トークセッションにオンラインで顔をそろえた、鳥塚トキ鉄社長、澤田津鉄社長、矢ケ崎紀子東京女子大教授、井上嵯峨野観光鉄道社長=左上から時計回り=

【前回】観光復活のカギは地域鉄道にあり レトロ電車、スイーツトレインなど 「地域鉄道フォーラム2021」から(前編)【コラム】
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交通環境整備ネットワークがオンライン開催した、「地域鉄道フォーラム2021『観光と鉄道』」を紹介するコラムの後編です。観光庁の片山敏宏観光戦略課長の基調講演に続くトークセッションには、えちごトキめき鉄道(トキ鉄)の鳥塚亮社長、嵯峨野観光鉄道の井上敬章社長、津軽鉄道(津鉄)の澤田長二郎社長が参加し、コーディネーター(司会)の矢ケ崎紀子東京女子大学現代教養学部教授とともに、ニューノーマル(新しい常態)時代の地域鉄道のあり方を話し合いました。

コロナ前、訪日外国人中心に地域鉄道の利用が増えていましたが、「2020年のインバウンドはほぼゼロに」(鳥塚トキ鉄社長)。そこで、日本人旅行者を誘致するのが各社に共通する戦略です。東京などへの緊急事態宣言再発出で自由な旅行は難しくなりますが、私からの「少しでも旅行気分を味わっていただれば」の願いも込め、地域鉄道3社にバーチャルでご乗車下さい。

「リゾート雪月花」がトキ鉄を行く

沿線観光に新風を吹き込むトキ鉄の観光列車「雪月花」

トップバッターはトキ鉄。2015年3月の北陸新幹線延伸開業で、並行在来線のJR北陸線市振―直江津間(59.3キロ)と、JR信越線妙高高原―直江津間(37.7キロ)を引き継ぎました。北陸線は「日本海ひすいライン」、信越線は「妙高はねうまライン」と称します。

トキ鉄は、新潟県や沿線3市などが出資する第3セクター鉄道。説明不要でしょうが、鳥塚社長は2009年~2018年に千葉県のいすみ鉄道の公募社長を務め2019年9月、トキ鉄の2代目社長に就任しました。

北陸信越を代表する観光列車が、2016年にデビューした観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」です。形式はET122形1000番台。気動車2両編成で、天井まで回り込んだ大型窓ガラスで、迫力いっぱいの沿線風景が楽しめます。

車内では、地域の味覚をあしらったグルメを提供。料金は1人2万円ほどで、乗客の多くはアジアからのツアー客でした。コロナ前のトキ鉄の主な収入源は、年間800~900人のインバウンド客だったのです。

35人の募集に1200人が応募

ホテルのラウンジを思わせる「雪月花」の車内

ところが、コロナでインバウンドは壊滅。そこで、トキ鉄が新しい顧客として着目したのが地元・新潟の人たちです。新潟県民は、ニュースなどで雪月花を知っていました。しかし、ツアー料金が高額なので、「自分たちには無縁」と思い込んでいたのです。

そこで食事を省く代わり、1500円の1日フリーきっぷでも抽選で乗車できるようにしたところ、30~35人の定員に対し、1200人もの応募があったそう。高嶺の花だった雪月花が、自分たちのところに降りてきたのです。

雪月花は、沿線の学校の修学旅行でも運行されます。コロナで東京や関西へは行けなくなったけれど、地元の観光列車は友だちや先生との旅の思い出をつくってくれました。

鉄道の街・直江津にレールパーク

ヘッドマークを付けたデゴイチが、往時の鉄道の街・直江津の活気を呼び戻します

鳥塚社長のアイディアは、際限ありません。次なる取り組みは、本社を置く上越市の直江津運転センターに2021年4月29日、オープンした鉄道テーマパーク「直江津D51レールパーク」。信越線と北陸線が合流する直江津は、ファンにも良く知られた〝鉄道の街〟で、国鉄時代は機関区がありました。

トキ鉄は、機関区の転車台などを観光資源化。レールパークの主役はもちろんSLで、民間企業が保有していたデゴイチことD51が搬入されました。このD51、本線は走れませんが、シリンダーに蒸気を送り込む簡易な方式で、テーマパークと直江津駅手前の間、約250メートルを往復します。SLには緩急車(貨車の車掌車)を連結し、体験乗車できます。

鳥塚社長によると、今やSLを知るのは祖父祖母のシニア世代。ファミリーの父母世代もSLは知りませんが、実走するSLに目を輝かせるのは、子どもたちよりお父さんの場面も多いようです。