SLやELファンも楽しめる博物館

最初期の電車・デハ1形5号。ご覧のような木造車ですが、東武の特徴のパンタグラフ2基を備えています。営業運転を終えた後、1956年からは西新井工場の入換車に転用されました。本レポートで紹介した親子連れのお母さまは、この電車に乗車したことがあるそうです

東武博物館は会社設立記念事業の一環として、1989年にオープンしました。館内(一部屋外)には鉄道車両に限らず、バスやロープウェイのゴンドラも展示されています。

私鉄の博物館といえば電車を想像しがちですが、東武の初期は、SLが客車列車や貨物列車をけん引。戦後も21世紀の2003年まで、EL(電気機関車)が先頭に立つ貨物列車が運転されていました。その点、東武博物館は電車ファンばかりでなく、SLファンやELファンも楽しめる展示施設といえるでしょう。

初期の苦境を両毛地域、日光への延伸で脱す

博物館では、学芸員の方が東武の歴史や特徴を分かりやすく丁寧にレクチャーしてくれます。

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東武の会社設立は明治年間の1897年で、2年後の1899年に北千住―久喜間で営業運転を始めました。東京と北関東の栃木や群馬を結ぶ目的の鉄道でしたが、東京側は浅草手前の隅田川東岸、北関東側は埼玉県の利根川南岸で建設がストップ。初期の経営は苦戦の連続でした。

苦境を救ったのが、攻めの経営を実践した根津嘉一郎。利根川を渡る鉄橋を建設して、繊維産業が盛んな両毛地域(栃木・群馬県)、観光地の日光に路線を延ばします(浅草駅や東京スカイツリータウンの歴史は後編で取り上げます)。

東武のもう一つの基幹路線は、池袋が起点の東上線。こちらは大正年間の1914年開業で、当初は東上鉄道という別会社でした。

ところでこの東上線、東京から北西に進むのになぜ〝東上〟なのか。実は群馬県渋川市まで鉄道を建設するプランがあり、上州の「上」を名乗ったそうです。

DRC、スペーシア、そしてスペーシアX

屋外展示されるDRC1720系と日光軌道線200形。日光軌道線は日光駅前と馬返を結んでいた東武の路面電車で1968年に廃止されました

1960年代までは旧形車の多かった東武の車両群、イメージを一新したのは1960年に運転を始めた「デラックスロマンスカー(DRC)」の1720系です。

6両編成で、先頭部はボンネットタイプ。座席は3段リクライニング、ジュークボックスのあるサロンルームも旅のムードを盛り上げました。東武博物館には、「けごん」のヘッドマークを付けた、先頭車のカットモデルが屋外展示されます。

DRCの後継車として1990年にデビューしたのが、100系「スペーシア」。グッドデザイン賞や、鉄道友の会のブルーリボン賞を受賞した東武のフラッグシップ車両で、2006年からはJR東日本との相互直通運転で、新宿駅に姿を見せます。

そして、2023年7月15日にデビューするのがN100系「スペーシアX」。開発コンセプトは、「Connect & Updatable~その時、その人と、つながり続けるスペーシア~」。2023年前半は、新型特急のニュースが鉄道ファンの注目を集めそうです。東武博物館では2022年10月からモックアップを展示しています。