読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その24

2019.06.30

池内紀「豊前香春(ぶぜんかわら)」(2017年)

この本を編んだ池内紀さんの登場です。池内さんは独逸文学者、定年前に東大教授を退官してニュースになったので名前を御存知の方も多いかもしれません。

私は偶々、フランツ・カフカの翻訳や『池内紀の仕事場』(みすず書房 全8巻)を筆頭に長年池内紀さんのファンです。数えたことはありませんが2003年頃までの著作(40〜50冊)は概ね読んだと思います。それ以降の著作、サラリーマンを辞めてから15年は読んでいないですねぇ。処女詩集『傀儡師の歌』(1973年)も書架にあります。

池内さんを読まなくなった理由は、経済的な面(池内本は比較的高価)と杉並区と世田谷区の図書館が使えなくなったことです。この二つの区立図書館、蔵書量が凄い上にネットで検索・予約ができて超便利、無ければ他の図書館から借りてきてくれるので、余程の稀覯本以外は読むことができます。

残念ながら三浦半島に移住したので杉並・世田谷は遠くて使えなくなりました・・・。逗子市の図書館は、運営スタンスがヘンなので近づきません。

JR九州日田彦山線は、2017年(平成29年)7月の九州北部豪雨で添田駅〜夜明駅間が不通になっています。復旧についてJR九州と地元自治体の協議がまとまらないままバス代行が続いています。好きな路線なので私は被災前に何往復かしています。

池内紀さんは福岡で仕事をした後、小倉で一泊。翌朝、初めての日田彦山線に乗って香春を目指しました。戦前に書かれた土屋文明のエッセイで豊前香春を読んで訪ねることにしたのです。ハッキリ言ってブッキッシュ過ぎ!

河内王という貴人が豊前鏡山に葬られ、ゆかりの女性が歌を詠んだ。文明たちが訪れたころ、そんな大昔の由来はとっくに忘れられていて、「香春の町が前方に見えてきたので車を止めて附近の人家で河内王の御墓はと尋ねたがどうも分からない」といったふうに訪問記はつづられていく。本書 p.369

地図を見ると鏡山大神社の西側に河内王陵があります。香春駅の北1.5kmくらいの場所です。

池内紀さんは香春駅を降りて

町並みの背後に見えるのが香春嶽だろう。山というよりも「半面を殺ぎ取られた断崖」そのものであって、年々山そのものが殺ぎ取られているとみえる。白っぽい断崖に目を据えたまま、ゆるやかな坂道を下って金辺川のほとりに出ると、正面に全景がひろがった。本書 p.371

池内さんは古い町内を散策します。そこはユックリと潮が引く様に衰えていく古い町です。

旧道が整備され、小倉がグンと近くなり、とたんに町から若い人がいなくなった。近くに「道の駅」ができて、商店がつぎつぎ廃業していった。畳屋、薬局、すし屋、洋品店。青果店、スナック、カメラ屋、写真館が二軒、自転車屋、文房具店、豆腐屋・・・・歌う様に数えていく。
〈中略〉
新築のモダンビルは一日ごとに古びていくが、古い時代の様式をとどめたものは、その古さがむしろ現代には新鮮で、新しいのだ。本書 p.375

全国にひろがる景色です。寂しいシャッター商店街が延々と続く町の多いこと・・・。

(写真・記事/住田至朗)

TAGS JR九州 書籍・雑誌


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