東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、車掌が先頭車両に乗務する自動運転(自動化レベルGoA2.5)の実証試験を行うため、2023年4月より試験準備を進め、2025年度より営業運転終了後に実証試験を行うと発表しました。

目指す自動化レベル GoA2.5 とは?

今回の実験では、「自動化レベルGoA2.5」というレベルの自動運転システムの実現を目指します。通常時には GoA3 や GoA4 のように自動運転を行い、先頭車両の運転室に緊急停止などのために乗務員が乗車をするという形のものになります。列車の前頭に乗務するのが、【運転士】ではなく【係員】だという部分が「GoA2の半自動運転」とは異なり、「緊急停止操作等を行う【係員】付きの自動運転」と定義されています。【係員】は動力車操縦者運転免許を有しなくても良いとなっていますので、運転資格のない人でも一人で乗車ができると解釈できます。(国際電気標準会議の自動運転都市内軌道旅客輸送システムによる定義によります。)
つまり運転士がいなくても運行ができる本当の意味での「自動運転」は、この GoA2.5 より高いレベルのものとなります。

日本国内での自動運転の現状は?

ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、一部の新交通システムやモノレールにおいては、既に GoA3 や GoA4 といった自動化レベルで運行をしているものは存在します。これは、建設をする段階から「自動運転を前提に全線立体交差(踏切などが存在しない)」「スクリーン式ホームドア等を設置(人が誤ってホームから線路に侵入することが、ほぼできない構造になっている)」というものに限られています。(東京臨海新交通臨海線「ゆりかもめ」、神戸新交通「ポートライナー」など多数あります)しかしながら日本では、運転士の乗務を前提に建設された路線に関しては、まだ安全・安定輸送の観点から、自動運転は導入されていないということになります。(半自動運転という運転士の補助技術は、常に進歩をしてきています)

一般の鉄道の自動運転化は、もう少し先になるか

鉄道の自動運転に関して、鉄道を管轄する国土交通省では、「運転士や保守作業員等の確保、養成が困難となっており特に地方鉄道においては、係員不足が深刻な問題」と考えており、「 鉄道事業の維持等の面から、運転士の乗務しない自動運転の導入が求められている」としています。したがって、各鉄道会社にはできるだけ早く自動運転に関する技術を獲得して、運転士がいなくとも運行が可能な状況を作り出してほしいとは考えているようです。
ただし実際に現在立ちはだかっている問題点ついて「一般的な路線で自動運転する際の技術的要件の検討が必要」としており、「特に地方鉄道では、そのような大規模な設備投資をすること自体が困難であろう」とも考えているようです。
確かに一般的な路線に関しては、いくつもの踏切で一般の道路と交差をしており、各駅のホームにも「ホームドア」など人が列車と接触するのを避けるような設備を整備するのは、容易なことではありません。

現在の鉄道運行においては、濃霧などで前が見えない状況などでの運転士の負担をかなり軽減させるATC(Automatic Train Control、自動列車制御装置)という運転補助システムや、そのシステムをさらに発展させたATO(Automatic Train Operation、自動列車運転装置)という運転を半自動化したシステムがあり、運転間隔の調整や列車自体の走行・定点停止に関する制御などに関してはかなり高度な技術で運行されています。
難しいのは、それ以外の不慮の出来事、例えば「車が踏切に立ち入った」「ホームから人が落ちた」「線路の上に大きな倒木が落ちている」といった事項に対応する術は、まだ確立されていないというのが現実のようです。

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「地下鉄」だからこその可能性

「地下鉄」というのは、「地上を走行する一般の鉄道」と比較すると、少し異なる状況となっています。それぞれの路線の状況にもよりますが、地下を走行している限りは、「地下鉄」には地上を走行している車や人との接点となる踏切が存在しないのです。もちろん駅のホームは存在しますが、できる限り人が線路にアクセスできないように「ホームドア」や「全面を覆ってしまうタイプのホームドア」を設置することで、限りなく人と接触をしない状況を作り出すことができます。そういう意味では、ホームドアの設置が進むと、新交通システムなどに近い状況を作り出すことができるのではないかと考えられます。
もちろん最初から無人での運行を前提にしているわけではないのと、他にも様々な状況を検知して対応するためのシステムが必要だと思われるので、それほど簡単に自動運転システム化は可能ではないでしょうが、できるだけ早期での実現に期待したいと思います。
 

今回の東京メトロが目指すもの

東京メトロ 丸の内線新型車両 2000系

今回、東京メトロでは、「1991年の南北線開業以来改良を積み重ねてきた列車自動運転技術とワンマン運転の運行管理ノウハウ」と「2013年度から開発に着手し2024年度に丸ノ内線へ導入する無線式列車制御システム(CBTC)の技術」を組み合わせて、この自動運転の実現を目指すとのことです。

今回は、運転士ではなく車掌が列車の先頭車両に乗務する自動運転(自動化レベルGoA2.5)の実現を目指しており、車掌が先頭車両に乗務することにより、通常の車掌業務に加え、緊急停止の処置や駅間での急病人の発生など緊急事態に対しても従来通り適切に対応をするということが可能になるとしています。確かに、何かがあった際の乗客への対応を考えると、乗務している係員がいるという状況は安心ではあります。

東京メトロは、10年を超えるワンマン運転の運行実績がありCBTCを導入する「丸ノ内線」を導入目標路線にすると発表しています。「丸の内線」は、基本的には人と交差する踏切が無い路線ですし、ホームドアの設置も既に進んでいますので、早めに自動運転が実現する可能性は高いのではないかと、個人的には考えています。東京メトロでは、丸ノ内線の他にも有楽町線、南北線、副都心線と千代田線の一部(北綾瀬~綾瀬駅間3両編成列車)では、既に GoA2 に該当する運転士でのワンマン運転を実現しているため、こられの路線では早めの実現を目指すものと考えられます。

「2023年4月から実証試験に用いる車両の仕様検討、自動列車運転装置(ATO)の高機能化に取り組んでまいります。」とのことですので、その後の2025年からの試験運転などを見守っていきたいと思います。

K.K

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(写真:東京メトロ、 参考:2022年・国土交通省「鉄道における自動運転技術検討会」資料)