カルデラ地形を走る鉄道

南鉄高森線は立野―高森間の17.7kmで、駅数は両端を含めて10駅。現在は立野―中松間が運休中、中松―高森間7.2kmで営業運転します。

不通区間を含め、南鉄にバーチャル乗車しましょう。南鉄は立野駅を発車すると、すぐに深い谷を渡ります。川は白川。復旧工事中の第一白川橋りょうは全長166mで、水面からの高さが60m以上あります。橋りょう周辺は、九州を代表する鉄道のビュースポットとして知られます。立野から次駅の長陽までは、南鉄全線の半分以上に当たる10.5kmもあります。

南鉄を代表する絶景スポットの第一白川橋りょう。

中松から終点の高森駅までは、車窓に阿蘇山が広がります。鉄道が走る阿蘇カルデラ(火山活動でできた窪地)は、湧水の宝庫です。カルデラ内の鉄道は、世界的にも珍しいそうです。

ADVERTISEMENT

ここで少々の〝脱線〟をお許しいただければ、南鉄には現在は運休中ですが、「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」という、ひらがなにすると22文字ものユニークな名前の駅があります。余りに長過ぎるせいか、地域住民も「白水高原駅」と略称で呼称したりします。

同駅は2020年3月まで正真正銘、日本最長の駅名でしたが同月、京福電気鉄道北野線に、かな26文字の「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅」が開業。さらに2021年1月には、かな32文字の富山地方鉄道富山軌道線(路面電車)「トヨタモビリティ富山Gスクエア五福前(五福末広町)停留場」が開業して、長名駅のチャンピオンは1年足らずで入れ替わりました。南鉄にはもう一つの〝長名駅〟、「阿蘇下田城ふれあい温泉」もあります。

先を急ぎましょう。南鉄のトロッコ列車には、本社のある高森駅からの乗車になります。列車は貨車を改造した3両のトロッコ客車の両側をディーゼル機関車で挟み、いわゆるプッシュプル運転をします。折り返しの中松駅付近では烏帽子岳、中岳といった阿蘇の中央火口丘が眺望できます。阿蘇の山並みは、その山容からお釈迦様の寝姿にも例えられると聞きました。

高森駅に停車中のトロッコ列車。ヘッドマークを付けて運行されます。

豊肥線への乗り入れ構想も

熊本地震での被災で、一時は廃線の危機に立たされた南鉄ですが、国は鉄道施設の災害復旧調査を直轄事業として実施。国土交通省は地震翌年の2017年4月、調査報告書を公表しました。

主な被災箇所は先述した第一白川橋りょうのほか、犀角山、戸下の2つのトンネル。橋りょうは橋脚部に変状が見られ、修復は困難で、架け替えることにしました。トンネルは、ひび割れや内壁のはく落が見付かりました。施設全体の修復には設計着手から5年程度が必要で、工費は全体で70億円前後と試算されました。

以来、急ピッチで工事が進められ、今春全面復旧した幹線道路からは2年強遅れますが、南鉄は2023年夏に全通の予定です。

新しいニュースでは、南鉄の沿線自治体などで構成する南阿蘇鉄道再生協議会が、全線運転再開に合わせてJR豊肥線への乗り入れを構想。JR九州との協議に入るそうです。地元が望むのは立野から2駅熊本寄りの肥後大津への直通運転で、実現すれば沿線住民の利便性向上に加え、鉄道による観光振興の効果も期待できます。報道によると、信号システムを改修すれば乗り入れ自体は可能だそうで、推移を見守りましょう。