東京都心のターミナル駅の一つである品川駅の南隣の駅となる大井町駅に、2026年3月28日、JR東日本が推進する「広域品川圏」の一翼を担う、都市生活共創拠点「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」が開業します。JR大井町駅直結の複合型商業施設を中心とした、最大規模のプロジェクトですが、大井町駅周辺はどのように変わっていくのでしょうか。再開発事業の歩みからプロジェクトの概要、工事の進捗状況まで解説します。

大井町ってどんなところ?

3社3路線が乗り入れ便利な大井町駅

品川区に位置する大井町駅は、JR京浜東北線・東急大井町線・東京臨海高速鉄道りんかい線の3路線が乗り入れ、アクセス環境に優れています。ターミナル駅の品川駅から1駅約3分という立地で、駅直結の「アトレ」「エトモ」や駅からすぐの「阪急大井町ガーデン」「イトーヨーカドー」といった商業施設やスーパーマーケット、家電や家具などの「ヤマダデンキ LABI LIFE SELECT」など買い物施設も充実。気軽に利用できる飲食店も揃っています。

都心の便利なエリアでありながら、駅から少し歩くと閑静な住宅街が広がっていることも特徴。マンションはもちろん、昔ながらの木造住宅も多く、利便性と落ち着いた住環境を両立したい人にぴったりの環境です。

大井町駅周辺の再開発事業

品川区「大井町駅周辺地区のまちづくり」より引用

大井町駅周辺は1989年に総合区民会館「きゅりあん」に代表される大井町駅東口第1地区、1997年に「イトーヨーカドー大井町店」など大井町駅西口 D-1地区が竣工。そして、2011年に策定された「大井町駅周辺地区まちづくり構想」をもとに、広範囲で再開発が進められてきました。

大井町駅前の再開発により2011年に第1期、2014年に第2期開業した複合施設「阪急大井町ガーデン」

現在は、品川区が策定した「大井町駅周辺地区まちづくり方針」に基づき、広町地区でJR大井町駅に隣接する複合施設「OIMACHI TRACKS」の建設を主軸とした再開発プロジェクトが進行中。JR東日本は2023年4月から工事着工、2026年3月28日にまちびらきを迎えます。
合わせて、品川区は「OIMACHI TRACKS」に隣接する形で、2029年9月に新区庁舎の移転を計画しています。

完成間近! 2026年3月開業「OIMACHI TRACKS」とは?

「OIMACHI TRACKS」向かって左がオフィスタワー、右がホテル・住宅タワー

10月14日、「OIMACHI TRACKS」竣工に向けて佳境を迎えるなか、メディアに向けて完成一歩手前の工事現場が公開されました。

広域品川圏における都市生活共創拠点に

マーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニット ユニットリーダー 木村一哉氏

工事現場見学会では、JR東日本のマーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニット ユニットリーダー 木村一哉氏から、広域品川圏構想における「OIMACHI TRACKS」の位置づけについて説明がありました。

「広域品川圏」とは、浜松町駅から大井町駅間の東京南エリアのこと。羽田空港に近く、リニア中央新幹線や羽田アクセス線(仮称)、東山手ルートの開通などによりさらなる交通基盤の進化が計画されていることから、東京の新たな魅力・価値向上が見込まれています。
それにともない、現在JR東日本グループは、浜松町・田町・高輪ゲートウェイ・品川・大井町の各駅で、駅まちの一体開発を進行中。「OIMACHI TRACKS」は「広域品川圏」のまちづくりの一翼を担う都市生活共創拠点として2026年3月28日、まちびらきを予定しています。

【参考】広域品川圏とは? 床面積150万㎡ JR東日本のリニア起点駅周辺の浜松町~高輪~大井町にかけての戦略が始動
https://tetsudo-ch.com/13013300.html

再開発地域にあった課題と、その解消方法とは?

マーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニット マネージャー 中野貴雄氏

続いて、JR東日本のマーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニット マネージャー 中野貴雄氏から、広域品川圏の一翼を担う、都市生活共創拠点としての「OIMACHI TRACKS」が取り組む「3つの共創」について解説がありました。

「OIMACHI TRACKS」で取り組む3つの共創とは?

一つ目は「品川区との共創」。品川区新庁舎と「OIMACHI TRACKS」が一体的につながる形で整備をするとともに、品川区と連携し、防災力の高いまちづくりを目指します。
二つ目は「地域との共創」。敷地内に3つの広場を計画しており、これらを活用して地域のイベントを連携しておこない、大井町全体が盛り上げていきます。
三つ目は「Suicaを活用した共創」。広域品川圏の5駅は、Suicaの新しいサービスを実装するための「テスト場所」として位置づけられており、オフィスの入館ゲートや自動改札機の利用を通じ、地域情報の提供や特典の付与など、さまざまなサービスを先行して展開する場所として共創していきます。

再開発前の広町地区と、その課題

赤い点線部分が今回の再開発エリア(プロジェクト概要資料より)

今回のプロジェクトにおける再開発エリアは広町地区の、約7.1ヘクタールもの広大なエリアです。西側に品川区役所があり、その隣には「スポル品川大井町」というJR東日本が開発した複合スポーツエンターテインメント施設、東側には品川区の敷地で劇団四季の「キャッツシアター」、さらに東側に大井町駅と鉄道関連施設があり、車両のメンテナンスなどが行われていました。

高低差による移動のしにくさ・待ち合わせ場所や広場の不足
再開発前の広町地区は、さまざまな課題を抱えていました。そのひとつが「高低差による歩きにくさの解消」。地域の高低差や鉄道軌道などにより、スムーズに移動しづらい場所がありました。
また、駅から北西側にある「しながわ中央公園」に直接歩いて行けるルートがないことや、駅前に待ち合わせなどができる場所がないことも課題で「まちの回遊性の向上」「駅前広場の確保」も求められていました。
そして、木造住宅が密集し、災害時に火災のリスクが高い場所もあることから「発災時に避難できる広場の確保」も行い、防災的な課題も解決する必要がありました。

歩行者通路の整備や広場の新設で課題を解消

歩行者通路の整備内容(プロジェクト概要資料より)

これらの課題を解消するため、大井町駅からしながわ中央公園まで、JRが開発する土地と品川区が開発する土地をどちらも通る形で歩行者専用通路を設置。駅前には待ち合わせ場所に最適な、約1,000平方メートルの駅前広場「STATION PLAZA」を整備します。

「OIMACHI TRACKS」オフィスタワーとホテル・住宅タワーの中間地帯にも、人が多く集まることが予想されることから、2階と3階で合わせて約3,400平方メートルの複層的な広場「CROSS PLAZA」を、そして西側には最も広い約4,600平方メートルの広域避難場所となる「TRACKS PARK」が設けられます。
これらの広場と通路をつなげることで回遊性を高め、目的地までの道のりをシームレスにつなぎつつ、交通広場にはバスの停留所やタクシー乗り場も整備し、利便性を高めていくということです。

 

駅前広場「STATIONPLAZA」工事は順調に進行中

JR大井町駅トラックス口の正面に広がる「STATIONPLAZA」

「STATIONPLAZA」は、来年のまちびらきに合わせて新設されるJR大井町駅「トラックス口」を出ると目の前に広がる駅前広場です。現在は工事中ですが、東急大井町線への乗り換え改札の脇からも、まちの玄関口となることが期待されている、STATIONPLAZAに出ることができます。
ちなみに、STATIONPLAZAがある場所は3階に相当します。つまり、周辺道路とは3フロア分の高低差がある地形であるということです。前述の歩行者専用通路1号(TRACKS STREET)は3階の高さにあり、フラットな通路を歩いて移動できます。最終的には品川新区庁舎とつながる予定です。

ホテルロビーに続くエレベーターやエスカレーター、階段も既に完成していることが分かります

目の前にそびえる建物は、OIMACHI TRACKS HOTEL&RESIDENCE TOWER(ホテル・住宅タワー)。エレベーターやエスカレーター、階段で5階に上がるとホテルのロビーにアクセスできます。右手奥に見えるビルは、OIMACHI TRACKS BUSINESS TOWER(オフィスタワー)です。

【参考】山手線車両基地を望む “鉄道ビュー” ホテルメトロポリタン大井町トラックス が2026年3月に開業!地上100mのルーフトップバーも
https://tetsudo-ch.com/13013323.html

この場所ならでは「山手線車両基地を望むデッキ」

デッキ手前の大きなプランターにはこれから植栽が施され、訪れた人々の目を楽しませる予定です

向かって右側には、山手線車両基地を望むデッキが広がっています。高層建築物に囲まれた都心にありながら、周囲に高い建物がない立地はとても貴重。品川方面の夜景や風景を楽しめます。

ウッドデッキの先に広がる山手線車両基地

取材時はちょうど、朝のラッシュが終了する時間帯。ここから11時30分頃まで、JR山手線が次々に入庫する様子を見ることができます。

オフィス棟高層階の眺めは?

1フロアあたりの貸床面積は都内最大級

オフィス棟は23階建て。今回は最上階のワンフロア下、22階を見学しました。入った瞬間、オフィスフロアの広大な空間に驚かされます。

貸床面積約5,000平方メートルの無柱大空間で、さまざまなレイアウトが可能(画像:JR東日本)

オフィス棟は、ワンフロア貸しはもちろん、8分割まで対応が可能。リーシングは順調で、既に多くの企業への賃貸が決まっているそうです。都心のオフィスから移転する企業が多く、元々の交通利便性に加えてビルの目の前に改札が新設されたこと、ワンフロアあたりの床面積が都内最大級の約5,000平方メートルと本社機能なども誘致できる広さであることから、ワンフロア貸しで契約する企業が多いそう。来年3月のまちびらき以降、順次入居する予定です。

オフィス棟の窓から眺める「東京総合車両センター」

オフィス棟は、STATION PLAZAよりやや西側に位置するため、「東京総合車両センター」の全体を見渡すことができます。周辺を走る各路線の線路も一望できます。

オフィス棟に隣接するホテル・住宅タワー

ホテル・住宅タワーの1~5階は商業施設「OIMACHI TRACKS SHOPS & RESTAURANTS」、その上の6~13階は「ホテルメトロポリタン大井町トラックス」、15~17階はホテルライクなサービスを提供する長期滞在用レジデンス「オークウッド大井町トラックス東京」、そしてバルコニーが見えている部分(14~25階)は賃貸レジデンス「OIMACHI TRACKS RESIDENCE」となっています。最上階の26階には、車両基地を一望できるルーフトップバーが設置される予定です。

オフィス棟の窓から眺める「TRACKS PARK」

上の写真は、正面の四角い建物が現品川区庁舎、その手前の更地部分が新品川区庁舎の建設予定地、そして左手が広域避難場所として開放される予定の「TRACKS PARK」です。左手奥の方には、天気が良ければ富士山が見えるそうです。

「TRACKS PARK」も工事が着々と進行中

取材時の「TRACKS PARK」(写真左)と完成予想図(画像:JR東日本)

約4,600平方メートルの広大な広場を整備。まだ芝生を張ってはいませんでしたが、植栽の準備は進められていました。完成時には緑豊かな広場を見ることができそうです。イベントや地域活動の場として、災害時には広域避難場所としても機能する想定です。

大井町エリアは元々、都心にありながら住環境の優れた「住み続けたいまち」として人気がありました。そこに、今回の再開発によって大規模なオフィスやサービスレジデンス、ハイグレードなホテル、人が集まる広場や行き来しやすい歩行者通路といった都市機能をプラス。大井町がより賑わいのある、多くの人が集多くの人が集まる魅力溢れたまちになることでしょう。まちびらきが今から楽しみですね。

文・注釈のない写真:斎藤若菜
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)

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