京急空港線が地下を行き、地上を東京モノレールが走る、羽田空港第3ターミナル駅。

コロナショック以降、搭乗ゲートの電光掲示板には、欠航の文字が連なり、旅人の姿が消え、不気味なほどに静まり返った羽田空港第3ターミナル。そこに調査員の声が響く―――。

「はい正着ーっ」「計測します。285ミリ!」

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これ、内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のなかのひとつ、「羽田空港地域における自動運転の実証実験」。

この日は、埼玉工業大学の生きた教材として進化し続ける自動運転AIバスが、自動運転バスの実現可能性をみすえた“タッチアンドトライ”に繰り返し挑んでいた。

今回は、羽田空港 第3ターミナルに仮設した、バス乗降用プラットホーム(仮設バス停)に、自動運転バスが、どれぐらいの精度で自動でアプローチできるか、仮設バス停にどれぐらいの誤差幅で自動で到着・停止できるかなどを計測。

埼玉工業大学の自動運転AIバスは、羽田空港第3ターミナルと東京モノレール・京急空港線 天空橋駅付近を結ぶ8の字コースなどをほぼ自動(レベル3)で走り、仮設バス停1か所に50回を超える正着テストを重ねていた。

仮設バス停の停車位置に誤差3ミリ以内!

内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の実証実験に、私立大学で唯一2期連続で参加している埼玉工業大学。

その自動運転AIバス(日野 リエッセ II ベース)は、これまで兵庫県佐用町 SPring-8 や、愛知県南知多町 日間賀島など、全国各地で路線バス事業者や自動運転システム系企業などといっしょに実証実験を積んだ実験車。

今回の羽田空港実証実験で埼玉工業大学 自動運転AIバスは、磁気マーカーやITS無線路側機を活用した公共車両優先システム(PTPS:Public Transportation Priority Systems)などを何度も試験走行。

関係者が注目した点がもうひとつ。この埼玉工業大学 自動運転AIバスは、インフラ側に整備したこうした磁気マーカーなどに頼らず、あくまで LiDAR(レーザー・レーダー)やGPS・GNSS(衛星からの位置情報)、カメラ画像解析を基本とする後付けタイプ自動運転システム(レベル3)だけで正着制御試験に挑んだこと。

こうした条件下で埼玉工業大学 自動運転AIバスは、仮設バス停の停車位置に誤差3ミリ以内で自動で正着させみせ、関係者を驚かせた。

運行設計領域 ODD を広げられる可能性と再現性を確認

計測員が、仮設バス停ホーム端と自動運転AIバスの乗降ステップの間の距離を測ると、その距離、289、289、285、290、288、285、292、286、289、291ミリ……という数字を何度も出しながら、埼玉工業大学 自動運転AIバスは仮設バス停に繰り返しとめてみせた。

「われわれの自動運転AIバスは、標準偏差(誤差)2.6ミリで停止位置に止まれるように設定している。だから、290ミリはあくまで設定された距離で、バスのステップとホームの間をもっと縮めようと思えば縮められる。今回は、反復計測した結果、想定していた誤差内でほぼ収まっていることに一定の評価が得られたし、あらためて再現性を確認している」

そう語るのは、埼玉工業大学 自動運転システム開発をまとめる同大学工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)。

「運転負荷が少なくなれば、既存の高齢ドライバーも、新たにドライバーになろうという人にも、バス運行のハードルが下がる。自動運転が入り込むとドライバーの仕事が奪われるというイメージとは逆」

「仮設バス停の決められた停止位置にぴたっと自動で正着してくれれば、ドライバーの運転負荷が軽減するし、さらには運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)を広げられる」(埼工大 渡部教授)

―――大学の生きた教材として誕生し、全国各地の試験走行現場で進化をみせてくれる埼玉工業大学 自動運転AIバス。同大学の後付け自動運転システムは、新しいフェーズへとステップアップし、こんどは八ッ場ダムで動き出した水陸両用バスの自動化などにむけても開発をすすめていく。

<内閣府> 羽田空港地域における自動運転の実証実験を開始
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20200605sipjidounten.html

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