ちょっと古いですがめっちゃ「テツかわいい旅!」です

本棚で見つけて懐かしくなって再読してしまいました。久しぶりに読みましたが文句なく面白いです。残念ながら文庫になっていませんがアマゾン辺りの古書で600〜1000円位で入手できます。新品で買った時が税別で1100円でしたから、あまり値下がりしていませんが、鉄道が好きなら「買っても損はしない」と再読して確信しましたね。「テツかわいい旅!」は腰巻きの惹句(コピー)です。

能町みね子さんは2006年に「オカマだけどOLやってます。」で鮮烈にデビューしました。「オカマだけどOLやってます。完全版」が今は文春文庫から出てます。東大卒というのがちょっと意外だったりもしますが、とにかく文章もイラストも味があって上手。ご本人は「自称まんが家」らしいです。ラジオやテレビなどによく出演しているらしいのでご存じの方も多いかもしれません。(筆者はテレビもラジオもほとんど接しないので分かりません)かなり鉄道に詳しい様ですがあくまでも「マニア」ではないと繰り返し主張されています。この本では同行する編集者のイノキンさん(女性)が全く鉄道ファンではないところで、また珍妙で新鮮な発言が愉快です。

川崎から南武線で尻手、南武線支線で八丁畷(はっちょうなわて)、京急で花月園前、歩いて鶴見線国道駅

このコースが渋い。国道駅はある種有名な廃墟っぽい駅です。しかし、そこに至るまでのプロセスがすごい。南武線の尻手駅から南武支線(浜川崎支線)に乗り換えるのも良いし、八丁畷駅は京急の相対式2面2線地上駅の上をJR南武支線が跨いでいて、このJRホームを跨線橋として京急が使うという面白い構造です。乗り換えた京急で降りた花月園前駅も、駅名の由来の花月園は1946年(昭和21年)に閉園していますし、その跡地に競輪場が作られましたがこちらも2010年(平成22年)に廃止という能町さん好みの「黄昏ムード」がベースにあります。しかし、能町さんが花月園前駅で降りたのは国道駅まで歩いても5分くらいというコトよりも東海道本線や京急線などポイント部分を渡っているので単線を1本とした場合の10本とも12本とも言える数の線路を渡る超長い踏切を渡りに行っているのです。そして国道駅の薄暗がりを堪能します。

静岡岳南鉄道 工場萌と富士山

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“工場萌え”で有名な岳南鉄道に乗ります。能町さんは“古いもの”に帯する愛着があるので“古い駅舎”も大好物。ここは筆者も同じ古い木造駅舎が大好きなので読んでいて嬉しいですね。ここでも駅間散歩を楽しんだり、通常の「乗り鉄」はしていません。

こんな調子で、江ノ電に乗っても「線路を越えないと出入り出来ない家」を探したり、沖縄唯一の鉄道ゆいレールに乗ったりします。白眉は北海道で今は廃止されてしまった美々駅を見に行ったり、比布の琺瑯看板を見に行ったりしているのです。こちらも廃止されてしまった留萌本線の礼受駅や阿分駅を訪ねています。

廃止されてしまった礼受駅

こちらも廃止された阿分駅

能町みね子さんによる「マップ」もなかなか楽しいですよ。

熊本から肥薩線で人吉、観光列車「いさぶろう・しんぺい号」に乗ってループやスイッチバックを楽しみながら吉松、そして嘉例川で駅舎を堪能した後は何と嘉例川駅から歩いて鹿児島空港まで歩いてしまうのですね。5km程度なのですが、まぁ歩く人は少ないのでその道中も面白い、茶畑と飛行機、ピンクのパーカーのイノキンさんの写真が良いです。見たい方は巻頭のカラー写真をご覧ください。(図書館にあるかもしれませんよ)

と言ふ理由で。〆の章は土佐電に乗ります。日本一駅間の短い(実距離63m、一説には84m)一条橋停留所と清和学園前停留所の間をウロウロします。

望遠レンズとは言え、二つの駅が並んでいるように見えます。
※画像はウィキペディアより

さらにセルフビルドで高名な沢田マンションを訪ねたり、鉄道以外のお楽しみもあります。

能町みね子さんの「うっかり鉄道」、マジな鉄道本とは些か趣が違うのですが、たまには「緩い(ゆるい)」鉄道エンジョイも良いですよ。

(写真・記事/住田至朗)