「大鐵は全国区、鉄道文化を後世に」

ここまで少々硬めの話題が続きました。後半は、鳥塚新社長の大鐵や地方鉄道に託す思いを。本サイトをご覧の皆さまなら、共感していただける部分もあるはずです。

鉄道の役目といえば人やモノの輸送。しかし、道路交通が普及した現在、そうした考え方は発想転換を求められます。

「100年企業の大鐵にとって、創業当初の『輸送』という役割は既に終了しているかもしれません。しかし、『だから鉄道に存在価値がない』は早計。今は地方鉄道が必要か不要かの論争は一段落して、『今ある鉄道をどう活用して、活力ある地域づくりに生かすか』に論点が移っています」。

鳥塚新社長が思う鉄道の存在価値とは? 答えはある日、目にした祖父母・父母・子どもの3世代ファミリーの会話にありました。「昔はSLがトンネルに近付くと、あわてて列車の窓を閉めたんだよ」とおじいさん。子どもたちは、目を輝かせて話に聞き入ります。

大鐵なら話だけじゃない。トンネル直前での窓締めが実行できます。鳥塚社長は「SL運転などで鉄道文化を後世に伝えたい」と言葉に力を込め、取材陣からは「鉄道好きが伝わってきました」の感想も聞かれました。

鳥塚社長が一番の推しと明かしたC10 8。1930年製で大鐵のSLで最古参、国鉄引退後は岩手県宮古市のラサ工業宮子工場をへて、1997年10月から大鐵での営業運転に入りました(筆者撮影)

立地の良さにポテンシャルあり

鳥塚新社長が考える大鐵のポテンシャル(可能性)。東海道ラインという立地の良さ、新幹線が通っていて、空港(富士山静岡空港)や高速道路も至近です。

沿線からは富士山が展望でき、食の資源も豊富、さらに沿線は茶どころ。「イギリスや台湾といった、茶文化のある国に売り込みたい。静岡は伝統産業が盛んですが、観光としての掘り起こしはこれから。演出方法を工夫すれば、高価格帯のツアーも受け入れられる可能性は大きいはずです」。

キハ28や455系に続く〝新車〟は?

鳥塚社長アーカイブ・2013~2022年にいすみ鉄道の観光列車として定期運行されたキハ28。車内で特産のイセエビ料理を味わう「レストラン列車」などで人気を集めました(写真:いすみ鉄道)

ラストは、い鉄のキハやトキ鉄の455系登場の裏話。一般には鉄道ファンの鳥塚社長が、自分の好きな古い国鉄型車両を走らせたと考えられ、確かにそれも一理あるのですが、本当の狙いは少々違います。

「い鉄やトキ鉄で観光列車を走らせようと考えたら、車両が圧倒的に足りなかった。今は観光列車ブームですが、新製や改造では、お金も時間もかかります。スピーディーに導入でき、価格もリーズナブルな車両を探したら、国鉄の旧車に行き着きました」。

取材陣からは「大鐵での新しい車両は?」の質問も出ましたが、さすがそれはフライング。「車両基地を兼ねる新金谷駅構内には、多くの車両が留置されるので、使える車両や費用を精査して考えたい」の答えが帰ってきました。

ということで、鳥塚社長の手腕発揮は乞うご期待。経営者としての自らを「徹底した現場主義で、ことわざに例えれば、『石橋をたたく前に渡り始める』タイプ。地域振興に必要な人材は〝よそ者、若者、ばか者〟といわれますが、現在64歳、間もなく年金受給者という点を除けば、当てはまっていると思います」と自己分析しました。

記事:上里夏生

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