星空のようなロマンを運ぶ岩手県の「IGRいわて銀河鉄道」に、新たな歴史の1ページが刻まれました。このたび、同社が所有する芥堰橋梁や旧鳥越隧道など、明治から戦後にかけて造られた11の鉄道施設が国の登録有形文化財への登録を、文化庁の文化審議会が2026年3月26日に答申しました。1891(明治24)年の日本鉄道奥州線開業時から残る精緻なレンガ造りのアーチや、戦後の輸送力増強を支えた力強い橋脚。今回は、そんな歴史的価値の高い「生きた鉄道遺産」を巡りつつ、沿線の名所やご当地グルメも満喫する、とっておきの観光モデルコースをご紹介します。

明治24年開業の息吹を今に伝える11の文化財

かつて1891(明治24)年に日本鉄道奥州線として開業し、現在も地域の足として活躍するIGRいわて銀河鉄道線(盛岡⇒目時間)。今回、文化庁の答申により、沿線に点在する以下の11施設が登録有形文化財(建造物)となることが決定しました。

・芥堰橋梁、松川橋梁、松川避溢橋梁(盛岡市)
・第五北上川橋梁(岩手町)
・嶽川橋梁、袖ノ沢橋梁、第四小繫川橋梁、旧鳥越隧道(一戸町)
・第九馬淵川橋梁(上り線・下り線)、沢内川橋梁(二戸市)

どれも100年以上前の精巧なレンガ造りアーチ橋や、戦後の輸送力増強を支えた重厚なコンクリート橋など、鉄道インフラの歴史を間近で感じられる貴重な遺構ばかりです。

【保存版】IGRいわて銀河鉄道・登録有形文化財ガイド

それぞれの建造物は、明治の面影を残す精緻なレンガ造りから、戦後の復興を支えた力強い構造まで、多彩な表情を持っています。

盛岡エリア:鉄道黎明期のスタンダード

①芥堰橋梁(あくたぜききょうりょう)
盛岡駅から約18km北に位置する、明治24年建設のレンガ造りアーチ橋です。半円形のアーチはレンガ4枚分の厚みがあり、当時の標準的な設計を今に伝える貴重な遺構です。

芥堰橋梁

②松川橋梁(まつかわきょうりょう)
開業当初の石造りの土台を活かしつつ、戦後の輸送力増強に合わせて「船底形」の鋼鉄の桁(プレートガーダー)が採用されました。新旧の技術が融合した姿が特徴です。

松川橋梁

③松川避溢橋梁(まつかわひいつきょうりょう)
川の増水時に水を逃がすために設置された、スパン約3.6m(12フィート)の小さなアーチ橋です。切石積みで築かれた腰部と壁面が、地域の歴史的景観に溶け込んでいます。

松川避溢橋

岩手町エリア:近代化を物語るシンプルな美

④第五北上川橋梁(だいごきたかみがわきょうりょう)
北上川に架かるこの橋は、開業時の石造りの土台に戦後のシンプルな桁を載せています。明治の精緻な石工技術と戦後の実用美が対比的な、山間部の近代化を象徴する橋です。

第五北上川橋梁

一戸エリア:国内屈指の規模と精巧なレンガ造り

⑤嶽川橋梁(だけかわきょうりょう)
高さのある堂々たる構えのレンガ造りアーチ橋で、石積みの翼壁が左右対称につく美しい外観が魅力です。

嶽川橋梁

⑥袖ノ沢橋梁(そでのさわきょうりょう)
スパン約2.4m(8フィート)の小ぶりな橋ですが、壁面や腰部が切石積みで築かれており、開業当時の重厚な雰囲気を強く残しています。

袖ノ沢橋梁

⑦第四小繋川橋梁(だいよんこつなぎがわきょうりょう)
沿線で最大のスパン(約4.8m)を誇るレンガ造りアーチです。内部はコンクリートで補強されており、長く使い続けるための工夫が見られます。

第四小繋川橋梁

⑧旧鳥越隧道(きゅうとりごえずいどう)
かつての鉄道トンネルの一部で、建設当時は日本有数の規模を誇りました。レンガの積み方の違い(イギリス積みと長手積み)や、立派な石造りの坑門が見どころです。

鳥越隧道

二戸エリア:幹線としての歴史を刻む複線区間

⑨第九馬淵川橋梁(上り線)
旧国道をまたぐ大規模なレンガ・石造りのアーチ土台が残っており、戦後の軽快な橋脚との対比が印象的な景観を作り出しています。

⑩第九馬淵川橋梁(下り線)
昭和42年の複線化の際に建設された鉄筋コンクリート造の橋です。隣接する上り線の明治・戦後の構造と調和するように設計されています。

第九馬淵川橋梁

⑪沢内川橋梁(さわうちがわきょうりょう)
レンガ造りのアーチと精緻な石積みの壁が一体となった明治期の代表的な鉄道構造物で、当時の景観をそのまま伝えています。

沢内川橋梁

【参考】雪景色を続けます【私鉄に乗ろう87】IGRいわて銀河鉄道 その1 https://tetsudo-ch.com/4362767.html

途中下車で満喫!歴史とグルメの沿線めぐり

これらの文化財を効率よく、そして楽しく巡るならフリーきっぷを活用した途中下車の旅がおすすめです。

二戸エリア:新旧の橋梁美と温泉に癒やされる

二戸駅周辺では「第九馬淵川橋梁」が見逃せません。明治期に造られた石造橋台に戦後の鋼製桁が載る上り線と、昭和42年建設の鉄筋コンクリート造りの下り線が並行しており、時代の移り変わりを1枚の写真に収められる絶好の撮影スポットです。
見学後は、駅周辺で名物の「南部せんべい」を味わったり、足を延ばして座敷わらし伝説で有名な「金田一温泉」で旅の疲れを癒やすのが鉄板コースです(移動例:盛岡 09:00発⇒二戸 10:10着)。

一戸エリア:縄文ロマンとレンガアーチの競演

一戸町には、沿線最大スパンのレンガ造りアーチを持つ「第四小繫川橋梁」や、立派な切石積みの坑門が残る「旧鳥越隧道」など、見応えのある遺産が集まっています。
また、一戸駅から少し移動すれば、世界文化遺産に登録された「御所野縄文公園」へのアクセスも可能。鉄道の近代化遺産と太古の縄文遺跡という、異なる時代のロマンを1日で味わえる贅沢なエリアです。

インフラツーリズムの新たな起爆剤に

第三セクター鉄道にとって、老朽化する古いインフラは維持管理の面で大きな負担となる側面があります。しかし、今回の文化財登録により、それが堂々たる「観光資源」という明確な価値に転換されました。
今後は「ただ通り過ぎるだけの景色」から、「わざわざ見に行く目的の場所」へと変化していくでしょう。各橋梁を巡るウォーキングイベントや、車窓から文化財を案内する観光列車の運行など、インフラツーリズムの舞台として新たな企画展開に期待が高まります。

【参考】国の文化財を巡る、10年越しのリベンジの行方は?「新・鉄道ひとり旅」258回目の舞台は「IGRいわて銀河鉄道」 https://tetsudo-ch.com/13011106.html

車窓から一瞬だけ見えるレンガの橋台や、駅から少し歩いて見上げる壮大なアーチ橋。週末はカメラを片手に、IGRいわて銀河鉄道が紡いできた歴史の重みと沿線の魅力を体感するノスタルジックな旅に出かけてみませんか?※写真撮影の際は、私有地や線路内への無断立ち入りをご遠慮ください。

(写真:IGRいわて銀河鉄道)

鉄道チャンネル編集部
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)

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