行きは「N700S」、帰りは「ひのとり」――近鉄特急の贅沢な「空間」を堪能した話

2020.06.27

2020(令和2)年6月13日(土)、東海道新幹線の新型車両「N700S」を取材したその足で近鉄の新型特急車両「ひのとり」に乗車してみました。

試乗会に参加した「鉄道チャンネル」華やか部門の二人から「ひのとり」がいかに素晴らしいかという話を聞き及んでいたのですが、このご時世、大阪や名古屋へ出向くわけにもいかず……そんな折に「N700S」取材で久々に新大阪を訪れたので、この機を逃すわけにはいかぬと思いたち「ひのとり」で帰ることにしたのです。(名古屋からは「ワイドビューしなの」「あずさ」を乗り継いで帰京)

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「ひのとり」ってどんな車両?

「ひのとり」は今年3月14日(土)にデビューした近鉄の新型特急車両。大阪と名古屋をつなぐ名阪特急の新たな担い手として、2021年度末までに11編成72両が新造・投入される予定です。

大阪~名古屋間の移動に関しては東海道新幹線と近鉄の名阪特急が競合しており、速さの東海道新幹線に対し安くて快適な近鉄特急という構図になっています。2020年はJR東海が「のぞみ12本ダイヤ」や「N700S」の投入で輸送品質の向上を図り、一方の近鉄は「ひのとり」で対抗するという流れでした。

料金や所要時間を具体的に比較してみましょう。新大阪~名古屋間を東海道新幹線で移動する場合、自由席であれば運賃3,410円+自由席2,530円で5,940円。「ひかり」指定席なら6,470円、「のぞみ」指定席なら6,680円。所要時間は「のぞみ」なら約50分。

一方の「ひのとり」は大阪難波~近鉄名古屋間を約2時間8分で移動。料金は運賃2,410円+指定席2,130円の4,540円、プレミアムシートなら5,240円。従来の近鉄特急が4,340円、デラックスシートで4,860円であったことを考えると若干割高になりましたが、過去のリリースや乗車体験記を読むに座席や車内設備に相当力を入れていることが分かります。

もちろん大阪~名古屋間の移動なら新快速を乗り継いでいく手もありますし、高速バスなら更に安い。名阪特急は名阪間における様々な移動手段の中でも、グレードの高い選択肢として位置付けられているとみて良いでしょう。

「ひのとり」の過ごしやすさはダテじゃない

「ひのとり」のコンセプトは「くつろぎのアップグレード」――これまでにない移動空間を提供し、最高のひと時へ誘わんとする近鉄の矜持が感じられる響きです。

その実力のほどを拝見しようじゃないの……ということで「プレミアムシート」に乗ろうと思ったのですが、残念ながら当日の「窓側の席」は満席。というわけで今回はレギュラーシートに乗ります。

大阪難波駅発 ひのとり14号車
行先表示器 「名古屋」表示
「HINOTORI No.14」
カフェスポットではコーヒーやお菓子を販売

「ひのとり」車内にはカフェスポットがあり、コーヒーやお菓子などを購入することができます。「ひのとり」コーヒーは200円。お湯は無料。コーヒーの提供時間はおよそ40秒。

普段泥水のようなコーヒーしか飲まない味音痴なので「セブンイレブンのコーヒーとあんまり変わらなくない?」という印象を抱いてしまったのですが、普通に美味しいですし、車内で買えるコーヒーというのはそれだけで100円の差額を払う価値のあるもの。記念に一杯買っていきましょう。

くつろげるベンチスペース
無料ICカードロッカー

デッキ部にはベンチスペースが備えられており、座席以外でもくつろげるようになっています。その対面にはICカードロッカーがあり、ICOCAやPASMOを持っていれば無料でロッカーが使うことも。

こういう設備があることは知識としては知っていたのですが、改めてこの贅沢なサービスを目の当たりにするとちょっと真顔になりますね。治安の悪いインターネットの住民が見たら「福利厚生じゃん、こんなの……」と呟くレベル。

座席の乗り心地は抜群

レギュラーシートの座席前後間隔は116cm
「ひのとり」レギュラーシート背面
分厚さを感じるテーブル

「N700S」の取材時には新たな機構が導入され改良された座席に乗り、グリーン車のシートも満喫しています。その感触が腰に残っている状態で座ればさすがに見劣りするんじゃないかな……と思いながら「ひのとり」レギュラーシートに腰を落ち着けたところ、あまりの快適さに一歩も移動したくなくなってしまいました。

リクライニングした瞬間がすごいんですよ、ひのとり。座面の先端が浮く。膝のあたりがほんの少し持ち上げられて快適な乗り心地になってる。しかも全席バックシェルなので後ろの人を気にせずにリクライニング出来る。もちろん「N700S」の座席も素晴らしいのですが、ひのとりのシートからは速度で劣り快適さに賭ける近鉄特急が座席の質で負けるわけにはいかない、というプライドが伝わってきます。腰とかに。

体感としてはN700S普通車<N700Sグリーン車≒ひのとりレギュラーシートです。もちろん、サービスは座席の質によってのみ決まるものではありませんが、レギュラーでこれならプレミアムシートはグランクラスを余裕で超えていくんじゃないのか?と期待が膨らみますね。

ちなみに座席の背面には傘などをかけられるフックも搭載。これは「N700S」の普通車にも装備されていて、全席コンセント・Free Wi-Fiなどともに令和の標準装備みたいな感覚がありますね。雨の日は傘の置き場に困ることもたびたびですが、このフックは柄を引っ掛けて固定するのに大変使いやすくて便利でした。

ひのとりのフックに傘をかける
参考:N700S量産車普通号車のフック 5kgまでかけられる

「ひのとり」は揺れない

「ひのとり」は先頭車両に電動式のフルアクティブ制御を導入しており、空気式のフルアクティブ制御を導入した「しまかぜ」と比較しても揺れを抑えられた車両になっています。最高速度は「アーバンライナー」車両と同じ130km/時ですが、大阪難波から近鉄名古屋まで2時間ちょっとの道行きで揺れは全く感じませんでした。

こんな置き方をしても蓋は落ちなかった

自分は写真のように飲み終えた「ひのとり」コーヒーのカップにズレ落ちそうな状態で蓋を引っ掛けたまま乗車していたわけですが、これが終点まで落ちない。びっくりするほど揺れない。ひのとりの静けさと揺れなさは「リクライニングチェアでくつろいでいると窓の外の画面が勝手に切り替わっていく」イメージです。あまりの揺れなさに「電車に乗っている」ことを忘れてしまうほど。

もちろん、新幹線だって揺れる乗り物じゃありません。記者が生まれる前の話ですが、東北新幹線の試運転では「タバコが立つ」と噂になったそうで。長野新幹線や北陸新幹線では「コインが立つ」という話もあります(実際試したことはないのですが……)。「N700S」だって揺れの大きい車両にはフルアクティブサスペンションを備えています。最高速度285km/時とか320km/時とかでかっ飛ばす車両で揺れを抑制できる技術力は伊達ではありません。

それでも乗り比べてみると「『ひのとり』はいいぞ」になってしまう。

大阪難波から近鉄名古屋まで2時間ちょっと。しかも料金は「のぞみ」で行くのとさほど変わりない。もっと安い移動手段も充実している。それでも「ひのとり」を選ぶ可能性はあるかと問われると――自分としては「Yes」と答えざるを得ません。いずれは「ひのとり」プレミアムシートと「グランクラス」で乗り比べをしてみたいものです。

文/写真:一橋正浩


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