日立製作所マネージドサービス事業部 吉田貴宏事業部長(左)と東武鉄道 山本勉常務執行役員(右)(写真:日立製作所)

東武鉄道と日立製作所は、生体認証を活用したデジタルアイデンティティの共通プラットフォームを2023年度中に立ち上げることで合意した。

日立が誇る国内シェアNo.1の指静脈認証と生体情報管理のPBI技術を活用し、決済・ポイント付与・本人確認などをワンストップで実現する。まずは東武グループの「東武ストア」セルフレジへ導入し、グループ内の業種横断利用へ、そして社会インフラ化へとつなげていくのが狙いだ。ジェーシービーも生体認証を用いた決済のガイドライン策定への助言などを通じ、検討に参画する。

無人化・省力化が浮き彫りにした課題

労働力不足を解消するための無人化・省力化が進み、コンビニなどの小売店ではセルフレジが当たり前に見られるようになった。スーパーマーケットのセルフレジ設置率は、2020年は15.8%だったものが2022年時点で25.2%まで伸びている。

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そうした流れの中で社会課題も浮き彫りになっている。たとえばコンビニでは未成年への販売リスクを考慮し、アルコールやたばこなどはセルフレジでは販売できない。そんなとき有人レジが混雑していれば「並ぶくらいなら買うのを止めよう」となり、年齢確認商品の販売機会損失につながる。

スポーツクラブなどでは、チェックインを無人化することで会員証の貸し借りが懸念される。昨今の健康保険証のマイナンバーカードへの一本化を巡る議論においても健康保険証の貸し借りによる不正使用が問題視されているが、根は同じだ。

こうした社会課題の解決と利便性の向上を目指し、東武と日立が「生体認証」でタッグを組んだ。話は日立が一年前の2022年8月に持ちかけ、東武グループも「生体インフラは社会インフラになるのでは」という考えから賛同、今年度中に東武グループでのトライアルのめどが立ち共同発表の運びとなった。

生体認証を活用してアクセス

両社が立ち上げる共通プラットフォームは次のようなものになる。公的証明書やクレジットカード情報など複数のデジタルアイデンティティを登録しておき、そこに生体認証でアクセスすることで、本人確認や決済を完了させる。指静脈認証、顔認証の2つの生体認証方式をサポートし、企業側は利用シーンに応じた方式を選択できるようにする。

先の年齢確認商品の例でいえば、セルフレジで指静脈認証装置に指をかざすだけで年齢確認とクレジットカードでの支払いが同時に完了する。記者会見の場では実機を用いたデモンストレーションも行われ、スムーズに酒類の購入が完了した。ポイントの付与なども可能で、使用するクレジットカードの種類なども選択できる。

認証装置に指をかざすことで年齢確認・決済がワンストップで完了する

鍵となるのは日立のPBI技術だ。生体情報から一方向性変換により生体情報へ復元できない秘密鍵と公開鍵を作成し、公開鍵のみクラウド上で保管する。サービス利用時は生体情報から秘密鍵を生成し、クラウド上のアイデンティティにアクセスする。毎回同じ秘密鍵を生成できるのが日立の強みだという。

鉄道の改札は生体認証で通れるようになる?

今回のデモンストレーションでは指静脈認証におよそ2秒ほど時間がかかっていた。セルフレジの決済ならさほど問題が生じるとは思えないが、私鉄として関東最長の路線網を持つ東武が都心部の改札機へ導入するのは現状では難しいだろう。

もし改札に導入するとなれば、Osaka Metroが実証実験を行ったような「顔認証」の方が現実的だ。指認証とは異なり、改札を通る前から近づいてくる顔をカメラで認識できるため、認証にかかる時間を稼ぐことができる。いずれにせよ、改札通過のスピードや認証精度の向上など、様々な課題をクリアする必要がある。

東武鉄道の山本勉常務執行役員は記者会見中にモビリティへの活用に触れ、「(当社グループとしては)鉄道なら自動改札など、こういった部分で社会インフラとして生体認証を定着させたいという考えがあるため、その導入を視野に入れて考えているのは事実です。方法や時期についてはまだ申し上げる時期ではありませんが、私個人的にはなるべく早く導入し、提供したいと考えています」と語った。

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