鉄道サブスクの事始めは「駅そば1日1杯」

駅そばは最もポピュラーなサブスクのサービスメニュー。素材やゆで方など、業者はそれぞれにこだわりを持ちます=イメージ=(写真:鉄道チャンネル編集部)

鉄道業界にいつごろからサブスクが登場したのか。「鉄道」と「サブスク」で検索しただけなので、見落としがあったらお詫びしますが、第一号は小田急電鉄が2019年10月から2020年3月まで実証実験したMaaS(マース)アプリ「EMot(エモット)」のようです。アプリは経路検索と電子チケットを兼ねていて、サブスクは特定駅の系列駅そば店で1日1回利用できる飲食チケットがセットされていました。

ここで注目したいのが、交通の総合情報基盤を表すMaaS。後続の鉄道各社のサブスクも多くはMaaS絡みで、①MaaSによる駅構内店舗での付帯サービスが鉄道を利用するきっかけになる、②MaaSはサブスク購入者を特定しやすく、決済(支払い)にも使える――という2つの理由から、MaaSサービスでサブスクを提供する流れが定着したと思われます。

サブスクでシニアの外出を促す

2020年の実証実験で発売された「東急線・東急バス サブスクパス」。日付の下に利用できるサブスクサービスがプリントされています。(画像:東急グループ)

2020年1月には、現在まで様々なサブスクビジネスを打ち出す東急グループが「東急線・東急バス サブスクパス」の同年3月からの実験開始を発表しました。電車とバス1ヵ月乗り放題で、セットされるサブスクサービスは①電動自転車の貸し出し、②渋谷の系列映画館の見放題鑑賞券、③駅そば店の定額パス――のいずれかから選べます。

ここでも駅そばが登場するのは、「電車に乗る前に駅そば」の方が、いかに多いかの証拠ですが、それより興味深いのは東急がサブスクの理由を、「沿線人口の高齢化を受け、交通手段と生活サービスをセットにすることで高齢者の外出を促し、沿線価値のさらなる向上を図る」とする点です。

会社を退職すると、どうしても家に閉じこもりがちになってしまいますが、自転車や映画、駅そばという外出の動機付けを用意することで、鉄道やバスを利用してもらうというか、とにかく家から出掛けてもらう。東急にそうした認識があるかどうかは不明ですが、同社のサブスクは高齢者の健康を維持する点でも、社会的な意義を持つと思います。

JR東日本は東京3駅、JR西日本はワーケーション

JRグループでは、JR東日本とJR西日本がサブスクビジネスを展開します。JR東日本は2021年3月に発表した、生活インフラとしての駅の価値を向上させる「Beyond Station(ビヨンドステーション)構想」で、モデル駅として上野、秋葉原、八王子の3駅を指定。サブスクビジネスでは2021年6月から、定期券利用客を対象にした、コーヒーや駅そばの飲食サービスを試行開始します。

JR東日本の「Beyond Station構想」でのサブスクサービスのイメージ(画像:JR東日本)

JR東日本は駅にボックス型のシェアオフィス「STATION BOOTH」を展開しており、サブスクかどうか微妙なところですが、定期客に利用料金を割り引きます。

JR西日本は昼はレジャー、夜は仕事のワーケーションを意識したサブスクを構想。兵庫県丹波篠山、京都府南丹、滋賀県高島の3市との共同プロジェクトとして2021年6月に開始する「おためし地方暮らし」で、京阪神への通勤者への定額制特急料金・運賃を、「特急料金サブスクサービス」「運賃サブスクサービス」と名付けました。

最新のニュースでは、東急電鉄が2021年5月12日から7月31日までの約3カ月間、定期券利用者を対象にしたサブスクサービス「TuyTuy」(ツイツイ)の第1期実証実験を実施しています。東京電力エナジーパートナーなど5社と共同で、パンの定期便や花の定額制サービスの可能性を試行・確認します。

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