鉄道と海の幸

観光列車「べるもんた」では板前も乗車し、海の幸を提供する(画像:サンシャイン / PIXTA)

せっかく寿司の写真を出したので、ここでもう少し踏み込んで、鉄道と富山県の海の幸にも触れておきたい。

「海の幸が美味い都道府県」を募れば、必ず挙げられるのが北海道だが、実は富山県も負けていない。「チェーンの回転寿司でさえ美味い」県の筆頭格である。

その美味さを支えるのが、唯一無地の天然の生け簀である「富山湾」だ。深層の日本海固有水、中層部の対馬暖流、河川水が流れ込む表層部の三層に分かれており、獲れる魚介類の種類も豊富ときている。

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もっとも、このあたりは鉄道ファンには既知の事実かもしれない。冬の18きっぷシーズンに氷見の漁港で「寒ぶり」をいただいたり、定番の富山駅弁「ますのすし」を買ったり……富山に行ったついでに海の幸を堪能する鉄道ファンは決して少なくないだろうから。

県西部の城端線・氷見線で運行する観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール(べるもんた)」を思い浮かべる方もいるだろう。キハ40系を改造し、2015年の北陸DCにあわせて運行を開始した「べるもんた」では、事前予約すれば板前の握りたての寿司やお造り、地酒を味わうこともできる。職人が同乗する観光列車は魚介王国ならではと言える。

魚介×新幹線という組み合わせもある。最近では遠隔地の新鮮な食材を新幹線で運ぶ貨客混載輸送が盛んで、各地で実験が行われている。

富山県の場合は、2020年に実施された「うまさ一番 富山のさかなフェア」が印象に残っている。JR東日本とJR西日本が共同で運行する北陸新幹線で、富山県の新鮮な魚介類を運んだ。

新鮮な魚介類の受け渡しの様子

新幹線輸送は「量」を運ぶには向いていない。しかし速達性においては他に類を見ず、また関東の主要駅まで運んでしまえば駅ナカのレストラン等ですぐに食事として提供できる。前述の「写楽」でも出た「白えび」などは、富山以外ではなかなか食べられないが、当時のフェアでは東京駅構内の店舗に料理素材として卸されていた。

「現地に行かないとなかなか食べられない新鮮な食材」を新幹線で輸送し東京で売れば、興味を持った方を「北陸新幹線に乗っていらっしゃい」と誘客できる。寿司や魚介の美味さに惹かれて行ってみれば、食べ歩く中で昆布文化に出会い、それを育んだ北前船に思い至る。

北前船の文化は富山県だけでなく、主要な寄港地であった北陸の石川県や福井県にも色濃く残り、資料館も各地に点在する。2024年春、北陸新幹線敦賀延伸が果たされたら、更に先へと足を伸ばしてみるというのはどうか。最奥には北前船をモチーフとした駅舎が待っている。

記事:一橋正浩