JRや大手私鉄を含む鉄道事業者、学識経験者、関係団体、研究機関、省庁関係者、鉄道局からなる「鉄道用地外からの災害対応検討会」は、電気・通信・道路など他分野の制度事例や鉄道事業での課題を整理・検討し、「鉄道用地外からの災害リスクへの提言」をまとめた。

今回の提言は、鉄道施設に障害をおよぼすおそれがあり、かつ、やむを得ないときに、「樹木の伐採などを可能とする制度」や、「災害発生後の早期復旧にむけた鉄道用地外を一時的に使用できる制度」の検討、「鉄道用地外からのリスク評価」「地権者との円滑な関係づくりなどの取り組み」をさらにすすめていくべきことなどを示した。

倒木による輸送障害の事例

隣接した鉄道用地外で、強風などにより倒木の可能性のある樹木(危険木)があるのを確認した鉄道事業者は、この区域内の樹木伐採について土地所有者と協議。

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この危険木区域では、土地所有者との関係づくりがうまくいっていなかったこともあり、両者の間で協議が成立せず、土地所有者による伐採も、鉄道事業者による伐採も同意が得られなかった。

その後、危険木が倒れ、輸送障害が発生。地権者と鉄道事業者との間にあつれきが生じている場合もあり、協議にすら応じてもらえないケースもある。

災害復旧時、隣接地を一時使用できない事例

災害発生後の応急復旧時、早期運転再開のため、一時的に鉄道用地外を使用して重機などを搬入し、復旧工事を行おうとした。

しかし、その鉄道用地外の土地所有者から一時使用の理解が得られなかった。そのため、当該土地をう回し、線路側から作業員が現場に入ることになり、重機などの搬入も困難となったことから、復旧工事を手作業で実施せざるを得ず、運転再開に時間がかかった。

法的根拠がない鉄道事業、法制度の実現へむけて提言

こうした事前対策として用地外の措置・権限、応急復旧での用地外土地の一時使用などについて、電気は電気事業法で、通信は電気通信事業法で、道路は道路法で対策が打てる法がある。いっぽうで、鉄道事業には法的根拠がないという。

「鉄道用地外からの災害対応検討会」は、これら課題を整理し、次のような3点を提言した。

法制度としての実現にむけ検討をすすめるべき2点。

◆(1)樹木伐採など

沿線の樹木で鉄道施設に障害をおよぼすおそれがあり、かつ、やむを得ないときに、該当する樹木などの伐採や移植が可能となれば、安全・安定輸送に対するリスクを大きく減らせると考えられる。

電気事業法や電気通信事業法にあるような、やむを得ない場合に限って樹木の伐採または移植ができる制度について、鉄道においても法制度の実現にむけてさらに検討すべきである。

◆(2)鉄道用地外への立ち入り、一時使用など

災害発生後の鉄道の早期復旧のためには、一定の要件下で鉄道用地外を一時的に使用し、資材置場や作業ヤードとして使用できる仕組みが必要と考えられるため、鉄道においても電気事業法や電気通信事業法と同様に法制度の実現にむけて検討すべきである。

◆(3)土石の処分など

沿線の土石についても一定の要件下で鉄道用地内への流入を防ぐ措置が法的に位置づけられれば、災害リスクへの事前の対応が可能になると考えられる。

公物の法令、例えば道路法44条では、沿道区域を指定したうえで処分することが可能となっている。

いっぽうで、電気事業法や電気通信事業法には土石の処分などに関する規定がないことを踏まえ、慎重な検討が必要であり、継続して法制度の実現にむけて、課題を整理していくべきである。