「全線無料デイ」実施の背景 2024年度から上下分離方式へ

近江鉄道は2016年に「現状のままでは鉄道線の維持は困難」として、滋賀県や沿線自治体と協議を行い、2024年度から「上下分離方式」へ移行します。列車の運行は従来通り鉄道事業者が行いますが、運行に必要な設備などは沿線自治体が保有するスタイルです(線路などの維持費も沿線自治体が負担)。

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※上記記事では近江鉄道の現状、上下分離方式への移行の経緯、バス転換と比較した際のメリット・デメリットなどを掲載しています。

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そうした状況で、しかもコロナ禍によって鉄道利用が低迷しているなか実施された「全線無料デイ」は、普段鉄道を利用されない方へのアピール、乗車のきっかけ作りといった狙いがあります。滋賀県は車社会ですから、鉄道に乗車されたことのない方も多く、「知ってもらう」「体験してもらう」ための施策を打つ意義は大きいでしょう。

「赤字なのにそんなことをやる余裕があるのか」といった意見も見受けられましたが、沿線のイベントや観光施設への送客による経済波及効果は無視できるものではありません。他県の事例ですが、たとえば2019年に「SAKURA MACHI Kumamoto」のグランドオープンにあわせて開催された「熊本県内バス・電車無料の日」では、県内ほぼ全ての公共交通機関が参加し、約2,500万円の支出費用総額に対して約20倍の経済効果が得られたと推測されています。

近江鉄道の「全線無料デイ」が実際にどれほどの効果をあげたかは今後細かく検証され、沿線自治体との話し合いの場や「近江鉄道パートナーズクラブ」のイベントなどで発表されていくのではないかと思われますが、推定で「普段の12倍のご利用があった」時点で沿線には少なからぬメリットがあったと考えられます。

もっとも、近江鉄道の手腕が問われるのはこれからです。運賃の高さや運転本数の少なさに加え、すぐ隣を走るJRという競合の存在、なにより「自動車」という便利な移動手段がある状況で、どうすれば自社線を移動手段として選んでもらえるか。上下分離へ向けて今後も目が離せない状況が続きそうです。

記事:一橋正浩

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