目標速度の算出がATOの心臓部

JR常磐緩行線の自動運転イメージ。ATCの情報をつないでATOの目標速度をつくり出すことが分かります。(画像:JR東日本東京支社)

ATOの仕組みについては、JR東日本東京支社の発表資料をご覧いただくのが一番かと思います。若干の説明を加えれば、鉄道線区は「ここは時速〇〇km、ここからは××km」と最高運転速度が決まっていて、列車を速度通りに走らせるのがATC(自動列車制御装置)です。

これだけなら話は簡単そうですが(といっても列車速度を同調させるには、複雑なシステムが必要ですが)、速度通りに運転すると、どうしても急な加減速の繰り返しでカクカクした運転になりがち。乗り心地に悪影響を与えます。

カクカク運転を回避するのが、図にオレンジ色の点線で表記されたATO目標速度。あらかじめ設定された区間の最高速度や制限速度から、車上のコンピューターでなめらかな加減速曲線を描き出し、最終的には駅の定位置に停止させます。それこそがATOの中核の技術といえるでしょう。

2つのボタンを押すだけ

ダイヤ改正に合わせて始まった、常磐線の自動運転を実地に見ましょう。導入区間は常磐緩行線(通称)の綾瀬ー取手間全線で、詳細は後述しますが、同区間へのホームドア整備と一体化して輸送の安全・安定性向上を図ります。

JR東日本の車両で常磐緩行線を走るのは10両編成のE233系電車で、運転士は発車時に2つのボタンを同時に押すだけ。列車はスムーズに動き出し、駅に近付くと自動で減速、停車します。理論的には運転士は手放しでもOKですが、実際には常にハンドルに手をかざして(軽く握って)、異常時に備えます。先行列車が詰まっているなど、駅間で列車が停車した場合は手動運転に切り替わり、次駅の発車時から再び自動運転に入ります。

いいこと尽くめの自動運転にも、課題はあります。課題というよりテーマと呼ぶのが適切と思いますが、それは運転士の技術力維持。自動車も同じですが、鉄道の運転は経験の積み重ねの性格が強いので、年がら年中自動運転だと、いざという時に対応できない可能性も否定できません。個人的には心配無用と思うのですが、JR東日本東京支社は定期的に運転士の手動でも運転するそうです。

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