2018年 ブルーリボン賞 最優秀車両

西日本旅客鉄道 35系客車

選定理由;
蒸気機関車の動態保存列車の元祖というべき存在の「SL やまぐち号」では、従来 12 系客車をレトロ調に改造した客車を使用してきましたが、2017 年秋の山口デスティネーションキャンペーンを機に製作されたのが 35 系客車です。
製作にあたってのコンセプトとして、最新の車両で採用されているシステムを最大限活用しつつ、外観、内装は旧形客車の印象を視覚的に感じられることを目標にし、「最新技術で快適な旧形客車の再現」をテーマとしています。ベースとなったのは、主として戦前形広窓客車オハ 35 系で、形式番号はこれを踏襲し35系4000番代を名乗っています。
編成は津和野方からスハテ 35+オハ 35+ナハ 35+スハ 35+オロテ 35 の 5 両から成り、総定員は 245 名(内グリーン車 23 名)です。車体は鋼製で、窓帯、屋根の形状等、ベースとなった車両の外観が可能な限り忠実に再現されていて、茶色の塗色と相まって蒸気機関車牽引列車にふさわしいものとなっています。台車は軽量ボルスタレス台車で、ブレーキ方式は、牽引機の自動ブレーキ読替装置付きの電気指令式空気ブレーキです。床下機器として発電ユニットがスハとスハテに、電動空気圧縮機がオロテ、スハ、スハテに搭載されています。
内装は各車で異なります。オロテ 35 はかつての一等展望車を再現したグリーン車で、展望デッキを有しています。2+1 列の回転リクライニング座席を主体として、ソファーを備えた展望室を設けてあります。スハ 35、ナハ 35、オハ 35 は大型テーブルを備えたボックス席で、ナハ 35 は半車分が売店、投炭ゲームコーナー、運転体験コーナー、展示スペースとなっています。スハテ 35 は二重屋根狭窓のオハ 31 を模しており、車端部には展望デッキを有しています。車内は背摺りのモケットない座席でボックス席を構成しています。また多目的室、多機能便所、車椅子対応座席が設置されています。
蒸気機関車の動態保存列車は機関車だけでは成り立ちません。牽引される客車の確保は重要な課題となっています。35 系客車は開発コンセプトを高いレベルで具現化した点や蒸気機関車列車を永続的に運行するための一つの方向性を示した、という点を高く評価し、ブルーリボン賞に選定しました。

2018年ローレル賞 優秀車両

東日本旅客鉄道 E353系

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選定理由:
山間を走り急曲線が連続する中央東線のスピードアップは国鉄時代からの課題でした。JR 東日本発足後、1993 年に制御付き自然振り子車両である E351 系が「スーパーあずさ」に投入され、大幅に時間短縮が図られました。スピードアップに貢献した E351 系ですが、構造が複雑なためメンテナンスに課題を残していました。
E353 系は E351 系の置き換用に開発された車両で、E351 系が遠心力を利用して車体を傾斜させる振り子方式なのに対して、台車左右の空気ばねの空気を給排気して車体を傾斜させる方式を採用したことが最大の特色です。車体の傾斜角は最大 1.5 度(E 351 系は 5 度)ですが曲線通過速度は E 351 系と同等となっています。2015 年に量産先行車が登場して、試運転が繰り返されていましたが、2017 年 12 月に量産車による営業運転が開始されました。量産先行車による試験結果を反映し、量産車では全車に左右動軽減のためのフルアクティブサスペンションを装備し、車体傾斜による圧縮空気使用量増大に備えて空気圧縮機を増設しています。
編成は基本 9 両+付属 3 両の 12 両編成で、基本編成と付属編成の連結部には自動幌装置が装備されています。車体はアルミニウムダブルスキン構造ですが、先頭部はアルミの骨組みと FRP の構成で、ホロ蓋はステンレスです。LED 前照灯を縦 2 列に配した精悍なスタイルが印象的です。車体塗色は南アルプスの雪をイメージした白を基調に「あずさ」伝統のバイオレットの帯を車体の肩の部分に配しています。内装は普通車がブルー系、グリーン車がワインレッド系と差別化が図られています。最近のインバウンド客の増加に対応して一部の車両に荷物置き場を備えています。また、室内灯が LED による間接照明になったことも特長です。
制御方式は IGBT 素子による VVVF インバータ方式で E351 系や E257 系と同様に回生・発電制動を採用し、列車密度が尐ない区間での回生失効に備えています。車両情報管理装置 TIMS で編成全体の力行・ブレーキ・サービス機器等を制御します。また、パンタグラフ装備車の台車にはアンチローリング装置が装備され、車体傾斜の精度を高めてパンタグラフが架線から外れることを防いでいます。
E353 系は 2018 年 3 月から E351 系に替わって「スーパーあずさ」全列車に充当され、さらに増備によって主に「あずさ」「かいじ」に使われる E257 系も他線区に転出する予定です。斬新なデザインと高機能を備え、急曲線線区のスピードアップを担うホープであることを高く評価し、ローレル賞に選定しました。

東武鉄道 500系

選定理由:
東武鉄道 500 系は、26 年ぶりに登場した特急車両です。様々な運行形態で運用可能な速達性と快適性を併せ持った特急車両として、併結により 6 両 2 編成または 3 両 1 編成の運用を前提とした設計としています。運用区間は、浅草を起点に既存の日光・鬼怒川温泉から野岩鉄道・会津鉄道まで足を延ばしています。さらに、東武動物公園で分割し伊勢崎線舘林へ、春日部で分割し東武アーバンパークライン大宮と野田市への直通運転に大宮始発の運河行もあり、愛称「Revaty(リバティ)」に相応しい関東 1 都 4 県と福島県に及ぶ運用をこなしています。
デザインは、東京スカイツリーに代表される先進性と豊かな自然・文化のイメージを織り交ぜた外観・内装に仕上げています。外観は、特急車両を印象づけるスピード感を表現するため、貫通型先頭車ながらスラント(傾斜)と曲面を配した形状とし、前面から立ち上がる基調色のシャンパンベージュに側面のフォレストグリーンとフューチャーブルーの配色がシャープなイメージを創り上げています。室内は、沿線と江戸文化の趣を感じるデザインとし、通勤・観光利用いずれにも相応しい空間を備えています。座席は、快適性向上のために姿勢を楽にできるチルト機構を採用した偏心回転フリーストップリクライニングシートとしています。
車体は、軽量アルミダブルスキン構造で、床面高さをホームとの段差縮小のため 1,125mm とし、既存の100 系と比較して 60mm の低床化を達成しています。機器類には、それぞれ最新水準のものを採用しました。電機品類は、主電動機に永久磁石同期電動機を、制御装置に PMSM 対応の IGBT2 レベル方式電圧型 PWMインバータ方式を 3 両編成中の両先頭車に搭載しています。両機はバックアップ二重系として、各々のいずれかに不具合が発生した場合、健全な機器の出力を上げることにより、力行性能が求められる浅草〜東武日光間においても遅延が発生しないよう性能設定しています。補助電源装置は、低損失ハイブリッド SiC 素子を使用した待機二重系方式を搭載し、冗長設計を行っています。台車には、同社としては初めて全車にフルアクティブ動揺防止制御装置を搭載することで、乗り心地のさらなる向上を図っています。このほか、分割・併結作業を支援するため、貫通扉の展開・収納について一部を除き自動化しています。
このように 東武鉄道がこれまでにない運行形態を実現するにあたり、既存の特急車とは一線を画する車両を開発することによって、間もなく 90 年に達する特急運転網の歴史に新たな風を呼び込んだことを選考委員会では高く評価し、ローレル賞に選定しました。

鹿児島市交通局 7500形

選定理由:
鹿児島市交通局は、2002 年から国産技術による初の超低床車両 1000 形(愛称名:ユートラム)を 9 両、続いて 2007 年からその発展形となる 7000 形(ユートラムII)を 4 両導入しました。その後の LRT 整備計画の改定に基づき、新たなコンセプトによる 7500 形(ユートラムIII)を 2 両導入しました。
車体は鋼製とした 2 車体 2 台車による連接方式で、車体間は上下にある連接装置によって支持されています。車体の外観は直線基調のシャープな形状としています。外部の塗装色は鹿児島市民に馴染みのある交通局カラーを基本とし、南国鹿児島の太陽をイメージしたイエローと併用軌道区間全線に導入した芝生軌道をイメージしたグリーンとし、前面はブラックフェイスとして印象を引き締めたものとしています。前面の行先表示器はカラーLED 方式を採用し、視認性および表示の多様性を実現しています。
台車は左右の車輪を結ぶ車軸付きの低床台車で、車体荷重をゴムばねによって支持するボルスタレス台車として走行安定性があります。台車は車体に対してわずかにボギーする構造を取り入れて、曲線の出入口部分でスムースな車体の動きをすることにより、乗り心地の改善が図られています。主電動機と駆動装置は既存車両と同様の平行カルダン方式としながら、従来品より直径を小型化し、取付け高さを下げています。その結果、客室の座席を世界的に例が尐ないオールロングシートとすることができました。
客室の照明はすべて LED による省エネルギー対応とし、車内案内表示装置は 2 画面による液晶ディスプレイを運転室背面に設置し、4 か国語対応の表示とすることでインバウンド客対応としています。車椅子スペースと出入口部は乗客の移動に支障がないよう、はね上げ式のつり手を採用しています。床面高さは乗降口 350mm、連接部 390mm、台車上部 465mm とし、各床高さは緩やかなスロープとしてスムースな車内移動を可能としています。1000 形とほぼ同じ車体寸法ですが、運転室のコンパクト化も実現し、定員は 10 名増加して 68 名としています。
VVVF インバータ装置と補助電源装置は一箱化した構造とし、電動空気圧縮機は関連機器と合わせて一体箱として、いずれも屋根上に配置しています。
7500 形は超低床式路面電車の新しい構造を実現し、今後の新しい方向性が期待されます。これらの特徴を高く評価し、ローレル賞に選定しました。