どうなる地方ローカル線 国の検討会が初会合 近江鉄道は経営の上下分離で鉄道存続を決定(後編)【コラム】
「現状のままでは鉄道線の維持は困難」(近江鉄道)

初回の会合には地方鉄道を代表して、近江鉄道が出席しました。検討会に近江鉄道が参加したのは、沿線自治体との協議で鉄道の存続が決まったから。「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新」を実践します。
近江鉄道のプロフィールは図をご覧ください。輸送密度が2000人を超すのは八日市―近江八幡間と彦根―高宮間だけ。米原―彦根間や高宮―多賀大社前間のように1000人に届かない区間もあります。
近江鉄道は2016年、現状のままでは鉄道線の維持は困難として、滋賀県と沿線5市5町に経営状況を説明して協議を申し入れました。地元協議は、2017年1月~2018年2月の勉強会でスタート。2018年12月には近畿運輸局や有識者も交えた「近江鉄道線活性化再生協議会(通称・任意協議会)」が立ち上がり、鉄道存続とバス転換のメリット・デメリットを比較しました。
バス転換だと所要時間は大幅増
鉄道存続のメリットは、①交通弱者の移動手段確保、②現在の「まちの構造」の維持、③地域イメージ・知名度の維持、④定時性の確保、小さな環境負荷――の4点。一方でバス転換のメリットは、①運行コスト低減(ただし初期投資は必要)、②線路敷の活用(廃線跡はバス専用道などとして有効活用できます)――の2点です。

大きな判断材料になったのが、鉄道とバスの所要時分の比較。詳細は表の通りですが、米原―貴生川間は鉄道だと84分のところ、バスは149分で、所要時間は1時間以上延びます。
年間欠損額(赤字額)は鉄道5億1000万円、バス4億3000万円。バスの方が8000万円の経費節減になりますが、鉄道利用客が所要時間が延びるバスを継続利用するかどうか、若干の疑問符もつきます。
最終的に近江鉄道と沿線自治体は2020年3月、鉄道線全線の存続を決定。近江鉄道は2024年度から、地域が施設を保有して鉄道事業者(近江鉄道)は列車運行に専念する、公有民営方式による上下分離の経営体制に移行することが決まりました。
上下分離での存続が決まって、近江鉄道もやる気になってるようです。その証拠? 本サイトの検索コーナーに、「近江鉄道」と打ち込んでみてください。最近、ニュースがたくさん出ていますね。
「鉄道は地域の文化」(滋賀県)
最初に書くべきでしたが、国交省は2022年3月3日に2回目の検討会を開催。滋賀県の三日月大造知事が出席して、地元の見解を表明しました。
スペースの関係で要点にとどめますが、「地方ローカル線の再生に必要なのは、鉄道事業者と自治体との信頼関係の構築」。三日月知事は、「鉄道は地域の文化」と強調しました。
本コラムはここまでですが、国交省の検討会は今後も続くので、機会をみて続報を報告させていただきたいと思います。
記事:上里夏生