三セク鉄道転換が一般的、しかし例外も

しなの鉄道(長野県)、青い森鉄道(青森県)、えちごトキめき鉄道(新潟県)、肥薩おれんじ鉄道(熊本、鹿児島県)など整備新幹線開業後の並行在来線は、地元が出資する三セク鉄道に移管されるのが一般的です。でも、鉄道として維持するかは、あくまで地元の判断次第。いくつかの例外もあります。

信越線横川―軽井沢間(11.2キロ)は、1997年10月の長野新幹線(北陸新幹線)開業で廃止されました。鉄道ファンの皆さんにはおなじみ、横軽間は碓氷峠の急こう配区間で、補機のEF63が2両重連で横川方に連結され、列車を押し上げていました。横軽間を鉄道のまま継続するのは、いかにも非効率と思えます。

一方、廃止区間手前(東京方)の信越線高崎―横川間(29.7キロ)は、新幹線開業後もJR東日本が自社線区として運行しています。しかし、信越線はあくまで例外。新幹線が開通すると並行在来線はローカル線になるので、三セク鉄道化するのが一般的です。

余市町を除いて「廃止もやむなし」

小樽方面への通学生などで一定の鉄道需要がある余市駅。余市町は人口約1万8000人で、かつて朝の連続テレビ小説でも取り上げられたウイスキーメーカーの蒸溜所(工場)などの観光スポットがあります(写真:shingokun / PIXTA)

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私自身、協議会での議論をずっとチェックしていたわけでなく、後追いで恐縮ですが、最後まで鉄道存続の意向を示していたのは沿線市町で余市町だけのよう。小樽市など他の7市町は、廃止もやむなしで、余市―小樽間を鉄道で残すか、バス転換するかが、最大の論点になりました。

協議会の資料に、山線を三セク鉄道に移管した場合の収支予測がみつかりました。長万部―小樽間をすべて三セク化した場合、北海道新幹線の札幌延伸開業実質初年度の2030年度の収支予測は運輸収入(雑収入含む)4億7400万円、営業経費27億6000万円で、年間22億8000万円(正確には22億8600万円)の営業赤字になります。

長万部―小樽間の輸送密度。国鉄時代の1980年には既に特定地方交通線として廃止を検討する1日4000人を下回っています。近年はさらに減少していますが、600人強で比較的安定しています(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)
長万部―小樽間の鉄道、バスルート比較。黒松内、倶知安、小沢、然別、余市の各駅で鉄道とバスが接続しますが、道内では高速バス路線網が発達し、鉄道に乗車することなくバスで直接札幌方面に向かう利用客も数多くいます(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)

鉄道存続の道を最後までさぐった余市―小樽間ですが、「巨額な初期投資や多額の運行経費が見込まれるとともに、輸送密度は沿線人口の減少などで札幌延伸開業時1493人(2018年度2144人)に減少。あらゆる手立てを講じても大幅な収支改善は見込めない状況といえる。将来にわたり小樽市、余市町、道の3者で鉄道を運行することは困難と考える(大意)」(並行在来線対策協議会による「地域交通の確保方策の確認事項」から)として、最終的に鉄道廃止・バス転換の結論にいたりました。

全線バス転換すれば初年度の営業赤字は1億円以下

前章で「山線を三セク転換すると、初年度営業赤字は22億8000万円」のデータを紹介しましたが、協議会資料には①長万部―小樽間全線をバス転換した場合、②長万部―余市間をバス転換し、余市―小樽間は三セク鉄道で残す場合――の2つのケースを想定した試算結果も示されました。

それによると、全線バス転換の場合の初年度赤字額は7000万円、長万部―余市間バス、余市―小樽間鉄道の場合は5億4000万円。財政事情が厳しい道や沿線市町が鉄道存続を断念したのはいたし方ないにしても、「日本の原風景が広がる山線を、三セク鉄道の観光列車で走ってみたかった」と思う鉄道ファンは少なくないでしょう。

三セク鉄道、バス、三セク鉄道+バスそれぞれのメリット・デメリット比較。経費面をのぞけば三セクで鉄道を維持するのがベターなようにも思えますが……(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)