読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その21

2019.06.27

映画監督で謎の死を遂げた伊丹十三さんの「新幹線にて」(1976年)です。『日本世間噺大系』(1976年 文藝春秋社)所収です。この単行本は読んでいましたが、「新幹線にて」は覚えていませんでした。

ロシア大使館の横に勤め先があった頃、バス停でバスを待っていると、すぐ横をロールスロイスのオープンカーを運転する伊丹さんがマンションの駐車場を出入りするのを見かけました。その度にカッコ良いなぁ、と思ったものです。そのマンションから落下して伊丹さんは亡くなっています。

私は学生時代、伊丹さんの『女たちよ』(1968年)が文春文庫になった時に読んで「個人主義のあり方」について伊丹流をストレートに叩き込まれた感じです。もちろん『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)も読みました。何故か初版本が書架にあります。(笑)

『女たちよ』の「あとがき」が最高!

配偶者を求めております
ごく贅沢に育てられたひと
ただし貧乏を恐れないひと
気品、匂うが如くであること

しかも愛らしい顔だち
エロチックな肢体をあわせ持ち
巧みに楽器を奏し(ただし、ハーモニカ、ウクレレ、マンドリンは除外す)
バロック音楽を愛し

明るく、かつ控え目な性格で
アンマがうまく(これは大事だ!)
天涯孤独であるか、ないしはごくごく魅力的な家族をもち、(美しい姉や妹たち!)

ルーの下着、エルメスのハンド・バッグ、ジュールダンの靴を愛用し
サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」が一番好きな小説で

片言まじりの外国語を話し
当然酒を飲み
料理に巧みでありながら
なぜか、カツパン、牛肉の大和煮、などの下賤なものに弱点を持ち

猫を愛し
お化粧を必要とせず

頭がいいけどばかなところがあり
ばかではあるが愚かではなく

まだ自分が美人であることに気づいてなく
伊丹十三が世界で一番えらいと思っている
私より二まわり年下の少女

というのであるが、ウーム計算すると残念ながら十年は無理だね。
計算すると彼女はまだ九歳にしかなっていない。

これを33歳の伊丹十三さんが昭和43年に書いたのです。この年に初めてのレトルト食品「ボンカレー」が発売され、テレビで「巨人の星」が始まり、日本初の超高層ビル霞ヶ関ビルが竣工しました。小笠原諸島が日本に返還され、郵便番号制度が始まった年です。サッポロ一番みそラーメンが発売、国鉄が大規模ダイヤ改正「ヨンサントオ」を実施、和田アキ子が歌手デビュー、フォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」、ピンキーとキラーズ「恋の季節」がヒットしました。

何とも垢抜けない1968年に、エルメスにシャルル・ジョルダンですよ!国内ではホンモノを入手できる場所が限られていました。70年代中頃でしたが、ガールフレンドがジョルダンを愛用していたので原宿パレ・フランセ(現存しません)に買いに付き合ったものでした。直輸入で高価なので吃驚、愛用のコンバースがダースで買えそうでした。

兎に角、1970年代中頃に読んでも十分先鋭的な内容でした。

で「新幹線にて」は「会員制の特別な弁当を買う」という内容のフィクション。販売されている駅弁の不味さを嘲弄する内容です。ちょうどこの時期に新幹線で売られている駅弁が不味いという評判があったのだと思います。伊丹十三さんは、ご自身料理が得意な方でした。

(写真・記事/住田至朗)

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