どこが「鉄道業界初」なの? 東急電鉄車両に搭載された防犯カメラ「IoTube」の注目ポイントを紹介!
2020年7月27日(月)、東急電鉄は車両内に設置したLED蛍光灯一体型の防犯カメラ「IoTube(アイ・オー・チューブ)」のメディア説明会を実施しました。
同カメラは車内への取り付けが容易であり、設置コストも従来の監視カメラのおよそ四分の一ほど。ソフトバンクの4Gデータ通信を利用することで遠隔地からでも車内映像をほぼリアルタイムに確認できるといった様々なメリットを有しています。
防犯カメラは車内における迷惑行為を直接防止するものではありませんが、強力な抑止力となり得ます。東急電鉄は2020年7月25日時点でこどもの国線を除く1,247両に設置を完了しており、「東急の電車には必ず防犯カメラがついている」という状況が出来上がりました。
この「IoTube」、一体どのような防犯カメラなのでしょう? 導入の経緯についてはすでに様々な鉄道系メディアが取り上げていますので、本記事では少し突っ込んだ内容をQ&A形式で紹介します。
Q.何が「鉄道業界初」なの?
鉄道車両への防犯カメラの設置は特に珍しいものではありません。蛍光灯一体型の防犯カメラも、実はJR南武線の車両などで導入されており、鉄道業界初というわけではありません。
「IoTube」の特徴は4G通信機能を有していること。撮影された車両内の映像を暗号化してカメラ内のSDカードに記録したのち、4G通信機能を使用して伝送します。これが「鉄道業界初」の要素なんですね。
東急電鉄が過去に導入した防犯カメラは通信機能を有しておらず、いざデータが必要となるとわざわざ車両まで取りに行く必要がありました。東急車両は東京メトロや東武鉄道、埼玉高速鉄道などにも乗り入れているので、これまでは「当該車両が南栗橋に停車しています」「映像を取りに行くのに往復6時間かかりますが……」という状況もあり得たわけです。
Q.データは何時間分保存できるの?
防犯カメラ内のSDカードには1分単位で168時間分のデータを保存することができます。
24時間稼働する場合は7日間分。鉄道車両は24時間動いているわけではありませんので、およそ10日分ほどのデータを保存できる計算です。ちなみに録画時間が168時間を超えた場合は、最初から順に上書きされていく仕様です。
当初はサービス提供元であるソフトバンクのクラウドサーバーに映像を保存するといった案もあったようですが、採用には至りませんでした。
Q.他社線に乗り入れているときも稼働するの?
東急電鉄の車両が他社線に乗り入れているときも防犯カメラは稼働しており、そのタイミングで事故・迷惑行為等が起こった場合も性能を十全に発揮することができます。
2020年6月、副都心線内で紙袋に火をつける事件が生じた際も「IoTube」で撮影されたデータが警察に提供されています。
Q.電波状況が悪くても大丈夫?
東急電鉄の車両乗り入れ先まで含め、ソフトバンクの基地局がカバーしており、導入に際して問題ないことを確認済みです。
もちろんトンネル区間など通信が一部不安定になる場所もあるにはあるのですが、一旦SDカードに暗号化して保存→伝送という手順を踏んでいるので、通信が出来なくともその区間のデータが丸ごと抜けるようなことはありません。
Q.特別な工事は必要なかった?
「IoTube」はLED蛍光灯にカメラをくっつけたものなので、蛍光灯を取り付けるのとほぼ同じ感覚で設置できます。
ただし直管LEDランプの口金や全長、給電タイプなどの仕様により取り付けられないものもあるため、一部の車両では軽微な工事が必要でした。
ちなみに電源についてはパンタグラフからの直接受電が可能、直流/交流どちらにも対応しています。
Q.何カ所に設置しているの?
一部車両を除き、東急電鉄の東横線・目黒線・田園都市線・大井町線で使われている20m車両には4箇所、池上線や東急多摩川線の18m車両では3箇所に設置されています。
「IoTube」のカメラは最大視野角が160度と広範囲をカバーできるため、設置台数を抑えてもOKというわけですね。
Q.防犯カメラとしてしか使わないの?
IoTubeで撮影されたデータは離れた場所からほぼリアルタイムで確認可能です。そのため、有事の際の避難状況の確認や各種手配を行う際のツールとしても活用出来ます。
これまでは乗務員の通報からでしか情報が得られなかったり、問題の発見が遅れた場合に初動が遅れてしまうといった課題がありましたが、リアルタイムの「目」を増やすことで対応しやすくなりました。
Q.気になるお値段は
「IoTube」の導入にはソフトバンク株式会社の提供するIoT防犯カメラサービス「SecuLight」との包括契約が前提になりますので、メンテナンス代なども含めたランニングコストが必要です。
ソフトバンクの伊藤文武さんによると、「IoTube」自体の価格は蛍光灯とセットで1台16万円ほど。ただしこの価格はあくまで参考であり、鉄道車両では不燃素材を用いなければならないなど、導入先に合わせたカスタマイズを行うことで変動します。
Q.他社線や他の現場への導入は?
東急電鉄側から働きかけた結果、みなとみらい線でも導入が進んでいるようです。
また新型コロナウイルス流行下での「混雑状況の把握」が重要になった昨今、鉄道事業者だけではなく、学校や病院、工場や倉庫といった場所でも導入に向けた動きがあるようです。
「蛍光灯に4G通信対応の防犯カメラをつけました」というこのサービス、一見すると「一方ロシアは鉛筆を使った」(アメリカンジョーク)のようですが、考えれば考えるほど合理的です。
防犯カメラは直接的に売り上げを伸ばすものではなく、導入にかかるコストも重いものでしたが、IoTを利用したお手軽・低コストのサービスならどうにかなるという事業者も多いことでしょう。今後の普及具合に要注目です。
文/写真:一橋正浩