関東の大手私鉄・小田急電鉄は、新宿を基点に小田原・箱根、江の島、多摩方面へ路線網を展開し、通勤・通学からロマンスカーによる観光輸送までを担っています。同社が発表した「2024年度 駅別1日平均乗降人員」データからは、西口の大規模な再開発が進む新宿駅の存在感や、登戸・下北沢といった人気エリアの勢い、そしてアフターコロナにおける鉄道利用の回復傾向が見えてきました。本記事では、最新の乗降人員ランキングとともに、数字が示す小田急沿線の「今」を読み解きます。

小田急乗降人員と新宿再開発

まずは、小田急線全線の全70駅の乗降人員数の、2024年度(2024年4月~2025年3月まで)のランキングから見てみましょう。

【全体ベスト20(1日平均乗降人員)】
1位 新宿 450,952人
2位 代々木上原 269,075人
3位 町田 258,628人
4位 登戸 161,191人
5位 藤沢 159,683人
6位 海老名 136,007人
7位 本厚木 127,031人
8位 下北沢駅 121,505人
9位 相模大野 117,415人
10位 新百合ヶ丘 114,816人
11位 大和 112,087人
12位 中央林間 91,179人
13位 湘南台 87,215人
14位 経堂 82,232人
15位 成城学園前 80,513人
16位 鶴川 60,371人
17位 向ヶ丘遊園 57,254人
18位 小田原 56,969人
19位 千歳船橋 55,873人
20位 小田急相模原 52,578人

小田原線では、ターミナルの新宿駅が1日45万人を超える乗降人員を記録し、同社最大の拠点として通勤・通学から観光まで幅広い需要を支えています。
海老名駅も大型商業施設「ららぽーと海老名」などの効果で利用者が増え、13万人を突破しています。

【全体ワースト5(1日平均乗降人員)】
1位 足柄 3,561人
2位 南新宿 3,926人
3位 螢田 5,617人
4位 富水 6,485人
5位 栢山 7,177人

利用者数を少ない順に並べると、南新宿駅以外は、足柄や螢田など、小田原線の終点、小田原の手前にある駅がワーストに入っています。

注目!前年からの「増加率」ランキング ベスト5

前年からの増加率は、単なる利用者数ではなく「今勢いのある駅」を示す指標です。2024年度は、前年比+2.5~3%の増加となる駅が多い結果となる中、増加率(パーセント)が高い駅が以下でした。

前年からの「増加率」ベスト5、周辺再開発の影響が
1位 東北沢 +5.7% 地下化後の街並み整備が進む
2位 黒川 +5.1% 多摩線、開発が進むエリア
2位 豪徳寺 +5.1% 招き猫で外国人観光客にも人気
4位 小田急多摩センター +5.0% テーマパーク・商業需要の回復
5位 代々木上原 +4.7% 根強い人気と千代田線接続輸送人員の推移

東北沢は駅周辺での開発が行われました。代々木上原駅は東京メトロ千代田線方面へのアクセス利便性の高さから、前年比4.7%増と数字を伸ばしました。
ランキング外の注目駅として、登戸(+3.8%)や向ヶ丘遊園(+4.4%)なども伸びました。登戸駅~向ヶ丘遊園駅では大規模な区画整理事業が進行中のため、道路整備や新しい商業施設やマンションが建設されたことで、エリア全体の居住人口が増加していると考えられます。また、向ケ丘遊園跡地の約16万平米では、小田急電鉄による、商業施設や温浴施設、自然体験エリアなどの整備事業が、2026年2月に着工、2030年3月完成で進められる予定です。

世界最大のターミナル「新宿駅」周辺で進む再開発

JR東日本、京王、小田急、東京メトロ、都営地下鉄の5社局が乗り入れる新宿駅は、1日平均約300万人が利用し、ギネス世界記録にも認定される国内最大のターミナルです。その中心部を担う西口エリアの再整備は、同時並行で進む複数の再開発とも連動し、街の姿を大きく変えていく局面に入りつつあります。

再開発前の新宿西口駅前広場

新宿駅周辺では大規模な再整備が進んでいます。小田急百貨店本館跡地を中心に進む「新宿駅西口地区開発計画」では、地上48階建ての超高層ビルを建設、2029年度の竣工を目指しています。オフィスや商業施設、駅機能、歩行者デッキを一体的に配置し、「新宿グランドターミナル」構想の要となるプロジェクトです。複雑だった駅周辺の動線が整理されれば、ターミナルとしての受け皿が広がり、乗降人員が一段と増えるとみられています。

【参考】小田急と東京メトロの新宿駅西口再開発で東急不動産が新規事業パートナー候補に 3社体制で「新宿グランドターミナル」実現(※2022年2月掲載記事) https://tetsudo-ch.com/12182471.html

小田急が手がけるB街区では地上8階・地下2階の新商業施設と改札整備、A街区では3社共同による48階建ての複合高層棟建設が進み、いずれも2029年度の完成を予定しています。この再開発を機に、人の流れがどのように変化していくのか、今後に注目です。

小田急・東京メトロ・東急が進める新宿駅西口開発の完成イメージ(画像:小田急電鉄)

西口駅前広場の導線も大きく変革

東京都も2025年7月4日、新宿駅西口駅前広場の車両・歩行者動線を抜本的に見直す再整備計画を発表しました。2025年9月末から本格的な改修に入り、世界最多の利用者数を誇る新宿駅周辺を「人中心の都市空間」へと再構築するとしています。改修後は、西口駅前広場を南北に通り抜けていた一般車の走行が不可となる一方、う回ルートや一時退避スペースを整えることで交通滞留を抑える方針です。歩行者の利便性は大きく向上し、これまで小田急HALCや京王百貨店側まで迂回していた西新宿方面への移動が直進で可能になります。新設デッキや吹き抜け構造により、車道と歩行者導線が完全分離され、安全性向上も期待されています。

西口駅前広場のイメージ (東京都・都市計画の素案より)

「ロマンスカー」が担う観光への効果

小田急電鉄の特急「ロマンスカー」は、新宿と箱根湯本、それに江の島方面を結ぶ列車として親しまれており、観光シーズンの週末を中心に、座席指定が満席となる列車も少なくありません。現在は、展望席を備えた最新型「GSE(70000形)」をはじめ、「EXE」「EXEα」「MSE」の4形式が運行され、平日朝夕の通勤特急としての利用やや、都心部から小田原・箱根を結ぶ観光利用まで、幅広い役割を担っています。

このうち、GSEは前面の大型ガラスや、車体側面に設けられた連続窓が特徴で、沿線の景色をより広く楽しめる設計となっています。また、東京メトロ千代田線に乗り入れる「MSE」は、平日は大手町方面へのビジネス需要、休日は箱根や江の島へ向かう観光需要を支える存在です。
EXEとEXEαの両車両は座席数が多く、外観や内装の改良が進められていて、さまざまな特急列車の基幹として活躍しています。

ロマンスカーMSE (写真:PIXTA)

ロマンスカーは、朝の通勤時間帯に運行される「モーニングウェイ」、夕夜間の「ホームウェイ」に加え、「はこね」「えのしま」「ふじさん」など、合わせて11種類の列車が設定されています。停車駅や運行区間は列車によって異なり、ビジネスと観光の双方に対応できるダイヤとなっています。
小田原線の下り方面では、箱根湯本を中心に観光需要が堅調で、年間を通して外国人観光客の姿も目立ちます。箱根温泉や芦ノ湖方面へ向かう玄関口としての役割が大きく、行楽シーズンには特急列車の利用が一段と増える傾向が続いています。

11月には2029年3月就役予定の新型ロマンスカーについても発表しており、引退した人気車両「VSE」の後継として期待が寄せられています。

【参考】 小田急の新型ロマンスカーは「淡い水色の車体」に 展望席も設置、開発コンセプトは「きらめき走れ、ロマンスカー」  https://tetsudo-ch.com/13016471.html

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