前回は4月23日(土)に大井川鐵道で運行された「 長距離鈍行列車ツアー」の第一回として新金谷を9:48に出た761列車が76分かけて千頭に到着し、駅そばを食べて「SL資料館」を見学したところまで報告した。

新金谷行上り762列車は11:55発である。既に先頭のE101電気機関車は新金谷側に接続されている。少し時間があったので反対側のホームから列車を観察してみることにした。

ところで筆者は大阪で生まれ東京で育った。子供の頃から東海道本線を往復することが多かった。両親は関西人だし親戚も関西にしかいなかったから他に行く場所がなかったのだろう。物心ついた頃には最初の電車特急「こだま」が6時間50分で東京ー大阪間を結んでいて、新幹線が昭和39年(1964)に開通するまでは専らその車両の記憶しかない。

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それでも大学生になると一人で大阪に行くこともあり積極的に寝台急行「銀河」を利用した。実は新幹線よりも料金は高かった。途中駅で深夜に長時間留まることも多く、名古屋などではホームに24時間営業している立ち食いのきしめん屋があったり、列車の中をいったりきたりしてすっかり睡眠不足になったものだが若いので気にしなかった。

つまり客車に乗った経験がほとんどない。例外は中学の卒業旅行で当時の国鉄「東北周遊きっぷ」を使って友人と秋田、岩手を訪れた時くらいなのだ。だから今回、国鉄旧型客車に長時間乗るという企画で慌てて古い客車のことを調べた。要は”付け焼き刃”である。

しかし、今回の車中で耳にする会話は国鉄旧型客車に関する極めて専門的な知識が多くて、半ば圧倒され、半ば呆れて聴いていた。それほど「鉄分」の純度が高く、国鉄旧型客車に興味のある方々が集まったのだろう。

それ程専門的なことは判らないが国鉄旧型客車に関する”付け焼き刃”的基礎情報くらいは記しておきたい。

上りで最後尾となった4号車「スハフ42 186」と3号車「オハ35 22」の連結部分。「スハフ42 186」のドアは綱製、「オハ35 22」は木製だ。

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「スハフ42 186」は国鉄時代スハ43形の車掌室付仕様として昭和28年(1953)に製造された。国鉄時代は三等緩急車(ブレーキをかける装置とそのための係員が乗車するスペースがある)として急行「八甲田」「津軽」で使用され、国鉄時代の近代化改造で内装が化粧板張りで床もビニールの床材になっていた。上り762列車はこの4号車にボックスを確保した。

ちなみに秋田に住む年長の知人から「学生時代は急行津軽の床に新聞紙を敷いて上野ー東能代間12時間を何度も往復したもんだよ」と聞かされたことがある。

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台車はスハ43系用のTR47。この車両のトイレは使用されていて、JRでは2002年の北海道を最後に姿を消した「開放式」つまり「垂れ流し」方式である。昔は列車のトイレに「停車中は使用しないでください」と掲出されていたものだった。写真にはそのための汚物排出菅が見えている。

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同様のトイレは3号車「オハ35 22」にも設備されている。世界的には「開放式」はまだまだ一般的らしい、この大井川鐵道以外で全廃した日本の鉄道が例外的らしい。

「オハ35 22」の台車TR23。

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3号車「オハ35 22」と2号車「オハフ33 469」の連結部分。 オハフ33 469」のドアは綱製のプレスされたものの様だ。

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台車TR34の撮影をわすれてしまった。申し訳ないです。

そして2号車「オハフ33 469」と1号車「オハニ36 7」の連結部分。「オハニ36 7」のドアも綱製。

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1号車「オハニ36 7」は半分貨物車だ。TR11から換装されたTR52台車がよくわかる。

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電気機関車E101と 1号車「オハニ36 7」の連結部分。E101が客車に比べて小さいことが歴然だ。

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運転士さんも乗り込んで762列車新金谷行は11:55に出発。

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土曜日で珍しい国鉄旧型客車が走るからなのか沿線にはカメラマンがたくさんいる。その数に何度か驚いた。

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762列車は駿河徳山(12:06)、下泉(12:18)に続いて地名に12:26に停車。車中ではお昼のお弁当が配られたが速攻で食べてしまって撮影を忘れた。茶飯弁当は美味しかったです。

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ここで列車交換。下り列車の運転士さんと挨拶していた762列車の車掌さん。

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この駅ではもう1本、下りのSL急行ともすれ違うという。その下りSL急行に乗る予定の団体客の到着が遅れたために10分以上遅れて運転されているというアナウンスがあった。つまり15分以上時間がある。

ホーム上にこんな看板。索道とは何か分からなかったので調べた。一般的にはロープウェイやスキー場などにあるリフトを指すらしい

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この看板の場合は大正15年(1926)、大井川鐵道開通以前に地名から滝沢という場所を結ぶ荷物専用のロープウェイが架設され米や衣類の生活用品やセメントを滝沢から地名に、地名からは特産の椎茸や茶、木材を運んだらしい。つり下げられて運ばれる荷物が落下した場合危険なのでこのトンネルが保安用に作られたという。昭和13年(1938)大井川鐵道全線開通で不要になり索道は撤去されたがこの保安用トンネルは残ったということだ。

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地名駅の外に出てみた。

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駅舎の向かい側の商店に地名駅出札口があった。犬が不思議そうにこちらを見ている。

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そろそろ SLが来る頃なのでカメラの行列に混じって待つことにする。しかし皆さん方、凄い一眼レフにでっかいレンズを付けてかまえている。同じデジカメでも筆者はポケットに入るコンデジだ。B全ポスターを作るワケではないし、と自らを慰めて小さなカメラをかまえた。

汽笛が聞こえてシュッシュッシュッという音、地響きが伝わってきたと思ったら国鉄C10形蒸気機関車が姿を現した。

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あっとう言う間に近づき

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通り過ぎていった。凄い迫力だ。溶接構造の後継機C11形と比較するとリベット構造のC10形はやや無骨な印象。

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このC10形は明治期に作られたタンク機関車の老朽化と能力不足を代替するために国鉄が都市近郊旅客列車用に設計した蒸気機関車である。後継のC11形が数多く作られたのに対してこのC10形は全部で23両が製造されたに過ぎない。この動態保存されているC108が現在では唯一残るC10形である。1930年に製造され、廃車後に曲折を経て1994年大井川鐵道にやってきた蒸気機関車だ。単機では客車4両まで牽引できる。

地名駅を約10分遅れて出発した762列車は下り761で停まった家山に停車した後は終点の新金谷を目指す。

再び家山駅を出ると車窓に100匹の鯉のぼりが見えてきた。

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定刻から7分遅れで762列車は13:25終点新金谷に到着した。下り763”列車は13:39発なのであまり時間がなく慌ただしく電気機関車E101が千頭側に付け替えられた。

新金谷2番線で出発を待つE101。

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下り763列車では3号車の「オハ35 22」に席を確保。

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内部は木造で風情がある。この車両は昭和14年(1939)にスハ33671として製造され、昭和16年(1941)オハ35ー22に改称されたもので昭和27年(1952)に更新修繕(近代化)が施され扇風機が付いている。昭和55年(1980)に大井川鐵道にやってきた車両。

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窓は木枠。

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椅子、床は板張りだ。

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灰皿は付いているが車内は禁煙。

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日本国有鉄道と書かれた懐かしい温度計。

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下り763列車は定刻13:39に新金谷を出発した。午後になって列車を撮影するカメラマンが沿線のあちらこちらに増えている。茶畑のカメラマンたち。

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鉄橋の横にも。

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塩郷の吊り橋にさしかかる。

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下泉駅に14:32到着。側線に西武鉄道から来たE31形が留置されていた。全部で3両あるはずだ。というのは本日イベント列車を牽引するE10形(101/102)やED500形(501)の老朽化による置き換えが予定されているのだ。

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14:45駿河徳山駅に停車。列車交換で19分停まる。まずは上り金谷行がすれ違う。今朝金谷から乗った元・近鉄の16000系電車だ。

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上り列車が通った後、よく見たら発条転轍器(スプリング・ポイント)だ。S(スプリング)の文字が付いているので分かり易い。路面電車ではよく見かける。

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これは761列車福用駅での列車交換の際に上り列車を撮ったときに写っていたスプリング・ポイント。

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そして千頭方面から上り762列車地名駅で12:30頃にすれ違ったC108のSL急行がやってきた。 運転士が敬礼。

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新金谷方面に行くSL急行列車。我々の763列車の最後尾車両と2ショット。

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SL特急の最後尾には補機でED500形501電気機関車が連結されている。

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15:17千頭駅に着く。今日の旅もこれで半分終了。流石に少々草臥れてきた。

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千頭駅の転車台。新金谷の転車台はこの後上り764列車で移動したら観て来ようと考えている。

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構内には「きかんしゃトーマス」のイベント運転用に用意された蒸気機関車がシートを被せて留置されていた。右側の51と描かれたのは日本のD51がモデルとなった「ヒロ」で9600形49616がD51風に改装されたものだろう。左側は廃車になっていたC12 208を千頭まで移動して「パーシー」に改装したものだと思われる。

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到着後にホームから撮ったもの。

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さて、上り764列車新金谷行は15:38発、21分の停車時間だ。駅舎に鳥がいる。野鳥には詳しくないので種類が判らない。どなたかご教示下さい。

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と言ふ理由で、長くなってしまうので上り764列車以降はまた次回にさせていただきたい。というか流石に車窓も3回同じ風景を観ているのでいささか飽きてきた。何よりも国鉄旧型客車、風情はたっぷりあるが、その乗り心地は現代の車両とは比較にならない程ハードなのだ。

この後は上り764で17:00に新金谷に着いたら明るいウチに転車台を見ておこうと思う。

大井川鐵道「長距離鈍行列車ツアー」その3に続く。

(写真・記事/住田至朗)