MaaSイメージ 画像:tiquitaca / PIXTA

最近の交通や鉄道のニュースを見ていると「MaaS」の言葉を頻繁に見掛けます。いわく、「次世代移動サービス・MaaSの実現に向けた情報提供の充実」「MaaSをはじめとする新たな顧客サービスの創出」などなど。MaaSはMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字で「サービスとしての移動」と訳されたりしますが、それでは「サービスじゃない移動って何?」と突っ込まれると、多くの方は返事に詰まってしまうかもしれません。MaaSは語る人ごとに内容が違い、完全に説明する力は私にもないので、ここではなぜMaaSが注目されるのかを考察してみたいと思います。あわせて9月末に発表された、「JR東日本とJR西日本がMaaSの取り組みで連携」の意味などを考えてみましょう。

自宅から目的地まで 移動を一気通貫

私はMaaSを「鉄道、航空、バス、タクシー、船舶、マイカーなどの移動手段を全体で一つの交通機関ととらえ、スマートフォンに代表されるICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)で情報提供から予約、決済(支払い)までを一元化するサービス」と定義しています。例えば、首都圏の自宅から九州に旅行する場合、最初に乗車するのは最寄り駅までのバス。次いでJR在来線か私鉄、それから新幹線か飛行機を乗り継いで、九州に着くとJR在来線、私鉄、バスに乗り換えて最終目的地に到着します。

この場合、予約が必要なのは新幹線や航空機ですが、旅行先でレンタカーを利用する場合は予約しておいた方がベターでしょう。交通からは外れますが、ホテルも一緒に取れれば言うことはありません。マイカーは、ネット情報では「自家用車以外のすべての交通手段による移動を、一つのサービスで完結させる」と書いてあったりしますが、地方ではクルマがないと駅に出られないケースも多いので、私はMaaSに含まれると思います。むしろ、「電車やバスの公共交通とマイカーの私的交通をつなぐのがMaaS」と考えてはいかがでしょうか。

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日本でMaaSの用語が初めて正式に登場したのは、政府の2016年版「第5期科学技術基本計画」です。情報化が進む近未来の社会を「ソサエティー5.0」と表現、MaaSを小型無人機のドローンや人工知能を搭載したAI家電と同列の次世代技術に位置付けました。

MaaSでおトク でも今は少々バブル?

ここまでに述べたMaaSの主な機能は予約と決済でした。確かに便利は便利ですが、「指定券や搭乗券だけなら駅や空港で買っても同じ」と思う方もいらっしゃるでしょう。そこで、MaaSで一般の方が得する話を書いてみましょう。鉄道事業者がMaaSに力を入れる理由も、本質はそこにあります。

MaaS先進地のヨーロッパ。欧州では、一般家庭の交通費は1カ月当たり300ユーロ(約3万8000円)にも上るそうです。年間にすれば40万円以上となり、その8割はガソリン代や駐車場代などのマイカー経費とか。少しでも節約したいと思うのが人情でしょうが、かといってマイカーの便利さは手放したくない。そこで編み出されたのが、「クルマを持つ」から「クルマを使う」への変化。最近はカーシェアに加え、バイク(自転車)シェアが普及しています。

カーシェア予約は典型的なMaaS。列車と一緒に目的地でのカーシェアを予約すれば、鉄道の利用促進につながります。そんなに都合よく乗客が増えるとは思えませんが、将来性有望なMaaSを先取りしたい。それが、鉄道事業者の本音なのかもしれません。

ここからは、未来に向けた少々何でもありの話になります。鉄道でも自動車でも自動運転の研究が進んでいます。地方在住者で今はクルマを運転できるからいいけれど、高齢になって免許返納したら自動運転車で駅に出たいと思う人は多数います。鉄道の両端部分を受け持つのがMaaSです。観光型MaaSでは、駅や空港に着くと自動運転車(ドライバー付きのタクシーでも構いませんが)が待っていて、ホテルに連れて行ってくれたりします。

真偽のほどは不明ですが、一説によると2030年には世界のMaaS市場規模は100兆円以上とか。近未来に向けて、今は皆が「乗り遅れるな!」とばかり、新規ビジネスをつかもうとしています。あくまで個人的見解ですが、今は〝MaaSバブル〟かなと思ったりします。

MaaSでJR2社が連携

JR東日本のMaaSサービス展開イメージ 画像:JR東日本

最後は現実に戻って鉄道2社の連携。JR東日本とJR西日本は9月末、MaaSの取り組みでの相互連携に合意しました。両社のスマホアプリを連動させ、付加価値の高いサービスを提供し、MaaS社会の実現に向けて協業する趣旨です。

具体的な連携イメージでは、JR東日本は自社アプリで実証実験中の「リアルタイム経路検索」を、本年度内めどにJR西日本の一部線区でも利用可能に。JR西日本の「WESTER」でも検索できるようにします。さらに、両社アプリで提供するサービスの連動を検討。具体的な連携内容や実施日は随時発表します。

各社ごとの取り組みでは、JR東日本は経路検索や運行情報、混雑状況を提供するJR東日本アプリのほか、複数の交通手段のシームレスな利用を目指すアプリ「Ringo Pass」、さらに観光型MaaSを展開します。観光型は地方サービスに力を入れ、静岡県伊豆のほか新潟、仙台、群馬の各エリアに拡大します。企業連携では2020年6月、東京海上日動火災保険と新たな保険サービスの共同開発に向け、業務提携契約を結んでいます。

JR西日本のMaaSサービス展開イメージ 画像:JR西日本

JR西日本は、2019年10月から広島県を中心とするせとうちエリアで観光型MaaS「setowa」の実証実験に着手。2020年10月からの「せとうち広島デスティネーションキャンペーン(DC)」で本格展開しています。地方型MaaSでは、2019年10月から島根県邑南町との検討を開始しました。

また、関西の鉄道事業者7社をメンバーに昨年立ち上がった「関西MaaS検討会」に参画。2025年開催の大阪・関西万博に向け、「関西地域でのMaaSのあるべき将来像」などを精査しています。

新型コロナも関係するのでしょうが、地方圏で人口減少が急進するこれからの時代は広域にわたる集客が重要性を増します。今回のMaaS連携には、例えば東京から山陽・山陰に旅行したり、関西から東北に出掛ける旅行者を、MaaSでがっちり顧客化しようという意図がうかがえるところです。

文:上里夏生