「乗るのはバスでも乗り心地はほとんど鉄道」 気仙沼線BRTに乗り鉄(?)してみた【コラム】

2025年8月の「全国高校生地方鉄道交流会in宮城県美里町」の取材後、筆者は一足延ばして三陸方面に向かい、短区間ですがBRTに乗車しました。東日本大震災で被災したJR気仙沼線を、専用道を走るバスで復活させた「気仙沼線BRT」です。
【参考】
「歴史ある鉄道のまちの未来を高校生がつくる!」14回目の地鉄交流会、JR3線が集まる宮城県美里町で開催【レポート】
https://tetsudo-ch.com/13010487.html
BRTはバス・ラピッド・トランジットの頭文字で、日本語では「バス高速輸送システム」。交通の専門家は、「専用道を走る、速達性や定時性に優れたバス車両による公共交通システム」と定義します。
筆者は、地方路線を走るBRTへの乗車は初めて。忖度(そんたく)なしにいえば、感想は「BRTは乗車するのはバスでも、実感としてはほとんど鉄道」でした。
往路は鉄道、復路はバス
東日本大震災で被災し、JR東日本が地元との話し合いを経て、BRTで復旧させたのが宮城県の気仙沼線BRTと、宮城・岩手県の大船渡線BRTです。
鉄道時代の気仙沼線、前谷地~気仙沼72.8キロ。震災後、起点側の前谷地~柳津17.5キロは鉄道で復旧しましたが、柳津~気仙沼55.3キロはBRT転換されました。
気仙沼BRTへの乗車、行きは小牛田~前谷地~柳津を鉄道(キハ110系気動車)で移動。柳津から志津川までBRTに乗車しました。

復路は志津川~柳津~前谷地を通しでBRT乗車。前谷地~柳津は鉄道とBRTのダブルルートで、行きは鉄道、帰りはBRTを利用しました(同区間のバスは専用道でなく一般道を走るので、BRTといえるかは若干の疑問が残りますが)。
大きなアップダウンや急カーブはなし
BRT柳津駅は鉄道駅の目の前。列車から段差なしでバスに乗降できます。BRT駅はバス車体カラーと同じ赤を基調にしたモダンなデザイン。上屋、待合室それぞれに照明、待合室のロケーション表示器でバス接近が分かります。乗車方法は、乗降時のICカード乗車券タッチなど一般路線バスと変わりません。
柳津から志津川へ、バスは文字通りの一直線。線路を専用道に転用したので、交差点はもちろん大きなアップダウンや急カーブはありません。
元の線路が単線なので、専用道は一車線ですが、ところどころにすれ違い設備(鉄道の行き違い設備?)。交差点の信号はないものの、対向するバスが接近しないことを示す信号が一定区間ごとにあります。
BRTは志津川駅の少し手前で専用道から一般道に入ります。BRT志津川駅は「道の駅さんさん南三陸」敷地内で、仙台からの高速バスや一般路線バスに接続します。

1977年全通の気仙沼線
ここで気仙沼線のミニヒストリー。旧国鉄の地方路線の多くは戦前に整備されましたが、気仙沼線はそれよりずっと新しい1977年開業。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の前身に当たる、日本鉄道建設公団が建設しました。
東日本大震災の被災までの鉄道としての歴史は30年余。現代につながる新しい土木技術で整備され、線路条件も比較的良好な鉄道だった点は記憶にとどめたいところです。
震災後、地元では当然のように「鉄道を現状復帰すべきか、それともBRTで新しい交通まちづくりを目指すか」の議論が巻き起こりました、
地元の「元々鉄道があった地域なので、鉄道を復活させてほしい」も十分に理解できるところ。BRT復旧に説得力を持たせるには、「鉄道よりBRTが便利」なことを、理解してもらわなければなりません。
世間では、「利用客が少ないので、バスで復旧した方が経費節減できる」と思われがち。確かにそれも一理ありますが、BRTには鉄道にないメリットがあります。
震災被災地という点を考えれば、重要なのは安全・安心。BRTは線路以外も自走でき、鉄道に比べ避難が容易です。
JR東日本は、避難ルートを検討しマニュアルを整備。その結果、2012年12月と2016年11月の地震で津波警報や注意報が発令された際は、10分程度で避難完了しました。
JRが自らBRTを運行する
沿線自治体には「BRT転換すると、そのままJRが撤退してしまう」の不安もありました。JR東日本は、「JRがバス専用道を確保し、責任を持って輸送サービスを継続します」、「JRがバス事業の許可を受け、簡単に撤退できないようにします」と約束しました。
JRの考え方に沿線自治体も共感し、気仙沼線は2012年末までにBRTでの本運行に移行。大船渡線も、震災から2年を経過した2013年3月にBRT運行が始まりました。
BRTの特徴として、まちづくりに合わせて柔軟にルート変更できるメリットが挙げられます。BRT志津川駅は、「南三陸さんさん商店街」に開設。2017年3月、商店街が仮設店舗から本店舗に移転すると駅も移設され、観光客の来店を便利にしました。
専用道と一般道、乗り心地は月とスッポン
筆者はBRT志津川駅で下車後、写真を撮る間もなく復路のバスに乗車しました。志津川~柳津~前谷地の復路では、BRTと一般バス路線の違いを実感させられました。
志津川~柳津はJR気仙沼線の路盤を転用した専用道を走りますが、柳津~前谷地は現在も鉄道のJR気仙沼線が運行中で専用道がないため一般道を走ります。

快適そのものの専用道に対し、少々オーバーにいえば一般道は山あり、坂あり、交差点あり。乗り心地は大きく異なりました。
自然災害で被災した鉄道のBRT転換では、JR東日本の2路線に続き、JR九州でも2017年豪雨で被災した福岡、大分の両県をまたぐ日田彦山線が「BRTひこぼしライン」の愛称名でBRT復活。それぞれ地域交通として一定の存在感を示します。
さらに本コラムでも紹介の通り、山口県の美祢線がBRTでの復旧を目指す方針で議論が進みます。
告白すれば、筆者は線路と道路の両方を走れるDMV(デュアル・モード・ビークル)への乗車経験はないのですが、今回の初乗車で「BRTは乗るのはバスでも乗り心地は鉄道そのもの。その点では、ひょっとしたらDMVに近いのかも……」と思わされました。
記事:上里夏生
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