スペキュラティブ・デザインで課題解決

オンラインセミナーでMaaSを紹介する西山東京都市大准教授。以前の取材では、「MaaSでクルマが売れなくなると思い、自動車メーカーは頻繁に話を聞きに来るが、鉄道事業者はあまり来ない」と話していました。

最後にセミナーをもう一件、オンライン配信された有識者による講演から、東京都市大学都市生活学部の西山敏樹准教授の「近未来の交通運輸サービスのとらえ方と必要な技術像」を取り上げます。西山准教授の専門は、一般市民の目線で見たモビリティー(移動)。具体的には、交通の総合情報基盤・MaaSで鉄道業界の進化を後押しします。

講演で挙げたキーワードは、「スペキュラティブ・デザイン」。私も初めて聞いた専門用語ですが、最初に将来の理想像を描いて、そこから現在にさかのぼり、何をすべきかを考えるデザイン手法――といわれてもさっぱり分かりませんが、西山准教授が鉄道で例示したのが、新幹線や在来線特急で進む「貨客混載」です。

当然ですが、鉄道は座席にお客が座った場合だけ利益を生み出します。しかし現在、コロナで多くの席は空いている。空いている座席で利益を生み出す――が理想像。そこで、空席にお客の代わり荷物を乗せて利益を生み出すことにしたのが、貨客混載です。

スペキュラティブ・デザインで描いた将来の鉄道では、環境性能に優れた「蓄電池新幹線」が登場するかも(画像:西山東京都市大准教授)

可能性大の鉄道サブスク

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鉄道スペキュラティブ・デザインで今後、大きな可能性を持つのが、本サイトでも取り上げたばかりの鉄道サブスクリプション。サブスクの定額制デジタルフリーパスは、スマートフォンで①チケットを選ぶ、②クレジットカード情報などを入力して購入する、③乗車時に画面を読み取り機にかざす(駅員などに見せる)――のスリーステップで、乗車手続きが完了します。

西山准教授が、鉄道サブスクの好例としたのが、JR東日本、東急、伊豆急行の3社が協業で取り組んだ「Izuko(イズコ)」。3社は2020年11月から2021年3月まで、静岡県伊豆エリアを対象に、3段階に分けて観光型MaaS「Izuko(イズコ)」の実証実験を実施しました。Izukoは、オンデマンド交通など、さまざまな公共交通機関や観光施設、観光体験をスマホで検索・予約・決済できるサービスです。

私自身、サイトでMaaSやサブスクの記事を頻繁に書かせていただいていますが、西山准教授の講演を聞いて、それらがスペキュラティブ・デザインという一つの考え方でつながっていることが理解できました。

文/写真:上里夏生