「神戸変わるアクション」でピカビカに磨き上げられた神戸市営地下鉄駅と入線する電車(写真:神戸市営地下鉄)

「鉄道の日」(10月14日)の10月は秋のレジャーシーズンにも重なって、さまざまな〝鉄のイベント〟が繰り広げられました。全国レベルのファン向け催しが2025年10月11~12の両日に東京・お台場で開かれ、延べ約5万7000人が訪れた32回目の「鉄道フェスティバル」。そしてもう一つ、オールジャンルの鉄道業界の優れた取り組みを国レベルで顕彰する「日本鉄道賞」です。

24回目を迎えた日本鉄道賞の表彰セレモニーは2025年10月14日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京での「鉄道の日」祝賀会にあわせて開かれました。

鉄道130年の2002年に創設された日本鉄道賞、今回、32件の応募から最優秀賞の日本鉄道大賞に選ばれたのは神戸市交通局の「KOBE KAWARU ACTION(神戸変わるアクション) 駅から神戸をよくしよう」です。

「駅をぴかぴかに磨き上げて、市民や鉄道ファンに気持ちよく利用してもらうプロジェクト」で、鉄道のサービス業の原点に立ち返るクリーンアップ作戦が高評価されました。セレモニーでは、神戸市交通事業管理者の城南雅一神戸市交通局長と、同局の森川誠也副局長に表彰状と記念の盾が贈られました。

日本鉄道大賞を受賞した神戸市交通局の城南局長(神戸市交通事業管理者、左)と森川副局長(右)(筆者撮影)

駅を磨いて地下鉄をレベルアップ

「新型特急『やくも』」、「(東急、相鉄)新横浜線開業」、「新型ハイブリッド車『HC85系』」、「海底地震計による新幹線地震早期検知」、「常磐線全線運転再開」……。2024年まで過去5年間の大賞受賞件名には、新型車両や新線プロジェクトが並びます。

それに比べると、今回の「神戸変わるアクション」は若干地味かも。そもそも神戸市交通局が駅のクリーン作戦を繰り広げることを、筆者を含む神戸市民以外の方はご存じないのではないでしょうか。

神戸変わるアクション、コンセプトは「駅から神戸をよくしよう。」ですが、新車や新線といったハード面のバージョンアップは基本的にありません。具体的に取り組んだのが「駅の丸洗い」です。終電運行後、神戸市交通局職員や関係者が大集合、床や壁から天井まで、高圧洗浄してピカピカに磨き上げました。

今回の大賞受賞はハード面の裏付けがなくても、鉄道を格段にレベルアップさせられることを示したものと言えます。

日テレ藤田アナが選考委員務める

背景の一つに、前回と大きく変わった表彰選考委員の顔ぶれがあるのかもしれません。

選考委員9人のうち、五十嵐徹人国土交通省鉄道局長と、鉄道ファンとして知られる将棋の藤井聡太さん(残念ながら今回の表彰式は欠席でした)を除く7人が新顔。東京大学大学院工学系研究科の加藤浩徳教授(委員長)、鉄道アーチストとして活動する小倉沙耶さん(交通環境整備ネット審議役)、交通新聞社月刊「旅の手帖」の山口昌彦編集長らが選考に加わりました。

テレビでおなじみなのが、日本テレビの藤田大介アナウンサー(コンテンツ戦略局アナウンス部主任)。ニュース番組のキャスターとして活躍する傍ら、鉄道ファンの顔も持ち、2025年9月には鉄道開業200年を記念してイギリスで運転されたSLウォッチのため現地を訪れたそう(藤田アナはSL運転をSNSのXに投稿しています。ぜひご覧下さい)。

セレモニー後、藤田アナに今回の日本鉄道賞のポイントを聞きました。

選考委は授賞理由を、「誰だって自分の家に人を呼びたいなら、部屋をきれいにします。駅は地域の玄関。壁を、階段を、床をごしごし。それが済んだら今度はトイレをごしごし。ちゃんと心地よく使ってもらえるように(大意)」と明快に表現します。

鉄道愛を熱く語る藤田日テレアナウンサー。「神戸市交通局の駅に美しさを取り戻す取り組みには、選考委員一同深く感激しました」と思いを明かしました(筆者撮影)

丸ノ内線で無線式列車制御(東京メトロ)

日本鉄道大賞に続く選考委特別賞は4件。「日本の地下鉄初の無線式列車制御システム(CBTCシステム)導入」(受賞者・東京メトロ)、「チケットアプリ『しこくスマートえきちゃん』の開発」(JR四国)、「震災から立ち上がる復興への取り組み」(のと鉄道)、「ふるさと納税を活用した地方鉄道・沿線自治体支援の取り組み『テツふる』」(旅行読売出版社など)が受賞しました(件名は適宜略記しました)。

特別賞から丸ノ内線のCBTCに注目しました。東京メトロは2024年12月から、丸ノ内線全線に日本の地下鉄初めての無線式列車制御システムを採用しています。

東京都心の地下を走る地下鉄は高密度運行、複雑な線形、限られた空間での地震対策といった制約条件を課されます。鉄道技術の最先端をいく無線式列車制御は、それらを克服しなければなりません。

基本の仕組みは、線路側と車上が常時無線通信で情報交換しながら高精度の列車位置検知や柔軟な運転整理を実現。万一の輸送トラブル時も、的確に遅延回復できる機能を持たせ地下鉄への信頼度を向上させました。

東京メトロは銀座線と丸ノ内線を除く各線区でJRや私鉄各社と相互直通運転しており、基本スペックを共通化して他社から乗り入れる車両も無線制御するなど、高度な汎用性を確保しています。

CBTC導入で森地茂「鉄道の日」実行委会長(左)から選考委特別賞を受ける東京メトロの小川孝行代表取締役専務と清水忠執行役員・車両部長(筆者撮影)

キャラコンテナで鉄道モーダルシフト

さらにワンポイント、2025年から新しい表彰制度「エコレールマーク大賞」もスタートしました。貨物輸送の鉄道モーダルシフトで成果を挙げた荷主企業や利用運送事業者(通運会社)を表彰します。

物流業界では、原料や製品輸送での鉄道利用を表す「エコレールマーク」が2005年から始まっています。お手元の食品や菓子にはひょっとしたらマークが表示されているかもしれません。エコレールマーク大賞は、地球環境問題への関心の高まりに呼応して、国レベルの表彰にレベルアップしたものです。

栄えある1回目の大賞受賞企業は菓子メーカーのブルボン。製品輸送に鉄道コンテナを積極利用するほか、キャラクターのプチクマをモチーフにした鉄道コンテナを活用して、鉄道貨物のイメージアップに貢献した点が評価されました。

第1回エコレールマーク大賞受賞の決め手になったブルボンのプチクマコンテナ(画像:鉄道貨物協会)

記事:上里夏生