もちろんクレーンなどの大型建設機械も活躍しますが、人海戦術も欠かせないのが鉄道プロジェクトです(画像はJR東日本YouTu部の高尾駅線路切り換え動画からキャプチャしたもの)

乗り鉄、撮り鉄、模型鉄、音鉄と広がり続ける鉄道の楽しみ方。最近ファンを増やしているのが鉄道動画の鑑賞です。YouTubeにはプロアマ問わず、鉄道をテーマにした動画があふれます。そんな〝動画鉄(?)〟の皆様にお勧めしたいのが「JR東日本YouTu部」。

JR東日本には公式チャンネルもありますが、YouTu部が取り上げるのは鉄道プロジェクト。チャンネルにアップされるのは、中央線グリーン車導入に向けた高尾駅の線路切り換え工事から、社員のランチ(お弁当)まで多種多彩な約70本です。鉄道を深く知ったり、「JR社員も普通の人!」とびっくりしたりと、さまざまな感想が寄せられそうです。

JR東日本YouTu部は、土木学会の「土木広報大賞2023」で映像・メディア部門の優秀部門賞を受賞。表彰セレモニーが2024年2月26日、東京・四谷の学会本部で開かれました。会場で〝JRユーチューバー〟に、動画に託す思いや編集の苦心談などを聞きました。

鉄道会社の受賞は初めて

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最初に土木広報大賞とは? 2018年に始まった、建設会社(ゼネコン)の広報部門などを対象にした表彰制度で、2年前の前回は鉄道建設・運輸施設整備機構(JRTT)と鉄建建設が準部門賞を受賞。本サイトでも紹介させていただきました。鉄道会社の受賞は、今回のJR東日本が初めてです。

JR東日本YouTu部は、もちろん社員の部活にはあらず。その正体は、「JR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(略称は東京建設PMO)」のPR活動。東京建設PMOは2022年6月の全社機構改革で誕生しました。

組織改正前のネーミングは「東京工事事務所(東工所)」。明治年間にルーツを持つ、首都圏中心に鉄道路線整備や改良を担当してきた専門セクションです。

YouTu部を始めたのは2021年。最初はプロジェクト紹介など一般的な中身でしたが、東京建設PMOになって動画も一段レベルアップしました。

セレモニーでのYouTu部プレゼンのトップ画面。駅名標の駅名が「目黒」と「五反田」になっているのは、東京建設PMOのオフィスが品川区西五反田にあるためです(筆者撮影)

高尾駅の線路切り換えを追う

動画制作の苦心談などは後段に回し、お勧め動画を見ましょう。チャンネルトップに表示されるのは、「線路切換に挑むJR東日本社員密着ドキュメンタリー『挑戦の物語vol.1』」。2023年10月20~22日に実施された、高尾駅の線路切り換えを映像で追いました。

ここではネタバレになる工事の模様ではなく、副読本として「JR中央線グリーン車サービス」のアウトラインをご案内します。

当初、2020年度を予定していたE233系電車グリーン車サービスの開始時期は、2回の遅れがアナウンスされ、現在は2024年度末スタートが見込まれています。

グリーン車の運行区間は、中央快速線東京~大月間と青梅線立川~青梅間(いずれも車両や列車種別で限定されます)。グリーン車は東京方から4、5両目に組み込まれ、1編成10両から12両に増えます。新製するグリーン車114両。メーカーはJR東日本グループの総合車両製作所(J-TREC)で、画像も公開されています。

YouTu部のイントロは、「ぜひエンドロールまで見てください!」。制作に携わったメンバーの熱い思いがあふれます。

撮影はもちろん動画編集もDIY

話をYouTu部に戻して、セレモニー会場で東京建設PMO企画戦略ユニットの西山洋輔さんと、同席した同ユニット・マネージャーの岡本健太郎さんに話を聞きました。

YouTu部は、通常5~10人のメンバーで活動します。専業でないため、制作・編集会議などはなし。日常の仕事の合間をぬって、主にLINEで情報交換します。

動画を見ると分かりますが、映像はいい意味で演出を感じさせないアマチュアリズム満載。一部動画で時に気になるカメラブレなどはなく、安心して視聴できます。

専門スキルが必要な動画編集もDIY。土木と映像、ジャンルは全然違いますが、同じ技術として共通性もあるようです。沿線の学校とのコラボ動画など、タイアップ企画にも挑戦します。

「鉄道業界を志望先に」

YouTu部には、プロジェクト紹介と別の狙いもあります。「同じ鉄道でも、電車や駅は普段から人目に触れる機会が多くあります。ところが土木は、働くのが夜中だったりするので、どんな仕事をしているのかイメージをつかみにくい。大規模プロジェクトの裏側を知ってもらうことで、学生の皆さんが鉄道業界を志望先する動機付けになれば……」と西山さん。

鉄道プロジェクトは、事業期間10~20年が当たり前。携わったプロジェクトは100年後にも現役です。「歴史に残る仕事」というわけです。

さらに、プロジェクトの先には鉄道利用客がいるのですが、日常そのことを感じる機会は多くありません。ところがYouTube動画だと、チャンネル登録者数や動画再生総時間で人気が分かります。ニュアンスは異なるかもしれませんが、YouTu部は東京建設PMOにとって「ダイレクトマーケティング」の一面も持つようです。

「鉄道に詳しい方から、鉄道を知らない方まで、多くの皆さんに楽しくご覧いただける動画を考えたい。『YouTu部を見て鉄道業界を志しました』、そんな後輩が仲間に加わってくれれば、これほどうれしいことはありません」(西山さん)

「テレビドキュメントの素材に最適」

最後に、選考委員の講評とYouTu部のこれから。

セレモニーで講評を述べたのは、テレビ局でインフラプロジェクト番組制作に携わったキャリアを持つ平原由三枝さん。

「YouTu部動画を見た番組制作者は、必ず多くのアイディアが浮かぶはず。セリフは字幕併記で、編集しやすいのも高評価のポイント。画像の権利関係がクリアなのも、使いやすい点です」とプロの目で高評価しました。

平原選考委員(右)から賞状と記念のたてを受ける東京建設PMOの西山さん(左)(筆者撮影)

当初、チャンネル登録者数687人・動画再生総時間576時間でスタートしたYouTu部。現在は1万1550人、4万4126時間にファンを増やしました。2024年の目標は登録者数1万5000人。最後にメッセージをお願いしたら、帰ってきたのはYouTubeでよく見るこのフレーズでした。「チャンネル登録、よろしくお願いします!」

記事:上里夏生

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