伯備線の新エース・273系特急電車。技術面のポイントが日本初の「車上型制御付き自然振り子」で、車上側の曲線情報と走行地点データを連続照合してタイミングよく車体を傾斜させます

中国エリアで鉄道ファンが今注目の線区、それはJR伯備線かもしれません。倉敷(山陽線)と伯耆大山(山陰線)を結ぶ138.4キロ。2024年4月から岡山~出雲市を結ぶ新鋭273系特急「やくも」がデビュー。代わって国鉄タイプの381系は同年6月の定期運行終了がアナウンスされ、多くのファンが沿線を訪れます。

本コラムで取り上げるのは新型車両……ではなく、「撮り鉄と地域住民が築くWinWinの関係」。私有地に立ち入ったり、ゴミのポイ捨てなど、ごくごく一部とはいえ何かと問題視される撮り鉄ですが、伯備線沿線では「地域の魅力を発信してくれる大切なお客さま」と位置付け、危険・迷惑行為ゼロを呼び掛けつつ、マイカーでやってくる愛好家のために駐車場を用意するなど共存共栄を目指します。鳥取、岡山の両県の動きを追いました。

273系登場を機に「マナーアップ協」

まずは伯備線のミニプロフィール。大正年間に鳥取県側から軽便鉄道として建設が始まり、全通は昭和初期の1928年。陰陽連絡ルートとして脚光を浴びるのは、1972年の山陽新幹線岡山開業時から。全線電化は1982年で、カーブ区間の多い線区を高速走行できる振り子式381系が長年活躍してきましたが、いよいよ代替わりを迎えました。

国鉄時代から半世紀以上にわたり地方線区の速達化をけん引した381系特急電車。主な使用列車は「やくも」のほか、中央線(中央西線)「しなの」、紀勢線「くろしお」でした(写真:RyujiKanda / PIXTA)

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鉄道ファン歓迎の動きは鳥取、島根両県にあり、最初は鳥取側から。273系登場にあわせ、2024年4月に立ち上がったのが「『鉄の道』マナーアップ協議会」です。活動目的は、「一部の写真愛好者によるマナー違反が問題になる中、豊富な鉄道撮影スポットがある『鳥鐵(撮り鉄)の地・とっとり』を守る方策を関係者間で共有する(大意)」です。

対象エリアは、伯備線を含むオール鳥取の鉄道。主なメンバーは、行政は鳥取県と日野町、鉄道事業者はJR西日本山陰支社と、いずれも第三セクターの若桜鉄道、智頭急行、そして鳥取県警察本部、日野軍★伯備線ファン倶楽部の7者です。

5ヵ条の「鉄則」!?

マナーアップ協は、撮り鉄に守ってほしい5ヵ条の「鉄則」を発表しました。

第1条 立入禁止の場所や私有地へは入らず、良識に従って行動しましょう。
第2条 地元のおすすめスポットなど安全な場所で、ルールに従って撮影しましょう。
第3条 他の撮影者と譲りあって気持ちよく撮りましょう。
第4条 鉄道会社や地域と連帯して、大切な鉄路と風景を守りましょう。
第5条 列車はもちろん観光や食など地域の魅力も満喫しましょう。

「鉄の道マナーアップ協議会」の鉄則5ヵ条(資料:鳥取県)

鉄則の「鉄」は、もちろん鉄道の「鉄」。マナー順守の撮り鉄を歓迎、根雨駅や日野町役場などに駐車スペースを用意します(生山駅にはレンタサイクルも)。

マイカーやレンタカーで撮影紀行のファンなら、ありがたさを実感できるでしょう。

昭和の風情が残る日野郡の7駅

協議会メンバーで、要注目が伯備線ファンクラブ。2022年11月にキックオフしました。日野軍は日野郡のシャレで、「伯備線をこよなく愛する地元住民と、全国から訪れる鉄道愛好家が相互親交を深め、良好な撮影環境づくりやマナーアップの啓発を図りながら、伯備線の利用促進、交流人口・関係人口の拡大に寄与します(大意)」と宣言します。

〝撮り鉄の聖地〟伯備線踏切での啓発活動にはJR西日本の和田隆根雨駅長や鳥取県警本部職員も参加。伯備線ファンクラブメンバーに謝意を伝えました(写真:鳥取県)

伯備線各駅で日野郡に位置するのは、米子側から江尾、武庫(以上江府町)、根雨、黒坂、上菅(以上日野町)、生山、上石見(以上日南町)の各駅。いずれも昭和の雰囲気を今に伝える撮影スポットして人気です。なかでも根雨は、江戸時代「根雨宿」として栄えた宿場町。風情ある街並みが今も残ります。

「ツーリズムEXPO」で鳥鐵発信

ここで「鳥鐵」余話。本サイトでは、2022年9月開催の観光見本市「ツーリズムEXPOジャパン2022」(東京ビッグサイト)の鳥取県でブースで見付けたパンフレット「鳥鐵ノススメ」を紹介しました。

鳥取エリアの締めは、レポートの拙文を再録して、「撮り鉄の方がSNSにアップした写真を見て、新たなファンが沿線を訪れる。鉄道会社や沿線とファンが、そんなWinWinの関係になれば、鳥鐵の目的も十分に果たされるでしょう」。

地域住民手作りの「ハッピーやくも」

続いて県境をまたぎ岡山県へ。岡山で地域とファンが共存共栄の関係を築くのが高梁市川面地区です。撮り鉄の聖地が備中川面駅。一級河川の高梁川沿いに駅があります。こちらも地域住民がファンを歓迎。JR西日本から感謝状を贈呈されました。

JR西日本は木豊太中国統括本部駅業務部長、国富靖二備中高梁駅長らが現地を訪れ、TEAMひとよせと地区の市民センターなど4団体・箇所に感謝状を贈りました(画像:JR西日本)

川面地区で「撮り鉄ウェルカム」の旗を振るのが、地域住民有志でつくる「TEAMひとよせ」。「列車を追って訪れる皆さんに、川面の良さを実感してもらう」をモットーに活動、花見シーズンに駐車場を開設したり、「鉄道ファンのみなさま ようこそ川面へ」の横断幕・のぼりを掲出します。川面地域市民センター(公民館)のブースでは、コーヒーや弁当を販売します。

ブースには募金箱を設置。500円以上募金をした人に、メンバーや地域高齢者が手縫いした「やくもストラップ」(JR西日本了承済み)を進呈します。ストラップは、〝ハッピーやくも〟の名が自然発生しました。

交通新聞の特集を見た斉藤国交相が現地訪問

川面地区でのファン歓迎の取り組み、交通・鉄道の専門紙・交通新聞が2024年4月23日付で特集しましたが、そこから話が広がりました。

特集を見たのが、鉄道ファンを自認する斉藤鉄夫国土交通大臣。2024年5月の中国エリア訪問で川面地区に足を運びました。斉藤大臣は撮り鉄スポットや備中川面駅を視察した後、市民センターのブースでTEAMひとよせメンバーらと車座対話しました。

報道によると、対話を終えたTEAMひとよせメンバーは「斉藤大臣に来ていただき、勇気も湧いた。今後は観光振興につながるよう、他地区との連携も考えたい」と話したそう。

2020年9月のスタッフブログでもご紹介いただいた通り、私は交通新聞での40年を超す記者経験を経て現在にいたります。OBの一人として、記事が鉄道会社と沿線地域、さらにはファンをつなぐ役割を果たしたことを知ってうれしく思いました。

記事:上里夏生

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