バス転換より鉄道存続の方が地元負担が少ない

鉄道を語る時、全員が笑顔になります。彦根、八日市、水口と沿線自治体を移動しながら開催された「タウンミーティング」

沿線の人たちは、近江鉄道をどう見るのでしょう。沿線自治体や住民の意識調査からは、「運行本数が少ない」「運賃が高い」「交通系ICカードやキャッシュレス決済ができない」といった課題が浮かび上がります。実は近江鉄道のバスはICカード対応なのですが、鉄道は整備投資に回す資金がなく、後回しになっています。

近江鉄道の沿線人口は、ピークの2005~2010年には50万人を超えましたが、その後は漸減。2045年には42万人程度まで減少すると予測されます。地方鉄道は本線から分かれた枝線のような路線が多いのですが、その点近江鉄道は曲がりなりにもJR線に4駅で接続。沿線も過疎とばかりはいえません。いずこも同じですが、沿線住民の移動手段の多くはマイカーで、それが鉄道利用客を減少させます。

近江鉄道が取り組む「通学モビリティ・マネジメント」。通学の高校生に電車を利用してもらう取り組みは、進学や就職で沿線を離れても近江鉄道の記憶をずっと持ち続ける効果が期待できます

前章で再生協が、近江鉄道線の全線存続を判断したことを紹介しましたが、理由はずばり〝お金〟。近江鉄道を存続させた場合、国や滋賀県、沿線自治体の年間負担額は7億円弱と見込まれますが、バス転換すると年間20億円近い出費を強いられます。

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各地で話題の専用道を走るBRT(バス高速輸送システム)は、発想はいいのですが、車両や道路整備に初期投資が必要で、鉄道に比べインパクトは弱い。こうした理由で鉄道の存続が決まるのは、ファンとしてはうれしくあるものの、どこかすっきりしません。

全線フリー500円の定額きっぷを週末発売

その辺は再生協も十二分に認識するところで、近江鉄道の利用促進にあの手この手を打ちます。2020年9~11月の週末(金~日曜日)と祝日に実施したのが、「近江鉄道全線乗車キャンペーン」。定額(低額)乗り放題きっぷを発売して、普段はマイカーの沿線住民にも、鉄道を利用してもらう。きっぷは全線一日有効大人500円、子ども100円で、ファミリー客を誘致する意図が見て取れます。

定額きっぷの発売枚数は2万4533枚で、前年の全線きっぷに比べ約1.9倍の売り上げでした。購入者のうち43%は沿線外。関西圏からやってきた人が15%、名古屋などの東海圏在住者も9%いました。年代別の利用目的は10~40歳代が家族旅行、40~50歳代が小旅行や観光。再生協は、「近江鉄道を見直してもらうきっかけになった」と評価しました。