「伊予灘ものがたり」はなぜ人気を保ち続けられるのか

2019.12.21

松山に停車する「伊予灘ものがたり」

観光列車といえば「水戸岡鋭治デザイン」で全国に名を轟かせるJR九州の領分という印象が強いかもしれませんが、同じJR三島会社であるJR四国も負けてはいません。

やなせたかしさんの出身地ということもあり「アンパンマン列車」は家族連れに人気ですし、「伊予灘ものがたり」や「四国まんなか千年ものがたり」もサービスの質が高くコスパが良いことで知られています。

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「鉄道チャンネル」でもJR四国の観光列車には過去に何度か取り上げていますが、2019年7月26日に「伊予灘ものがたり」が5周年を迎えたということで、今回は13:28松山発の「八幡浜編」に乗り、その人気の秘訣を探ってみることにしました。

伊予灘ものがたりとは

キロ47 1401

「伊予灘ものがたり」は2014年7月26日に運行を開始したJR四国のレトロモダンな観光列車。キハ47形の改造車を使った2両編成で金~日曜日を中心に1日4便で予讃線を運行しています。

朝に松山を発つ「大洲編」(朝食)
伊予大洲から松山に戻る「双海編」(昼食)
松山から八幡浜へ向かう「八幡浜編」(昼食)
八幡浜から松山へ戻る「道後編」(軽食)

食事予約券も購入すると一流のシェフが振る舞うお弁当や軽食をいただきながら伊予の海を眺めるショートトリップが楽しめます。

全車グリーン車指定席なので、乗車の際は乗車券の他に普通列車グリーン車料金が必要。松山~伊予大洲間は運賃970円、料金1,000円で片道1,970円。松山~八幡浜間は運賃1,300円、料金1,000円で片道2,300円。お食事は4日前までに食事予約券を購入する必要がありますが、不要であれば購入せずに乗ってもよし。きっぷ類は全国のみどりの窓口及び主な旅行会社で購入しましょう。なお、食事予約券購入の際は乗車券・グリーン券の購入または提示が必要です。

利用者数は2019年10月13日(日)に11万人に到達(運行開始659日目)。平成大豪雨の時期はさすがに客足が伸び悩みましたが、それ以降もコンスタントに利用者数を伸ばし続けています。11万人を659日×1日4便で割るとおよそ41.7人。1便の定員が50名なので、乗車率8割越えを維持し続けていると考えて良いでしょう。この調子だと来年の春頃、「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」が走り始めるころには12万人に届きそうですね。

内装・食事・サービスの質は?

内装は素敵の一言。降りる際に撮影させていただいたものですが、ボックス席や対面シートだけでなくカウンター席も用意してありますので、気軽な一人旅を楽しむこともできます。

伊予灘ものがたり1号車「茜の章」内装 ボックスシート・対面シートの他カウンター席も

カウンターの端には愛媛県のゆるキャラ「こみきゃん」と「ダークみきゃん」のぬいぐるみも。乗車された方の中にはここに自分のぬいぐるみを置いて記念写真を撮影された方もおり、車内で人気の撮影スポットとなっていましました。

イメージアップキャラクターは愛媛の「みかん」をモチーフに

車内では簡単な軽食を注文することも出来ます。アラカルトメニューを見てみると、1,200円で3種類の地酒が楽しめる「地酒呑み比べセット」が目を引きますが、キッシュやロールケーキ、和菓子セットも美味しそう。地元の名産品ということで坊ちゃん団子や一六タルトなども用意してありますね。料金はお料理が来たときにお支払い。

ピルスナーも頼める お酒とおやつは和洋どちらも行ける

写真は餅菓子の志ぐれ(しぐれ)。伊予白滝~伊予大洲間で大洲の銘菓として車内アナウンスが入ったのでつい注文してしまいました。羊羹のような見た目ですが、葛と餅のいいとこどりのようなモチモチ感がたまらんですよ。

大洲の伝統銘菓「志ぐれ」

お食事予約券をお渡しして13時40分頃から昼食がスタート。2019年11月の提供メニューは瀬戸内風仏蘭西料理 レストラン門田のシェフによる松花堂弁当です。まず「大根のクリームスープ」から。

あっさりまろやかな大根のクリームスープ

肝心のお弁当は……「蓮根のはさみ揚げ」「里芋のジャーマンポテト」「豚ヒレのサルティンボッカ」「牡蠣のピラフ」「イトヨリ鯛のかぶら蒸し」……メニューは天候など仕入れ状況によって変わりますが、いずれも満足のいく一品です。量は若い男性にはちょっと物足りない程度。上品な味付けでした。

おすすめは「イトヨリ鯛のかぶら蒸し」だそうで、溶ける淡雪のようなメレンゲの下に隠れるイトヨリ鯛がほろほろとして美味しい。

松花堂弁当

お値段は食後に珈琲が付いて5,000円。観光列車内での提供の難しさを考えると妥当なようにも思えますが、注文する側としては”迷う”価格帯でもあります。

余談ですが、八幡浜編では松山駅で積んだお弁当を途中の伊予平野駅で下ろします。もちろん他のコースではまた積み下ろしのポイントも異なります。お弁当も食べ終えた車内では道後編のカフェメニューの準備が行われていました。

絶景ポイントでは景色を楽しむために停車・徐行

下灘の線路と秋の海

予讃線で松山から伊予大洲まで向かう際は向井原のあたりから海回りと内回りに分岐するのですが、景色の良い海回りのルート(伊予市~伊予大洲間)には「愛ある伊予灘線」という愛称がついており、「伊予灘ものがたり」はこちらを通ります。同区間の中でも伊予上灘~伊予長浜間は車窓から伊予灘を眺めながらゆっくりとくつろげる名所として知られています。

鉄道ファンのみならず旅行ファンの間でも有名な「下灘駅」には14:13頃到着。停車時間はおよそ8分。乗客の皆さんは記念撮影のために外へ出て下灘の絶景と「伊予灘ものがたり」をバシバシ撮影していました。

絶景駅と伊予灘ものがたり

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下灘~喜多灘の区間では時折徐行運転に切り替えて運転します。この日は曇りでしたのでさほど映えはしなかったものの、車窓から眺める伊予灘の透き通る青が美しい。

透き通った海は晴れの日に見たい

14時53分頃には一級河川の肱川へ。鎌倉時代末期に築城された大洲城が遠目に見えます。ここはどちらかと言えば車内から大洲城を見るより、橋を渡る「伊予灘ものがたり」と大洲城、そして肱川の湖面を外から撮影したいスポット。

肱川の河原から手を振ってくれる人も

また絶景ではありませんがこんなポイントも。喜多灘は大洲市と伊予市をまたぐ駅ですので、ホーム上に引かれた境界線を見ることもできます。

伊予市と大洲市の境界、喜多灘

駅ホームや地元民によるお見送り・お手振りも充実

観光列車といえばやはり沿線の地元民によるお見送りや駅ホームでのお見送りが醍醐味の一つ。

「伊予灘ものがたり」ではまず松山駅を出発する際は駅員さんらによるお見送りがあり、十分にお手振りを堪能してからアテンダントや運転士の紹介アナウンスが入ります。

お見送り・お手振りポイント到着前は随時アナウンスを入れていただけるので、写真撮影などの準備で慌てる必要はありません。下灘では写真撮影した再出発する際にお見送りがあり、たぬきの里として知られる五郎(ごろう)では伊予灘ものがたりの利用者11万人突破や五周年を祝う立て看板も設置されているほか、「たぬき駅長」の写真を持った地元の方々によるお見送りも。

五郎でのお見送り

終点の八幡浜付近まで来ると民家の窓から犬がひょっこり顔を出しておもてなしをしてくれたり、ガソリンスタンドで作業中の店員の方々がお見送りをしてくれたりと意外なサプライズも。こうしたおもてなしの手厚さが伊予灘ものがたりの人気を支えているのかなと思います。

人気の秘密を考える

実際に乗ってみた感触として、まず何と言っても列車が綺麗。レトロな外装もさることながらシックなインテリアがよろしい。老若男女問わず受け入れられるデザインかと思います。敢えて言うなら子供受けはしなさそうですが、子供連れの乗客はアンパンマン列車を選ぶでしょうし、棲み分けが出来ているのでしょう。

実際乗客の傾向は多様でした。2両編成で運行する「伊予灘ものがたり」ですが、自分が乗った1号車には妙齢のご婦人方と外国人観光客と思しき旅行者が2組乗車していました。2号車の方には若い女性のグループが乗っており、下灘で降りた際に写真撮影を楽しまれていたのを良く覚えています。あとは鉄道ファンが数名。まあ撮りたいですよね、伊予灘ものがたり。

予想と異なったのは思いがけない目まぐるしさ。乗る前はぼーっと観光列車に揺られて3時間ほど伊予灘の海を眺めているのかな……と思っていたんです。ただ、伊予灘は見所が多いので窓外の景色からなかなか目が離せませんし、駅やその周辺では頻繁にお見送りがあります。車内アナウンスでは沿線の景色や地元のお菓子などを紹介してもらえるのでちょっとおやつを頼んじゃおうかなという気にもなる。会話する相手もいない一人旅でありながら、全く退屈しないどころかむしろ休む暇もないくらいワクワクが続く旅路でした。運行開始から五年、高い乗車率を維持し続けているのは一人でも全く気にならないほど「乗りやすさ」と「居心地の良さ」がずば抜けているからだと思います。

余談ですが、下灘駅で写真を撮ってから車内に戻ると食べかけの松花堂弁当にラップがかけられていました。このような細やかな気配りが心地よい旅と良い思い出作りを下支えしているのでしょう。

記事/写真:一橋正浩


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