コルク佐渡島庸平とワコム井出信孝が描く制作現場の未来「心震える場面を支える」ワコム主催ACG SUMMIT 2021

2021.03.11

第一線で活躍するアニメ・コミック・ゲーム業界のトップクリエイターが、その最新制作手法やクリエイティブトレンドなどを語るワコム主催のオンラインライブ配信イベント「ACG SUMMIT 2021」。

3月4~6日の3日間にわたって開催された同イベントの最後を務めたのは、コルク 佐渡島庸平 代表と、ワコム 井出信孝 代表によるトークセッション。「これからのクリエイティブ」について、2人が語り合った。

まずコルク佐渡島代表が「きょうはワコムの本質を聞きたい。『“描く”をサポートする』っていうけど、いったい描くとはなんだ?」という問いかけでスタート、冒頭からトークはヒートアップした。

VR空間にも描いていく

ワコム井出:ドロー(draw)だけでもない、ライト(write)だけでもない。ワコムとしては描き刻むものすべて、人間の軌跡のようなものを「描く」ととらえている。

ワコム井出:人間の軌跡を描き刻んでいくというイメージ。道具屋としてのワコムはさらに、空に描くとか、宇宙に描くという規模になって、これまでの道具の枠を超えたものをつくるビジョンも描いている。

コルク佐渡島:建築家も、脳に浮かんだ空間を「描く」というなかなか難しい行為をしていると言えますよね。建築の世界では「描く」って言葉を使うのが今は一般的ではない。でもVR空間になると、建築家も空間に「描ける」ようになる。

ワコム井出:VR空間にも描いていくというのは、まさにワコムが思い描いているシーン。建築家にとってみると、ぜんぜん違う世界がみえると思う。

ワコム井出:実はいま、筆圧を数ミクロン感知することで、奥行きをつくるというデバイスを鋭意開発中。これが実現すると、道具の在り方や概念が変わると思う。

軌跡そのものにクリエイターの価値がある

コルク佐渡島:一流の漫画家は、どういう線を描くかにこだわる。歴史に残る線をどう描くかを追求している。たとえばきれいな線を描くバレリーナは、そのきれいな曲線で残像が出る。そうした曲線をデータ化していくとか、ワコムの技術とアーティストが組むと、今までは天才しかできなかった気づきを普通の人もえれそう。

ワコム井出:成果物の線も価値があるけど、どうやってその線にいきついたのか。どんな迷い線があったのか。どんな気持ちでその線に行き着いたか。その先に行き着く“文脈”をワコムは大事にしている。そこの価値を高めていきたい。

ワコム井出:クリエイターが命を削って描いた線の後ろにある思いなどを、ワコムや他社のテクノロジーで“文脈”としてとらえて見える化し、最大のリスペクトでビジュアル化する。そこに新しいブレイクスルーがあると思う。

コルク佐渡島:人のクリエイティビティっていままでは、弟子入りなどで過酷な修行を経て延びていった。それが、集積したデータでビジュアル化されて、それを元に学べば、学習時間が短縮されるかもしれない。

ワコム井出:失敗も苛立ちも、クリエイターの所有物としてとらえるべきとも考えている。そこは、成長の軌跡をシェアしているコルクの取り組みと同じ。

ワコム井出:軌跡そのものにクリエイターの価値がある。それをワコム1社が囲い込むんじゃなくて、社会インフラのレベルで保証されていくようになればいい。

そこに魂が実装されているはず

コルク佐渡島:僕は編集するときに、「本人がどんだけ興奮して描いたか」をよく見ている。そこでその先のヒットがすごく読める。何度も読み直して何度も本人が興奮する作品は、他人もおもしろい。

コルク佐渡島:他人から修正指示をもらうのは誰だって楽しくない。今は、修正を言い合える関係になるのに、人間関係を築くって本末転倒が起きているように思う。

コルク佐渡島:そこで、作者がどれだけ興奮したかをテクノロジーで測れるとおもしろい。「ぼくにはレベル90以上興奮したやつだけを持ってきて」とかいえるようになると健全だと思う。

ワコム井出:興奮度90みたいな。まさにそれって、「きれいに描く」とかいうテクニックじゃなくて、結局「本気度」。

ワコム井出:どれぐらい命削って没頭してるか、没入してるか、のめり込んでるか。そこに魂が実装されているはず。そこをビジュアライズしたい。

描いた人の興奮度などがソートできたらおもしろい

コルク佐渡島:いまヒットしてる作品って、たくさんの人が受け入れられるものが多い。どっちかっていうと深く刺さるものは、多くの人たちにはあまり刺さらないかもしれない。

コルク佐渡島:ワコムのテクノロジーが持つ“情報”が取れるようになると、読んだ人がどれだけ興奮したかのほかに、描いた人の興奮度などが測定できたらおもしろい。

コルク佐渡島:作者が興奮した作品だけをみてみたい。そんな技術が実現したら、作品との出会いも相当変わってくる。

コルク佐渡島:ワコムという会社がクリエイターの人生を変える会社になるんじゃないか。これがインターネットの技術の進化の魅力ですね。

ワコム井出:ワコムの会社理念に「ライフロングインク」ということばがある。手書きの人生を一生支えるというのがミッション。紆余曲折がある生き様のなかで「描く」を主軸に支えていくという姿勢。

コミュニティの再設計が要る

ワコム井出:道具が上から目線ではいけない。静かに寄り添う。ただただその人に溶け込む沈み込むように、その人の一生の文脈をつくる手伝いをしたいというカンパニービジョン。そういう時間軸でわれわれはクリエイティブに貢献したい。

コルク佐渡島:いまこのACGって、アニメーション(A)、コミック(C)、ゲーム(G)だけど、そういう分け方もなくなるといい。

ワコム井出:ACGが渾然一体になっていきながら、根底には「描く」という海が脈々と広がっている。その海を行く船といっしょにこぎながらサポートしていく。そんな感じですね。

コルク佐渡島:たとえば書店っていまも出版社ごとに棚を分けてる。これって供給側の視点。これからは、ユーザの到達する感情などで分けてもいい。たとえばハッピーエンドとか。ユーザの根源のところでジャンル分けする。コミュニティの再設計が要ると思う。

「心震える場面を支える会社」に

コルク佐渡島:自分たちの習慣を変えるのにも時間とエネルギーが要る。新人漫画家はネームはデジタルで描くようになっている。

コルク佐渡島:デジタルならばカラーで描けばいいのだけど、今までずっとモノクロで描いていた。カラーでいいのでは? そのシンプルなことを漫画家たちに伝えるのに8年もかかった。

コルク佐渡島:わざわざフルカラーで描けるのに、なぜいまもモノクロで描くのか、と。そこに慣習という力がたちはだかる。

ワコム井出:なるほど。そこにワコムのテクノロジーが寄り添えればいいと思う。

コルク佐渡島:「心震える場面を支える会社」にワコムはなれる。コルクの漫画家たちは、ワコムユーザなので、技術を高める集団でありながらかつ、テクノロジーにあわせて創作スタイルを変えていく集団でありたい。

サポート受けながら進歩するほうが早い

コルク佐渡島:自分たちの進化よりもテクノロジーの進化のほうが早いから、テクノロジーの進化に寄り添いながら、サポート受けて進歩するほうが早い。そこをワコムといっしょにやっていきたい。

ワコム井出:ぜひいっしょにいろいろやっていきたい。

コルク佐渡島:このYou Tubeライブ配信も、閲覧数だけじゃなくて、出演者がどれだけ興奮してるかを出てくれるといいのに。ぼくらはもうすでにレベル90を超えてますから。

(終わり)

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