大栄橋から見下ろしたJR大宮総合車両センターにはE131系とE231系が入場していました(筆者撮影)

北海道岩見沢、新潟県新津、京都府福知山、福岡県小倉……。ベテラン鉄道ファンの皆さまなら、こうした地名を聞いて一つの共通項が思い浮かぶかもしれません。

いずれも国鉄時代、鉄道工場をはじめとする地域を代表する現場機関があった「鉄道のまち」。折々に発信される新型車両や車両改造、移動などの話題がファンをザワつかせました。

関東エリアを代表する鉄道のまちが埼玉県大宮。大宮駅北側の旧国鉄大宮工場では多くのSLやELが検修を受け、その役目は現在もJR東日本大宮総合車両センターに引き継がれます。鉄道の栄光の歴史を地域振興につなげようと、さいたま市とJR東日本は「鉄道のまち大宮」と銘打ったPR作戦を繰り広げます

鉄道のまち大宮の取材機会を探していたところ、JR東日本グループの駅ビル会社・ルミネから届いたのが「JR大宮駅東口に街ナカ商業施設『ムスブルミネ』が開業します」の情報。2025年11月13日の開業に先立つ同6日の内覧会を取材後、駅周辺をぐるり一周して〝鉄の風景〟を探しました。

木造2階建の飲食店ビル

商業施設とはひと味違う落ち着きを感じさせる「ムスブルミネ」(筆者撮影)

新宿や横浜で駅ビルを展開するルミネ。大宮でも1960年代から商業ビルを営業します。初期の名は大宮ステーションビル。現在は「ルミネ1」と「同2」を運営します。

そこに加わった第3の施設・ムスブルミネ。しかしルミネ1、2のような駅ビルではありません。

所在地は駅東⼝前の⼀⽅通⾏路を50メートルほど北⽅向に進んだ道路沿いです。周辺には飲⾷店や雑貨店が建ち並び、常に活気にあふれます。

施設は木造2階建てで延べ床199平方メートル。1階がカフェ、2階がレストランで、1階では産地直送の野菜販売も。埼⽟県は全国トップクラスの農業県です。

ルミネはムスブルミネで「街ナカ」を名乗りますが、駅からは離れるものの実はJR東日本用地。かつて地元・埼玉の百貨店がありましたが、閉店後の跡地にルミネが飲食店を開設したというのが全体の流れです。

四季島の食の生みの親がプロデュース

食へのこだわりを熱く語る杉山さん。食の著書もあります(筆者撮影)

ムスブルミネの生みの親のお一人が、プロデューサーで料理家の杉山絵美さん。内覧会で鉄道とのつながりをうかがったところ、興味深い話を聞けました。

杉山さん、2017年にデビューしたJR東日本の豪華観光列車「TRAIN SUITE 四季島」プロジェクトに食のアドバイザーとして加わったそう。四季島の食は「東日本の旬」がテーマ。旬の食材を使った料理が並びます。

四季島とムスブルミネのコンセプトは共通。「素材の良さを味わってもらえれば……」と話してくれました。

カフェとレストランを運営するのは、地元・さいたま市に本社を置く飲食店運営会社。JR東日本系のホテルメトロポリタンさいたま新都心で、寿司店営業の実績を持ちます。既存の人気店を新店舗に迎える。ルミネはなかなか商売上手ですね。

大宮駅開業は1885年

大宮駅東口には「鉄道のまち大宮」の横断幕が(筆者撮影)

ムスブルミネ取材後、駅周辺を一周しました。ルポに移る前に、鉄道のまち大宮の誕生秘話(?)を一席。明治の昔、鉄道建設ルートで東海道と中山道の引き合いがあったことは広く知られます。

中山道推しの理由は、「東海道は蒸気船の往来が盛んで、鉄道の必要性はそれほど高くない」。一理ありですが、結局は東海道優先になりました。鉄道ルートで一悶着(もんちゃく)あるのは昔も今も変わりません。

東京から北に向かう鉄道は私鉄の日本鉄道の手で建設され、日本鉄道第一区線(上野~高崎)、同第二区線(大宮~宇都宮)の分岐駅が大宮です。

第一区線開業は1883年(上野~熊谷、翌年高崎まで開通)。2年後の1885年3月に大宮駅が誕生しました。大宮には1894年、大宮工場が誕生。守備範囲は当初の客車、貨車からSLに広がり、鉄道のまち大宮の発展基盤が整いました。

住みたい街で2位に

2025年は大宮駅開業140周年。駅の交通結節点としての役割は今も変わらず、東北新幹線、上越新幹線、宇都宮線(東北線)、高崎線(両線区の愛称名=上野東京ライン、湘南新宿ライン)、京浜東北線、埼京線、川越線、東武アーバンパークライン、ニューシャトル(埼玉新都市交通)と多くの路線が乗り入れます。

大宮はSUUMOの2025年の住みたい街(駅)ランキング首都圏版で、横浜に次ぐ第2位。東京(駅)にも、新宿にも、渋谷にも乗り換えなしで行ける便利さが、大宮人気の大きな理由なのは間違いないところでしょう。

大栄橋で電車ウォッチング

ムスブルミネのある大宮駅東口から西口に向かいます。駅近隣の撮り鉄スポットといえば駅北側の大栄(たいえい)橋。まちの東西を結びます。1961年に線路をまたぐ陸橋が架設されました。

ただし大栄橋から高架上を走る新幹線はほぼ見えませんし、目の細かい柵(金網)でカメラは構えにくいのですが、それでも珍しい列車を見られるチャンスも。

筆者は大栄橋東詰で東武アーバンパークライン、西詰で大宮総合車両センターに入庫中の電車を撮影して駅西口に回りました。

JR在来線と並んで大宮駅に入線する東武アーバンパークライン8000系電車。東武は昭和初期の1929年に総武鉄道野田線(最初期は北総鉄道。現在の同名鉄道とは別会社です)として大宮に延伸しました(筆者撮影)
大栄橋西詰を急カーブで曲がるニューシャトルは、鉄博アクセスでファンにおなじみ。東北・上越新幹線で分断されることになった沿線への配慮で1983年に開業。高架線で一部橋脚は新幹線と共用されます(筆者撮影)

今月22日に「鉄道ふれあいフェア」

最後に鉄道ファン向け情報。さいたま市とJR東日本大宮支社は2025年11月22日、「鉄道のまち大宮・鉄道ふれあいフェア」を開催します。

大宮総合車両センター、西口まちなか、東口まちなか・大宮駅構内の3会場で、総合車両センターは有料(JRE MALLチケットでの事前購入制)。E257系試乗会、205系車両展示などがアナウンスされます。

大宮駅東西自由通路の掲示では、駅近隣の鉄道スポットが案内されます。SL・C12が静態保存される山丸公園、200系新幹線車輪のモニュメントが展示される駅西口のショッピングセンターなど、鉄道博物館の帰りに訪れてみるのもアリかもしれません。

記事:上里夏生