リケジョにメカ好き、メディカル派、ITエンジニア志望…埼玉工業大学に高校生たちが集結する理由
JR東日本エリアの駅別乗車人員で400位以下、1日乗車人員3227人(2017年度)の駅、岡部。この高崎線の小さな駅に、この夏、大勢の高校生たちが通い続けた。
日曜日の駅前には、全国各地から理系女子(リケジョ)、メカ好き、ITエンジニアやメディカル系やケミカル系の研究・開発分野をめざす男女らの行列ができる。
彼らがめざすのは、埼玉工業大学のオープンキャンパス―――。
工学部の機械工学科、生命環境化学科、情報システム学科、人間社会学部の情報社会学科、心理学科と、2学部5学科で構成するこの大学に、いまなぜ高校生たちが注目するか。オープンキャンパス最終日のメディア公開に参加してみた。
トレンドの最先端を突っ走る――情報システム学科
埼玉工業大学の最新トピックスは、情報システム学科に2019年4月、AI専攻が新設されること。
AIを活用した自動運転が社会的にも注目され、家庭内には Google アシスタント やAlexa(Amazon)、Siri(Apple)、Clova(LINE)といったクラウド型AI(人工知能)を搭載したAIスピーカーが入り込んできた。
こうしたAI時代のトレンドを追いかけるように、ITエンジニア志向の高校生たちが情報システム学科をめざしてやってくる。
また埼玉工業大学は昨年、国内外の大手自動車メーカーとともに、私立大学唯一の参加機関として、自動運転の公道の実証実験を始動。
これをきっかけに、「自動運転の先端を大学で学び、将来につなげたい」というリケジョ、ITエンジニア志望者が増えている。
酷暑レベルのこの日、渡部大志教授と研究員たちが待つ自動運転体験エリアに、ひとりのリケジョ(トップ画像)。
自動運転をリアル体験した彼女は、「めったに体験できない無人運転に実際に乗れてうれしいっ。クルマの近未来を見たような感覚」と興奮。
オープンキャンパスで自動運転車を実際に体験試乗できる事例は、全国の大学でも唯一ここだけ。
渡部教授は、「2020年にはデプロイするでしょうね。そんな最先端の自動運転、開発プロセスに関われるから、これからも埼玉工業大学に注目して」と彼女に伝えていた。
そして、2枚めの画像、よーく見て。まんなかの女子が手にしているのは、ウェハ。半導体基板を手にしてこの笑顔。
このウェハー女子も、リケジョ。ウェハを手鏡にして気になる前髪をチラチラするあたりが、情報システム学科らしい。「えっ!? ウェハでしませんか、こういうこと。フツーにやるけど」……。
エンジニア的思考ができる経営者を――情報社会学科
「将来、プログラミングとマーケティングを学んで、営業もエンジニアも、どっちも横断できる人になりたい」―――そんな想いを、教授にぶつけるリケジョがいた。
こちらは旧来の文系理系という隔てを最も感じさせない学科。情報社会学科 経営システム専攻 小寺昇二教授のブース。
「インターネットビジネスが社会を変える」というテーマで、コンサルタントとして第一線で活躍していたビジネス経験をもつ小寺教授が、世界をけん引するテクノロジー企業と、そのリーダーのトレンドを紹介。
GoogleやAmazonのこれまでの成長の共通点について「こうした企業のリーダーはもともと、エンジニア出身が多く、その後に経営者としてのスキルを身につけていった」と語ると、そのリケジョは「うんうん」とうなづいて、「プログラミングも経営もできる人材にないたいです」と返していた。
また、同大学の情報社会学科は、経営システム専攻とメディア文化専攻の2本柱。
メディア専攻では、CG作品のメイキング、アニメ映画制作といった、ゲームクリエイターなど目指すクリエーティブ分野の体験に高校生の注目が集まった。
IoTやCAEとともに――機械工学科
そして、ドヤ顔で画像に収まるこちらは、工業系大学の真骨頂。ものづくりの基礎を支える歴史あるエンジニア養成コース、機械工学科。
夏のオープンキャンパスでは、長谷亜欄准教授のトライボロジーをテーマにした同学科ブースに注目が集まる。
トライボロジーとは、「潤滑、摩擦、摩耗、焼付き、軸受設計を含めた相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術」(日本トライボロジー学会)。
長谷准教授は、「職人技の金属加工をデータ化し、センシングによってより高品質のプロダクトを生み出す技術を紹介したい」と、またドヤ顔で丁寧に教えてくれた。
「こうした工作機械をはじめとするトライボロジー分野は、IoTやAIで監視し、さらにコンピューターシミュレーションを重ね合わせることで、これまでにない高品質なプロダクトをつくりだす可能性がある。AIに対応して情報システム学科と連携した研究・開発もすすんでいる」とも。
化学・生物大好きっ子が集う――生命環境化学科
こちらは、いわゆるバケガク/化学と生物から拡張する分野。今回のオープンキャンパスでは、本郷照久准教授がリードする環境材料化学研究の「二酸化炭素の固定化方法」などに高校生は注目。
「化学が好き」という高校生に、モデルと化学反応式を示しながら、研究室の男子学生、女子学生、そして本郷准教授がいっしょになって、とてもわかりやすくレクチャー。
高校のいつもの化学・生物の授業にはない、大学の研究分野といった雰囲気を体感していたようす。
メンタルケアの即戦力養成も――心理学科
そして、最後の学科は心理学科。いま心理学分野は公認心理師という国家資格がトレンド。
臨床心理の分野で活躍したいという高校生の想いと、その親は公認心理師の資格がとれるという充実した教育カリキュラムに、「いいかもね!」「チャレンジしてみれば」となるらしい。
いま心理学科を受験する人たちのトレンドについて、社会臨床心理学が専門の友田貴子教授は「もちろん、臨床心理の分野で活躍したいという人が多いけど、企業や団体が積極的に取り組み始めたメンタルケアの現場で仕事をしていきたいという人も増えている。だから、民間企業からのニーズも高まり、企業へ就職するケースも増加傾向にある」と教えてくれた。
―――これまで、埼玉工業大学のオープンキャンパスを取材してきて感じたのは、「従来の大学にあった、受け入れ方や営み方とは違うアプローチで、ライブ感を常に体感しながら運営しているんだ……と。
たとえば、学生食堂。オープンキャンパスの時間も開放して、その間、現役学生がアテンドしてくれる。このチームワーク感、同じ大学にいる感が、意外と刺激的。
取材していてよく聞こえてきた言葉は、高校生もその親たちも、「先生との距離感が近くて、大学とは思えないほど」ってなコメント。
4流の国立大学をかろうじて卒業した、記者も、同じ想いを感じた。「大学って、こんなに楽しかったっけ?」「工業大学ってカターいイメージだったけどと、ぜんぜん違った」とね。