わたらせ渓谷鐵道水沼駅「駅の天然温泉 水沼の湯」(写真:ホットランドホールディングス)

火山列島ニッポンでも屈指の温泉王国として知られる群馬県。自然湧出量日本一の草津温泉を始め、伊香保、四万、みなかみ18湯、万座、磯部、老神……と挙げればきりがありません。

そんな温泉王国の東側で今年4月、ある温泉施設がリニューアルオープンしました。場所は群馬県桐生市、わたらせ渓谷鐵道の水沼駅。施設を運営するのは全国区のたこ焼チェーン「築地銀だこ」で知られる株式会社ホットランドホールディングスの子会社である株式会社ホットランドネクステージです。

水沼駅にはかつて「水沼駅温泉センター」が併設され、駅構内にある日帰りの温泉施設として愛されていましたが、コロナ禍の影響もあり運営会社が倒産。2023年8月から休館を余儀なくされていました。どうやらその施設を同社がフルリノベーションし、リニューアルオープンしたようです。

しかし考えてみれば不思議な話だと思いませんか? 「全国区のたこ焼の会社が群馬県のローカル線で温泉施設を運営する」――何がどうなってそんなことになるのか。せっかくなので聞いてみました。

コロナ禍でリゾート事業に着手、水沼の湯は「第3期」

築地銀だこを筆頭に多数の飲食系ブランドを運営(画像:ホットランドホールディングス)

ホットランドグループのブランドは「築地銀だこ」だけではありません。主食事業で「日本橋からり」や「野郎めし」、酒場事業で「銀だこハイボール酒場」「おでん屋たけし」など、M&Aで子会社化した事業も含めると30以上もの飲食系ブランドを運営しています。2023年2月に策定された中期経営計画(2023年~2027年)を見ても、内容は飲食メイン。リゾートのリの字もありません。

ところが、2025年2月に発表された中期経営計画(2025年~2029年)では「リゾート事業」がバッチリ記載されています。「サウナの森水沼ヴィレッジから成功パターンを創造」「今後、全国の地域活性化を担える事業として拡大」という記述もあり、なんだか力を入れていそうな雰囲気です。

しかしなぜリゾート事業に着手したのでしょうか? きっかけはコロナ禍でした。

「『駅の天然温泉&サウナの森 水沼ヴィレッジ』は、コロナ禍をきっかけに新たな事業の方向性を模索する中で、当社の創業地である群馬県桐生市・水沼エリアの地域資源を活かした地方創生の一環としてスタートしました」(ホットランドホールディングス)

コロナ禍で事業転換を余儀なくされる会社も多いなか、ホットランドホールディングスはデリバリーサービスの強化、ロードサイド型店舗の出店、冷凍たこ焼など卸売事業の成長といった施策で上手く切り抜けた企業という印象を受けます。しかしながら完全に飲食に固執するわけでもなく、既存事業とのシナジーも見込めるリゾート事業を展開していたのです。

「まず、第1期として、当社がこれまで培ってきた『食』に関するノウハウを活かし、飲食施設を開業。続いて、第2期では、自然豊かなロケーションを活かした『サウナ』を中心とした滞在型アウトドアレジャー施設を展開してまいりました。

今回の『駅の天然温泉 水沼の湯』は、第3期としての位置づけで、地域に親しまれていた旧温泉施設をリニューアルしオープン。これにより『食』だけでなく、『体験』や『癒し』といった “非日常的価値” を提供し、『駅』という日常空間を “目的地” へと転換する、新たなチャレンジに取り組んでおります」(ホットランドホールディングス)

ホットランドホールディングスは東京都中央区に本社を置いていますが(2025年5月時点)、創業の地(※)は群馬県であったわけですね。そもそも佐瀬守男社長が群馬県の桐生市出身で、実はサウナもお好きだそう。故郷を盛り上げつつ、新たに立ち上げたリゾート事業の一環として駅直結の温泉施設をリニューアルしたと考えるとなるほど合点がいきます。

※「築地銀だこ」1号店は1997年、群馬県みどり市の商業施設「アピタ笠懸」内にオープン。2017年の施設閉館に伴い、「築地銀だこ」1号店も閉店となりました。

水沼のリゾートについては「『駅の天然温泉&サウナの森 水沼ヴィレッジ』では、サウナ・温浴施設を中心に、自然と調和した癒しの空間を提供することで、地元住民の方々だけでなく、都市部からの来訪者にも多くご利用いただいております」(ホットランドホールディングス)とのこと。

群馬県桐生市にオープンした水沼ヴィレッジ(写真:ホットランドホールディングス)

今後はインバウンド需要の取り込みにも注力し、食と体験を掛け合わせた地域活性化に資する事業を目指すといいます。群馬県以外でもリゾート事業を展開するかどうかは不明ですが、地方のローカル線にある日突然〝たこ焼資本〟のリゾートが誕生してインバウンドが列をなす……なんて日も来るかもしれませんね。

水沼の湯では「わっしー焼」を販売

ホットランドホールディングスは駅ナカや駅ビル商業施設へ出店を通じて複数の鉄道事業者と連携します。つまりはビジネスでは鉄道事業者と深く関わっているのですが、あくまで飲食がメインですから鉄道ファン向けに施策を打って来たわけではありません。

ですが、今回は鉄道ファンも気になる一品が登場しています。

ホットランドグループは、わたらせ渓谷鐵道と今回の事業を通じてコラボレーションを行い、「駅の天然温泉 水沼の湯」限定のオリジナル商品として「わっしー焼」を販売。

「駅の天然温泉 水沼の湯」限定で販売中の「わっしー焼」(画像:ホットランドホールディングス)

特注の鉄板にマスコットキャラクター「わっしー」のフォルムを型取り、たっぷりとあずきやクリームや具材を入れ、生地はふんわり優しい口当たりに仕上げたといいます。休憩のついでに気軽に食べられるスイーツとして、わ鐵ファンに限らず広く人気が出そうです。

「駅の天然温泉 水沼の湯」はどんな施設?

「駅の天然温泉 水沼の湯」イメージ(画像:ホットランドホールディングス)

最後に「駅の天然温泉 水沼の湯」についてご紹介。記事冒頭の画像にもある通り、施設は水沼駅のホームから直結しており、すぐ隣をわたらせ渓谷鐵道の列車が走ります。

館内は「温泉エリア」と「館内着着用専用エリア(追加料金あり)」に分かれており、大浴場の外風呂にサウナや水風呂を備えます。温泉だけではなく大自然の中での“サ活”が楽しめるのが特徴。

大浴場サウナ・外風呂イメージ(画像:ホットランドホールディングス)

館内のお食事処「里山本陣」では、地元食材を使った多彩な料理や黒毛和牛を地元の朝採れ玉子で食べる「すき焼き」を提供。食事だけのために立ち寄ってみても良いでしょう。

食事イメージ(画像:ホットランドホールディングス)

施設全域を楽しむなら、追加料金を支払って「館内着着用専用エリア」へ。ビールやおつまみなどを販売する軽食コーナーや、休憩処「木もれび庵」で寛げます。メインの「大露天風呂」は、雄大な荒神山を眺めながら入ることができるので、心ゆくまでリラックスできそう。

大露天風呂 (館内着着用専用エリア)イメージ(画像:ホットランドホールディングス)
木もれび庵イメージ(画像:ホットランドホールディングス)

「駅の天然温泉 水沼の湯」概要

「駅の天然温泉 水沼の湯」利用料金(画像:ホットランドホールディングス)

わたらせ渓谷鐵道といえばトロッコ列車が有名。乗車そのものが楽しく、渓谷美や四季折々の花々を眺めているだけでリラックスできます。沿線にはかつて「日本一の鉱都」と呼ばれていた足尾銅山や、鉄道車両を利用したレストランもあり、首都圏からの日帰り旅行にも適しています。

水沼の湯は駅直結ということもあり、「次の列車まで1時間空いてるし、一風呂浴びていこうか」という具合に旅程に組み込みやすいスポットとして注目を集めそうです。

記事:一橋正浩

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