いま見えている世界じゃない、そこにない価値“を実感しているのでしょう。
―――「心の距離を縮めてくれる役を担う島根、島根のプロダクトを手にして実感してほしい」という小藤さん。いま、小藤さんたちによるこうしたクリエイティビティに共感した“使い手”やファンが、適度な“島根ディスタンス”に居心地のよさを感じ、移住してくる人が少しずつ、増えているという。
◆鍛冶工房 弘光
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◆島根の伝統技術を支える作家5人を紹介
シマネRプロダクト
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◆島根県への移住・定住の総合相談窓口
ふるさと島根定住財団
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◆しまねUIターン総合サイト
くらしまねっと
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