広くニュースなどで話題になっているが、JR北海道は乗降人員が1日1人以下の51駅の廃止を自治体などと相談すると発表した。

有る駅で1人が乗り降りすれば乗降人員が1日2人とカウントされるので、乗降客が1日1人以下ということは、その「1人の乗り降り」すら無いという状態だ。

いずれにしても「利用者が殆どいない」と見なしても問題なさそうな状態と言える。

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既に2016年3月のダイヤ改正でJR北海道は、石北本線「上白滝」「旧白滝」「下白滝」「金華」、花咲線「花咲」、石勝線「十三里」「東追分」、函館本線「鷲ノ巣」の8駅を廃止している。

JR北海道の抱える苦境については別途レポートしたい。が、とにかく重要なポイントは

「北海道では不可逆的に凄まじいスピードで人口の減少が続いている」
「そもそも鉄道は、大量の人・物を運ぶためのシステムである」

という2点だ。

石炭採掘、ニシン漁という機械化以前では極度に労働集約的な産業が明治以降の近代化と共に北海道への膨大な人口の流入を引き起こした。しかし、もはやこの二つの産業は存在しない。

その上、農業や漁業も機械化・省力化が進み労働集約的ではなくなっており、明治から昭和にかけて北海道に渡った少なからぬ人口を支えることが出来なくなっている。そもそも、明治以前は北海道全体が人口希薄地帯だったのだ。

現代において労働集約的なものはサービス産業だが、これは一定以上の可処分所得を持った多くの消費者を前提に成り立つ。人口減少・過疎化の進行するエリアでは成り立ち難い。

唯一残るのは高齢者をケアするサービスだが、待遇面で就業人口が足りないのは周知のことだ。言い換えれば現状として人口を支える様な基幹産業にはなり得ていない。

話を戻すと、JR北海道が発表した乗降客1人以下の廃止対象駅51駅のうち、留萌本線の留萌〜増毛間(礼受、阿分、舎熊、朱文別、箸別)は今年12月4日の運行を最後に廃止が決まっているので実質的には46駅となる。

その留萌本線で名前が挙がったのが、北一已、真布、峠下、幌糠、藤山の5駅だ。

以下、JR北海道が発表した廃止予定駅を見てゆく。データは少々古いが、2010年国勢調査からのものだ。

まずは留萌本線について簡単にお復習い。

1910年(明治43年)深川〜留萌間(50.1km)開業。

1921年(大正10年)留萌〜増毛間(16.7km)延伸開業。

1931年(昭和6年)深川〜増毛間(66.8km)が留萌本線に改称された。

つまり歴史は古い路線、本線と称されるのも北海道では、釧網本線、根室本線、石北本線、日高本線、室蘭本線、宗谷本線、函館本線とこの留萌本線なのだ。

深川を出発して最初の駅が北一已(きたいちやん)。写真は上り方面を撮っている。つまり線路の先には深川駅がある。
北一已

駅を中心にした半径500mの中に18世帯44人が居住している。(0)半径を1kmに広げると66世帯175人になる。(1)徒歩30分という半径2kmなら587世帯1、618人が住んでいる。(3)()の中は小売店の数。
北一已

これだけ居住者が居て1日に乗降客が1人以下。半径1km以内に学生が10人(2kmなら79人)いるが、鉄道を使わないで通学している。山間地ではないので自転車で通学するのは楽だろう。あるいは深川市の郊外なので路線バスの便が良いのかもしれない。
北一已

いずれにしても深川方面には06:39、07:44と1時間に1本ずつ、8時台が無くて次は09:04だ。10:22の後、11時12時台は列車が無く13:05、14:23。15時16時台も無くて17:12、18時台が無く19:10、20時台にも列車は無く最終の深川行が21:11。

留萌方面はもっと少ない。始発が08:09(留萌行)、9時、10時台に列車がなく、11:12(増毛行)。12時台も無く、13:27(増毛行)の後は16:13(増毛行)、17時台が無く18:15(増毛行)、19:28(留萌行)で最終が20:19(増毛行)だ。

留萌方面への通勤・通学は時間的にちょっとシンドイかもしれないが、通院や買い物なら十分に日常的に使える運行だ。

ここで気付いたのは駅周辺人口ダケでは無く、その「年齢構成」「就業人口」さらにその「職業」の情報が分析には必要だということだ。

職業によって移動の手段が異なるからで、例えば農業や漁業に従事する人は道具や成果物を運ぶ必要があるから、素手で鉄道通勤と言うコトはあり得ない。つまり「勤め人」というライフスタイルが鉄道や公共交通機関を使う通勤という需要を作り出す。

もっとも、エリアによっては自家用車で通勤するというライフスタイルも選択肢になるので、勤め人=鉄道移動需要とならないことは全国のローカル線を見れば明らかだ。

ここで「学生」の数を選んでいるのは、交通弱者という言葉は好まないが、要は鉄道などの公共交通機関以外での移動が困難な学生を把握したいからだ。

小売店の数は「買い物需要」の参考になると考えたからである。

比較のために路線の中心である留萌駅のデータをあげておくと、

駅中心半径500m以内に、761世帯1、649人が住んでいて学生は4人(少ない!)。小売店は62。半径1kmには3、062世帯の6、495人、学生が74人、小売店は175。半径2kmなら8、427世帯の13、112人が住んでいる。学生は2、533人いて、小売店は249。

2014年に留萌駅を訪れた時、駅構内に留萌本線の古い写真が展示されていた。沿線のお爺ちゃんお婆ちゃんが数人で写真を見て懐かしそうに話していたので仲間にいれてもらったことがある。

この写真は1954年(昭和29年)に駅名が筑紫から秩父別に改称された時のものだが、写っている人物は当時の秩父別駅長だと老人たちが教えてくれた。
秩父別

当時の留萌本線の様子を訊いたが、貨物列車が走っていたし、利用者が多かった様に話してくれた。

「だって自動車が無かったもんねぇ」という言葉が印象に残った。

次に廃止の俎上にあがってるのが真布駅。
真布

500m内に 4世帯16人、1km内に 15世帯53人、2km内 41世帯140人が住む。小売店はこの範囲内には一軒も無い。学生も0人。この駅を都合4回通って、一度だけ高高生が乗車してきた時に撮影した写真。
真布

峠下駅。ここは明らかに人口希薄なエリア。
峠下

周囲は山間地。列車交換の時間が長かったので駅前に出たことがあるが、人が往来した気配が殆ど無かった。
峠下

駅舎を背に、駅前の広がりを見る。駅前広場とは呼び難い。驚くほど沢山バッタが跳んでいた。
峠下

駅から半径500m内に1世帯3人しか住んでいないのだから仕方がない。1km内でも 2世帯5人だ。2km内にして 6世帯13人。小売店はこの範囲内には一軒も無い。あっても商売にならないだろう。学生もいない。
峠下

幌糠。
幌糠

幌糠は留萌にも近づいて沿線に人家も散見する。半径500m内に47世帯115人が住む、が学生はいない、1km内でも69世帯178人とあまり増えない。学生は12人いる。2km内になっても80世帯205人学生は14人。小売店は500m範囲内に3軒、半径2kmに範囲を広げても変わらない。
幌糠

数字だけ見ると幌糠駅を中心に人が住んでいる様だが利用者が1日1人以下というのは何故だろう。
幌糠

藤山駅。
藤山

駅中心の半径500mの中に26世帯55人が住む。半径1kmだと37世帯79人になる。半径2kmなら49世帯113人。商店は一軒も無く、学生もいない。
藤山

世帯数と住民の数から単純に夫婦二人の世帯が多そうな感じだ。学生がいないということは高齢者が多いのだろうか。隣が留萌駅ということもあって利用が少ないのか、これもよく分からない。
藤山

ついでに2016年12月4日の運行を最後に廃止されてしまう留萌〜増毛間もみておこう。

礼受駅。
礼受

半径500mの中に33世帯83人が居住する。学生は0人。(0)半径1kmに77世帯188人。ここにも学生はいない。(0)半径2kmは169世帯408人が住んでいる。やっと学生が12人住んでいる。(2)()の中は小売店の数。
礼受

阿分駅。短い木製のホーム長は車両1両分も無い。
阿分

半径500mの中に61世帯155人が居住する。学生は12人。(1)半径1kmに96世帯233人。学生は変わらず12人。(2)半径2kmは154世帯382人が住んでいる。学生は12人。(3)()の中は小売店の数。漁港の集落。
阿分

舎熊駅。
舎熊

半径500mの中に71世帯153人が居住する。学生は10人。(1)半径1kmに130世帯277人。学生は35人に増える。(8)半径2kmは296世帯678人が住んでいる。学生は57人。(10)()の中は小売店の数。
舎熊

ここにもそこそこ人が住んでいる、にも拘わらず殆ど鉄道を利用する人がいない。
舎熊

朱文別駅。やはりホームが木製で非常に短い。
朱文別

半径500mの中に37世帯78人が居住する。学生は12人。(1)半径1kmに92世帯208人。学生は23人。(3)半径2kmは246世帯540人が住んでいる。学生は29人。(9)()の中は小売店の数。漁港の集落。しかし、これだけのひとが住み、学生もいるのに利用者がほとんどいない。みんな車で移動しているのだろうか。
朱文別

箸別駅。この駅も短い木製のホーム。運転士さんは「吹雪で前方の視界が無い時に、ここや朱文別、阿分に停めるのは超難しい。札幌駅に停車する方が1000倍楽ちんだ」と半分マジで笑ってました。
箸別

半径500mに49世帯118人。学生は0人。(0)半径1kmに78世帯174人。学生は変わらず0人。(1)半径2kmは337世帯822人が住んでいる。学生は129人とイキナリ増える。これは箸別から半径2km内に増毛駅までが含まれてしまうからだ。(3)()の中は小売店の数。
箸別

こうして改めて見てみると、何と言うか、簡素な作りの駅が多い。しかし、この様な駅でもソレなりの維持費がかかるということだ。冬の除雪コストだけでも半端じゃない。利用者が殆どいないのだから、廃止されても誰も惜別の情は抱かないのかもしれない。しかし、これらの駅から志を胸に旅立った人もいただろうし、挫折して故郷に舞い戻った人もいたかもしれない。

それら多くの夢や想いを残して駅は消えていく。

次回は札沼線を見てみたい。

(写真・記事/住田至朗)