国交省の検討会でJR各社と障がい者団体が議論

国交省が新幹線のバリアフリー化、具体的にはフリースペースや乗降口のドア拡大を正式な政策課題に取り上げたのは、2019年末のこと。「新幹線のバリアフリー対策検討会」を立ち上げて、検討を始めました。

コロナ禍以前の当時、オリパラ1年延期は当然なく、若干付け焼き刃の感は免れないのですが、それでも会合には新幹線を運行するJRグループ5社(JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州ですね)の社長または幹部役員が出席して議論を交わしました。

JR各社がバリアフリー化に力を入れるのは、「国の会合なので」という身もふたもない理由ではなく、会合にDPI日本会議、日本身体障害者団体連合会(最近は「害」をひらがな表記しますが、ここは団体名のため漢字を使います)という、障がい者団体の代表が加わった点も大きいはずです。

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もちろん鉄道事業者は障がい者の声を聞き、車両や駅づくりに反映させるのですが、まとまって意見を聞く機会はありそうでない。会合に出席した赤羽一嘉大臣は、「バリアフリー化には福祉でなく、当たり前の公共社会をつくる施策として取り組みたい。誰もが快適に移動できる環境は重要で、新幹線はその象徴になる」と述べました。なるほどとうなずかされます。

TGV、ICT、KTXに比べると若干の見劣りも?

ところで、新幹線と海外の高速鉄道はどう違うのか。JR各社は新幹線のバリアフリー化に力を入れますが、車内の車いすスペースや乗降口の幅といった点は、フランスのTGVやドイツのICE、韓国のKTXといった世界の高速列車に比べ十分といえないようです。

正確な数値は見付からなかったのですが、国交省の資料にICEのフリースペースの画像があったので、転載します。新幹線と比べて、どうお感じになるでしょうか。

ドイツの高速列車「ICE」のフリースペース。車いす利用客が同行者と向かい合って食事などができるよう、テーブルも設置されます(画像:国土交通省)

車いす対応座席の予約についても、電話だけでなくWeb予約を試行するなど各社工夫しますが、まだまだ知恵の絞りどころはありそうです。例えば、インターネットから外国語で簡単に予約できるようにすれば、日本の鉄道への評価は、一段とレベルアップするでしょう。

新幹線バリアフリー化に関しては、赤羽大臣と朝日健太郎国土交通大臣政務官が2021年6月、4人の車いす利用者とともに、JR東日本のE7系新幹線に上野から大宮まで試乗した際の画像を、国交省からいただきましたのでご覧ください。

車いすスペースの新幹線に試乗する赤羽国交大臣(前から3列目)と朝日国交大臣政務官(最前列左側)。赤羽大臣の後方右側は深澤祐二JR東日本社長(写真:国土交通省)
大宮駅で降車後、車いす利用客の感想を聞く赤羽大臣(写真:国土交通省)

新幹線のバリアフリー化では、JR東海が東海道新幹線東京駅16~19番線ホームで車両乗降口(11号車)の段差を縮小するとともに、ホームと車両乗降口の間に、くし状の転落防止用ゴム板部材を取り付け、すき間を縮小したニュースも発信されています。

AIが視覚障がい者の安全な鉄道利用をサポート

安全性向上につながる国交省の鉄道バリアフリー化では、「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」の中間報告も公表されています。駅ホームからの転落事故を防ぐにはホームドアが一番ですが、整備にはお金と時間が掛かる。そこで、ホームドアとは別な形で安全対策を進めるのが政策の基本です。

国交省によると、視覚障がい者のホーム転落事故は最近10年間で年平均75件も発生しているそう。視覚障がいの方にとって、駅ホームは「欄干のない橋のようなもの」とうかがったこともあります。

実際の事故防止では、改札口などにAI(人工知能)カメラを設置して白杖を検知。駅社員が介助したり、ホーム端を歩く人に放送で注意を促す方法が考えられます。現状はまだ、AIの認知精度などに課題が残るそうです。

今は中間報告段階で、結論はこれから。国交省の資料から「転落事故の事例」を転載しますが、すべての事故を防ぐ完璧なシステムは難しいような気もします。事業者各社も駅ポスターなどで協力を促しますが、利用客それぞれが白杖の方などに進んで声を掛け、注意を促す。それが本当のバリアフリーという思いを抱きます。

さまざまな危険が潜む駅ホーム。点状ブロックが視覚障がい者の安全を支えることが分かります(資料:国土交通省)