コロナをめぐる社会情勢は時々刻々変化します。鉄道も感染拡大防止に最大限の対応を取ります。 イメージ写真:Ryuji / PIXTA

新型コロナに翻弄された2020年が終わり、新しい年・2021年が幕を明けました。コロナは人々の意識や価値観を大きく変え、鉄道業界も経験のない苦境に立たされています。ただ、本格化する人口減少社会にあって一定程度の利用減はいずれ襲い掛かって来たはずで、「変化が10年早く到来した」と考える冷静さも必要でしょう。

「たとえ需要がコロナ前に戻らなくても事業を安定的に継続し、社会に必要とされるエッセンシャルワーカーとしての務めを果たす年」。それが鉄道事業者の2021年といえるでしょう。ここではさまざまなデータや各社の対応策を基に、新しい年の鉄道業界の針路を占ってみましょう。

コロナ前の8割まで回復

鉄道業界の立ち位置を公表済みデータで極力客観的にみましょう。別稿で触れましたが、日本民営鉄道協会の会員大手16社の2020年10月の前年同月比は輸送人員21.3%減、旅客収入21.5%減で、コロナ前のおおむね8割程度に回復しています。JRグループでは、JR東日本が2020年11月の鉄道営業収入を公表済み。前年同月比35.9%減、前月の10月は23.5%減で、回復が遅れるのは感染者が再び増加して、移動が抑制されたためとします。

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当然過ぎることですが、需要回復に何より重要なのは感染拡大の収束です。鉄道の駅や車両でクラスター発生の情報はなく、事業者は自分たちに責任のない新型コロナで事業が苦境に立たされる現状に、切歯扼腕たる思いでしょう。

神のみぞ知る

コロナで落ち込んだ需要が、いつ頃どの程度まで回復するかはそれこそ「神のみぞ知る」ですが、私が取材したセミナーで、あるJR幹部は「感染拡大が収まっても、需要は新幹線でコロナ前の80%前後、在来線で85%程度までしか回復しない」と話していました。事業者は、コロナ前の8割程度の需要でどんなサービスを提供するのかを見極めることが、今後に向けた経営課題といえます。

鉄道事業者は公営地下鉄などを除き民間企業ですが、多少の言い過ぎを承知で書けば世上、公共交通機関は行政の提供する公共サービスと同格にみられがちです。列車減便などの施策に一部バッシングもある中で、多くの事業者は2021年春のダイヤ改正で終電繰り上げを実施。理由には、「夜間メンテナンス時間の確保」を挙げます。しかしマスコミは、「赤字が出たので終電を繰り上げる」とステレオタイプの見方をしがちで、そうした誤解を業界挙げて解く取り組みも必要といえそうです。

「新しい日常に適したビジネス」「変容をとらえたビジネスモデル」

包括的連携をアピールする深澤JR東日本(左)と後藤西武HDの両社長 写真提供:西武HD

年明けに合わせ、数人の鉄道業界トップがメッセージを発信しました。

JR東日本の深澤祐二社長は2021年の針路を「コロナ禍を契機としたイノベーション(事業革新)の推進、そしてニューノーマル(新しい日常)にふさわしいビジネスへの挑戦」、西武ホールディングス(HD)の後藤高志社長は「変容をとらえたビジネスモデルやDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による業務・ビジネスの変革)の推進」を挙げています。

両社は2020年ラストを締めくくる「JR東日本と西武ホールディングス(HD)が包括的連携」のビッグニュースを発信しました。「新しい働き方・暮らし方の提案」「まちづくりに向けた長期的な連携」「沿線活性化に向けた連携」の3項目を軸に、昼は観光、夜は仕事のワーケーションなどを両社共同で推進します。私はここに、鉄道業界の針路が見て取れるように思います。

JR東日本と西武HDの包括連携の真意を探りましょう。両社はコロナ禍でライフスタイルが大きく変化する中、生活拠点の分散化などを新たなビジネスチャンスと位置付けます。その上で「JR東日本の首都圏、そして新幹線をはじめとする中長距離の鉄道ネットワークと、西武グループのホテルやレジャー施設の運営ノウハウを組み合わせることで、新領域に挑戦する環境が整う」とします。

得意分野を複合化して新規需要を獲得する。多少陳腐な表現をお許しいただければ、両社は新たな連携で不得意分野を補完して相互にメリットが生じる「Win WiNの関係構築」を目指します。

京急はANA、横須賀市、横浜国大と連携

鉄道業界以外との連携も増えています。2020年12月には京浜急行電鉄、全日本空輸(ANA)、神奈川県横須賀市、横浜国立大学の4者は総合移動支援サービス「Universal MaaS(ユニバーサル・マース)」の実証実験に共同で乗り出しました。

実験は障がい者や高齢者、訪日客などが快適に移動できる環境の整備を目的に2021年2月28日まで継続中です。4者は、スマートフォンやタブレット端末の「ユニバーサルお出かけアプリ」を開発。アプリは国内のANA就航空港から羽田空港経由で京急の目的駅あるいは横須賀市内の目的地まで、乗り換えの難しい駅などを避けたルートを選択できます。さらにサポート手配、位置情報を組み合わせたルート案内ができるようにしました。

鉄道業界に広がる連携・提携で、私がこの話題を取り上げたのは、産学官という異業種のパートナーが手を携えて移動を便利にする取り組みに将来性を感じたからです。

世界の人々の「日本に行きたい」思いは変わらない

コロナ前までの鉄道業界が比較的順調だったのは、訪日外国人旅行者が一貫して伸び続け、その人たちが鉄道で各地を訪れてきたからです。政府も、訪日客の地方分散化を主要施策に位置付けてきました。日本は国を挙げたホスピタリティ(もてなし)が評価され、世界トップクラスの観光人気国でした。世界の人たちの「日本に行きたい心」は、コロナ禍に負けないはずです。

東京オリンピックに合わせてか、あるいは五輪後になるのかは何ともいえませんが、日本が再び世界屈指の観光立国になるためのエンジンの機能を果たす産業の一つは、間違いなく鉄道業界だといえるでしょう。

残るスペースで、JRグループ7社の2021年の話題をインデックス的に披露します。

「『踊り子』車両統一」「『N700S』増備」「『瑞風』運行再開」

JR東日本は3月13日のダイヤ改正で、東北新幹線上野―大宮間の埼玉県内区間の最高速度を時速130kmに引き上げ。同じダイヤ改正では、伊豆特急「踊り子」(「サフィール踊り子」除く)の全車両をE257系リニューアル車に統一します。

新しい伊豆特急のエース・JR東日本のE257系リニューアル車両 イメージ写真:Jun Kaida / PIXTA

JR東海は東海道新幹線に、昨年デビューした13年ぶりのフルモデルチェンジ車両「N700S」を順次投入。在来線は、ハイブリッド方式の次期特急車両「HC85系」の量産車を2022年度から投入、高山線「ひだ」や紀勢線「南紀」のキハ85系を置き換えます。

高度な省エネルギー性能などで2020年「日本鉄道賞」の審査員特別賞を受賞したJR東海の「N700S」 イメージ写真:F4UZR / PIXTA

JR西日本は「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の運行を2月17日から再開。従来は食堂車で提供していた昼食や夕食のコース料理を、個室で楽しんでもらう形にするなどウィズコロナの対応を取ります。

JR西日本のクルーズトレイン「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」はコロナ禍を受けて2020年2月から運休していました イメージ写真:エイジ0750 / PIXTA

「多目的特急気動車」「『南風』『しまんと』に新鋭車」「福岡都市圏の列車体系見直し」「積み合わせ輸送推進」

JR北海道では昨年ジョイフルトレイン「レインボーエクスプレス」などの後継車として、多目的特急気動車261系5000番台「はまなす編成」が運行を開始しました。今年は同形式で色違いの「ラベンダー編成」が4月に登場予定です。

JR四国は3月13日ダイヤ改正で、現在2000系も使用している土讃線の特急「南風」「しまんと」に、最新鋭2700系を追加投入して同形式に統一します。

JR九州は同じダイヤ改正で、福岡都市圏を中心に列車体系を見直し。一部定期列車を臨時列車化します。

JR貨物はダイヤ改正で、eコマース(電子商取引)需要の高まりを受けて積み合わせ貨物輸送のコンテナ列車を新設します。

文:上里夏生