新幹線の車両基地を公開する意義 西九州新幹線や北陸新幹線の例から考える【コラム】
2022年3月半ば、JR九州が大村車両基地の一般公開を行いました。西九州新幹線が今年2022年9月23日に開業ということで、一足先に地元住民(など)を招いて車両基地をお披露目し、親しみをもってもらおうというわけです。
特筆すべきはN700S「かもめ」車両の見学もできたこと。N700Sそのものはすでに東海道・山陽新幹線でデビュー済みの車両ですが、「かもめ」は西九州新幹線向けに短編成化し、さらに車両のデザインに大きく手を加えています。
見た目は東海道新幹線の色違いといったところですが、座席はJR九州の新幹線・特急車両らしいものに変更されており、見学者の心に「秋からこの新幹線が走る」という期待感だけでなく、「これは九州の列車」という意識を抱かせたのではないでしょうか。
もちろんこうした試みはJR九州だけのものではありません。2022年現在、新幹線だけでも「北海道新幹線(札幌延伸)」「西九州新幹線(武雄温泉~長崎間)」「北陸新幹線(敦賀延伸)」と3路線の建設が進んでおり、車両基地や駅舎の一般公開・見学会が開催されています。
整備新幹線は鉄道・運輸機構が建設し、営業主体であるJRに貸し付けるというスキームで建設されており、費用の一部は国や自治体が負担します。税金を投入し、住民の生活に影響を与えるであろう新幹線を通すわけですから、「こんな施設ができます(できました)」とお披露目するのは当然の話。しかし、理由はそれだけなのでしょうか。本稿では、福井県が昨年開催した、県民限定の北陸新幹線施設見学会を元に考えてみました。
福井県は2021年、3つの駅と1つの車両基地を公開
福井県は2021年、あわら市の芦原温泉駅、越前市の越前たけふ駅、福井市の福井駅、そして敦賀市の敦賀車両基地の見学会を行いました。いずれも建設中の状態を公開したもので、参加者は一部報道陣や関係者を除き、県民に限りました。主催は福井県で、鉄道・運輸機構と福井県北陸新幹線建設促進同盟会が協力しています。
※当日の様子を納めた動画が福井県のホームページで公開されています。詳細は”【福井県民限定】北陸新幹線施設見学会を開催しました”のページをご確認ください。
中でも人気があったのは11月に行われた敦賀車両基地見学会。4つの見学現場の中でも一番の人気を誇り、250名の枠に600名弱の応募があったそうです。在来線の車両基地見学はメジャーですが、新幹線の車両基地は開業してしまえばなかなか中に入る機会がありません。
敦賀車両基地の内部の様子を説明したのは、建設主体である鉄道・運輸機構の方々。車両基地の完成イメージ図や構造を解説したパネルの前で、簡単なイントロダクションを行いながら参加者の質疑にも答えていきました。敦賀車両基地は仕業検査を行う車両基地であること、大阪延伸の際はこの車両基地はどうなるか、などなど……
時間は短いながら、参加された方々は貴重な車両基地の様子をしっかり目に焼き付けたようで、これからやって来る新幹線への期待に胸を膨らませていたように思います。
北陸新幹線敦賀延伸開業は予定より1年遅れて2024年春となりましたが、建設中の現場をありのまま見せ質疑応答にも丁寧に答えたことは、そうした不安を払拭し、相互理解を深める一助になったのではないかと思われます。
「在来線が運休しないようにしてほしい」
地元の方々に期待感を抱かせたり、詳細を説明することで知識を深めてもらう。しかし施設公開の意義はそれだけではない、と感じたこともあります。
北陸新幹線の取材とは別に、地元の方々と話す機会がありました。「北陸新幹線の延伸についてどう思いますか?」と尋ねたところ、一人だけ「北陸新幹線の延伸にお金を使うより、在来線を大雪でも止まらないようにしてほしい」と答えてくれた方がいたのです。
「雪で止まらない在来線」が現実的なものかどうかはさておくとして、開業前の新幹線よりは既存の在来線に手を入れる方が生活のグレードアップとしては直感的で分かりやすいものです。新幹線による経済効果については、すぐ隣に金沢という見本がありますが、マクロな経済効果を個人が実感するというのも難しい話。
新幹線のように巨大な事業であれば賛否両論あるのは当たり前のことですが、反対意見があるからやめましょう、とはなりません。そして事業を進める以上、情報は賛成/反対問わず、興味の有無に関わらず届けるべきです。
施設の一般公開や見学会を行えばメディアから情報が発信されますし、今はSNSの時代ですから参加者が口コミで広めてくれたりもします。「在来線が止まらないように」と答えてくれた方にも、届いたかもしれません。こうした施設のお披露目は、気運醸成だけではなく、より多くの方に知らしめる、PRとしての役割も強く担っているように思えます。
記事:一橋正浩